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きゅう

「ねぇ、いーじゃん?お金はウチらが出すからさぁ、一緒に行こうよ~」


 え?何のお誘い?


 この近くにある“水際”って言われてる女子高の生徒を引き連れて(?)()はそこに居た。

 手に持っているのは“シェービングフォーム”

 あ、生えるんだ―――って、当たり前か。


 綺麗に染めた茶髪をゆるくウエーブして、バッチリメイクした女の子達は、しな垂れかかるようにしながら彼に話し掛けているけど、彼の方は完全無視だ。


 二度あることは三度ある―――とは言うけど、無くても良くね?

 三十六計逃げるに如かず!

 ヤツが棚の方に向いていて気付かないうちに撤退しよう!!


 そう思って、じり―――と後退った、のに。


 商品を籠に入れた彼が顔を上げて、バッチリ、目が合ってしまった。


 ―――し、しまった!


 視線を逸らすことも出来ず、メデューサに睨まれたかのごとく、反射的に固まってしまう。


 まさか、とは思う。タダの偶然だよ、ね?

 だから頼む、そのままどっか行っちゃって!


 心の中でだらだらとイヤな汗を掻いているのに、彼は私を見て一瞬目を見開いた後、何故か、そうホントに何故か不意に、ニッコリ、と微笑みかけてきたのだ!

 その破壊力ときたら!

 顔に熱が集まるのを感じて、咄嗟に逃げだそうと思ったのに、こっちが踵を返すより早く、彼が歩いて寄ってきた。


「良かった、会えないかと思った。」


 ―――はい?!


 意味が分からず、目を剥いて彼を見上げると、彼がしいっと言うように、人差し指を唇の前に立てた。

 そして向こうへ―――さっきの彼女達の方へ振り向くと、私を背後に隠すように立つ。


「悪いけど、連れがいるから。」

「ええ~っっ」


 つまり、私をタテにしようって事かい?

 コソッと影から覗き込むと、気付いた彼女達がギロッとこっちを睨み付けたので、慌てて彼の背中に隠れる。


 ちょっと~、これ後で何かヘンな事に巻き込まれたりしない?


 そう思うものの、彼女達の前に出て行く勇気も湧かず、そのまま隠れていると、「つまんな~」と言いながら、彼女達が立ち去る気配がした。

 ふう…と彼が息を付く。

 見上げると、肩越しにこっちを見下ろしてきた。

 やっぱりイケメンだと思う、けど、ちょっと眉尻が垂れてるのが情けないカンジがして、思わず頰が緩んだ。

 彼はちょっと驚いた様に目を見開いた後、すぐに視線を逸らして、大きな手の平で口許を隠した。


「…悪かった」


 ん?タテにしたことかな?


「おモテになるんですね。」


 そう言うと、彼が嫌そうに顔を顰めたので、また笑ってしまった。ここでニヤリとかしたら多分引いたと思うんだけど、モテても嬉しくないんだと思ったら、ちょっと気が楽になった。


「昨日、助けて貰ったから、チャラでいいですよ。」


 そう言って歩き出すと、何故か彼がついてくる。


「悪いんだけど、もう少し一緒にいいか?」


 ああ…そうか、そうかも。

 さっきのコ達、しつこそうだったもんな~。

 あれ、そう言えば…と彼を見上げた。


「今日は眼鏡してないんですね?」

「昨日は外すの忘れてたんだ。図書館寄ってきてて。」

「図書館…?」


 それはつまり、学校帰りって事?

 んん?一体、何時に学校終わってんの?


「その制服って、成陵…なんですよね?学校は…」

「今はテスト中だから。」

「テスト?!」


 テスト中―――って、まさか定期テスト?

 でも今は6月だよ?

 中間には遅いし、期末には早くない?

 疑問が顔に出たのか、彼が苦笑した。


「うちは2学期制なんだよ。前期の中間が6月で、期末は9月にある。」

「あ、あ~、それで!」


 なる程、謎が解けた!

 身近に2学期制の所に通ってる人がいないから思いつかなかった。そっか、2学期制か~!なあんだ~!

 思わずオッサンみたいに腕を組んで、1人うんうんと納得していたら、彼が怪訝な顔で見下ろしてきたので、慌てて取り繕う様にえへへ…と笑う。


「2学期制って事は、秋休みがあるんですか?」


 噂に聞いて、休みが多いのは羨ましいな~と思ったから聞いたのだけど、彼は大して面白くも無さそうな顔になった。


「あるにはあるけど、部活やってるからあんまり関係ないな。」

「部活…スポーツ系ですか?」


 確かに体育会系の部活は休み無しだもんなぁ…と思いながら聞いてみる。特に深い意味は無かったのだけど、何故か、彼が立ち止まった。

 あれ、聞いちゃいけなかったのかな?

 見上げると、彼はどこか遠くを見ていた。

 ん?何だろう?

 視線の先を追って、お店の窓の向こうを見るけど、普通に人が歩いてるだけで、特に何も無い気がする。

 首を傾げていると、彼が不意に私の持っていた籠を取り上げた。


「一緒に払うよ。」

「えっ?!いや、何で?」


 大きなストライドで歩き出した彼の後を追う。

 払ってもらう意味がわからない。


「さっきのは、昨日ので」

「悪いけど、もう少し頼む。」

「ええっ?! いや、それでもっ」


 何とか籠を奪い返そうとした私の肩を、彼が掴んで引き寄せた。ギョッとする私の顔の近くに、彼が顔を寄せる。


「昨日のヤツがいた。」

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