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14 最強魔法、三連発




 ロッタに襲いかかるスライム種のモンスター。

 とっさにホルスターから銃を抜き、銃口を向けて引き金を引き、ファイアボールを発射。

 火炎弾が炸裂し、スライムは炎の中で蒸発した。


「どうした!?」


「今の、何事!?」


 銃声と炎の炸裂音に、エルダや星斗会の面々も異常に気付く。


「スライム系のモンスターです! ビンが、多分投げ込まれて……!」


 ロッタが答える間にも、あちこちでビンの割れる音が聞こえる。

 誰かが投げ入れているのか、周囲を見回しても人影は見当たらない。


「コイツはユニオンスライム。小さな欠片から急速な細胞分裂で急成長、さらに仲間と結合を繰り返す厄介なモンスター。危険度は単体なら☆2、結合した場合☆5相当」


「タリス、解説御苦労さま! 副会長、タリスとウィンと手分けして、こいつらを投げ込んだ犯人を探して! わたしはここで——」


 投げ込まれた大量のユニオンスライムが急成長と結合を繰り返し、十メートル級の個体が四体、闘技場をバウンドする。


「先生と一緒に、こいつらを倒す!」


「的確な指示だ、さすが星斗会長」


 エルダとアリサが剣を抜き放ち、スライムに挑みかかる。

 他のメンバーは観客席へと走り、犯人の捜索へ。


「あ、あたしは!?」


「後衛らしく遠くに離れて、大人しく魔法でも唱えてなさい!」


「こ、後衛らしく、って……」


 少し、ムカついた。

 確かにアリサは強いが、自分だって。


「もう怒った。今のあたしの本気、アリサに見せてやるから。その後同じセリフ吐いてみやがれってんだ」


 このスライム、全部まとめて焼き尽くしてやる。

 ロッタは魔力を集中し、最強魔法の詠唱に入った。


「大気に満ち満ちる炎の精霊たちよ、我が声に耳を傾けたまえ——」


 アリサの剣は、持ち主の意思に従って形や大きさを変える。

 巨大な柱のように姿を変えた刀身を、巨大スライムに思いっきり打ち下ろした。


 ドパァァァァン!


 水が破裂するような音と共に、十メートル級のスライムのうちの一体が、五メートル級二体に分割される。


「我が欲せしは業火の鉄槌、我が前に立ちはだかる其の一切を灰燼かいじんと化せ」


 詠唱に必要な時間は通常の半分。

 丁度よく収まるように調整して、詠唱を短縮するロッタ。


 前線では、分裂した五メートル級の一体にエルダが斬りかかった。

 目に見えないほどの速度で乱撃を浴びせ、巨体はみるみる細切れに変わっていき、再生不能な大きさまで微塵に刻まれる。


 一方のアリサも、剣を細身の形状に変更。

 速度を最大限に活かして細切れにしようとするが。


「ドルトヴァング、右だ!」


 エルダの声にとっさに右を向くと、巨大スライムが一体、アリサを押しつぶそうと飛びかかって来ていた。


「くっ……!」


 背後に飛び退くアリサ。

 五メートル級が下敷きとなり、巨大スライムと同化。

 十五メートル級のユニオンスライムが誕生してしまう。


顕現けんげんせよ、紅蓮の赫炎かくえん!」


 詠唱は完了し、全身に炎の魔力が漲った。


「二人とも、退いてっ!」


 合図を送り、両手を前にかざす。

 ロッタの指示を聞かず戦おうとするアリサの首根っこをエルダが掴み、射線上から退避。

 巨大スライム三体、全てまとめて葬り去る。

 最も大きなスライムに照準を定め、ロッタは高らかに叫んだ。


大火送葬グラン・クリメイション!」


 極太の火柱が、十五メートル級の全身を丸ごと飲み込む。

 凄まじい熱波が吹き荒れる中、ロッタは標的を次のスライムに変更。


「もう一発!!」


 呼子よぶこの帽子の効果で、最強の火炎魔法が続けざまに発動。

 残る一体の足元から火柱が吹き上がる。

 最後に、ホルスターから銃を引き抜き、大火送葬グラン・クリメイションの込められた弾を装填。

 銃口を残る一体に向け、引き金を引いた。


「これで、最後っ!!」


 銃口から放たれた魔力がスライムに命中、雲まで届くほどの火柱が三本並ぶ。

 三体のスライムは、全身を焼き尽くされて蒸発。

 火柱が消え去れば、もはや敵は跡形も残らない。


「……こんな、ことって」


 アリサは、目の前の光景が信じられなかった。

 彼女だけではない、星斗会のメンバー、教師であるエルダも。

 この場にいる全員の視線がロッタ一人に注がれている。


「は、ははは……。最強の火炎魔法を三連発だぁ? あんなの校長にだって出来るかどうかだぞ……」


 魔法の連発、それだけでもあり得ないのに、最上級火炎魔法を三連発。

 エルダは顔を引きつらせて笑うしかない。


 一方、ホルスターにマジカルマスケットを納めたロッタ。

 彼女は闘技場から遠ざかっていく魔力を感じ取った。


 詠唱で魔力が研ぎ澄まされたからなのか、それとも魔法力が上昇しているからなのか。

 ともかく、魔力の持ち主が闘技場から逃げていることだけは確かだ。


「逃がさない! ジェットブルームっ!」


 髪飾りを外し、ほうきに変身させる。

 浮かせて飛び乗り、速度を調節して発進。

 上空高くに舞い上がり、逃げていく豆粒のような人影を発見すると、一直線に突っ込んだ。


「お前が犯人かぁぁぁぁぁっ!!!」


「ひ、ひいいぃぃぃぃぃぃっ!!!」


 ロッタの怒号に振り向いたのは細身の中年男性。

 なんだか見覚えがある気がするが、構わない。

 スピードに乗って突撃し、背中に激突、盛大に轢き飛ばした。


「あぎゃっ」


 潰れたカエルのような声を上げながら、地面をゴロゴロと転がる男性。

 ジェットブルームを停止させ、気絶してしまった彼の顔をよく見れば。


「……ピエール先生?」


 懐を探ってみると、ユニオンスライムの欠片が入ったビンを発見。

 こうして、スライム襲撃の犯人があっさりと確定した。



 ☆★☆★☆



 縄で縛られたピエールが、闘技場のど真ん中に座らされる。

 その周囲を囲む星斗会ステラクイントの面々。

 教員であるエルダが代表して、彼に質問、という名の尋問を開始した。


「ピエール教諭。我々にユニオンスライムをけしかけたのは一体どういう理由か、納得のいく答えを期待しているよ」


「ちょ、ちょっと縄を緩めてくれませんかな? 食い込んで痛いのですが」


「返答によっては考えてやる」


「う、むぅっ、その、マドリアードさんの力を確かめたかったのですよ」


「あ、あたしの力……?」


 思わぬ答えに、ロッタは自分を指さした。


「そう。あなたが本当に、学院に眠る秘宝の力を手に入れたのか。確かめたかったのです……」




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