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ろく

「あれ…?」


 レイちゃんの声に、読んでいた本から顔を上げた。

 お母さんと一緒に遊びに来たレイちゃんち。

 最近頑張ってローン組んで買ったというマンションは、2LDKで、一人暮らしには十分過ぎる広さ…らしい。子供なので良くわかんないけど。


 お母さんとレイちゃんは5つ違いだけどすごく仲が良い。本人達に言わせると、仲良くなったのは学校を卒業してかららしいけど、私はその頃を知らないから、二人は大の仲良しに見えてて、ちょっと羨ましかった。

 だって、弟なんて生意気なだけでちっとも可愛くないもん。

 妹が欲しいって言ったら、もう無理って言われたけど。


 コースケ()はお母さんがレイちゃんちに行く時は、いつも家で留守番してる。二人がずっと、どうでもいい話ばっかりするから退屈なのだ。

 私も楽しいわけじゃ無いけど、レイちゃんちに行く時、お母さんは決まって美味しいという噂のスウィーツを買って持って行くから、それが楽しみなのでついて行く。

 もちろん、買ってる事はお父さんとコースケには内緒。


 今日も今日とて、季節限定の“紫芋のモンブラン”を食べて満足したところで、学校の図書館で借りてきた本を取り出した所だった。


 小中学生向けと書かれた文庫のミステリーで、塾で仲良くなった小学生の少年達が後から入ってきた女の子と一緒に、ちょっとした事件を解決していくシリーズだ。


 出てくる男の子達はみんな、頭が良くて運動神経抜群!

 カッコいいその子達は最初、その女の子の事をバカにして爪弾きにしてたんだけど、成り行きで一緒に行動していくうちにその子の事を認めて好きになっていくのだ。

 このシリーズ、事件を解決していく課程も面白いけど、女の子が性格も見た目も様々な男の子達の誰を好きになるのかが気になって、今、クラスの女の子達の中で流行ってるんだ。

 私の一押しは眼鏡の高杉君なんだけど、主人公になかなか気付いてもらえなくって可哀想なんだよね~。

 で、予約していた最新刊が、やっと自分の順番になったので、今日読もうと思って持ってきたんだけど。


「ゴメン、ちょっと見せて…“中目黒少年探偵メモ”? 原作、藤井ひそかぁ?! うっそ、マジで?」


 私の本を手に取り、表紙をマジマジと見つめたレイちゃんが叫んだ。





「えっと…30年位前に、子供向け?なのかな、そういうジャンル的なものがあったらしい、んです。」


 気持ちテンパってたかもしれない。

 彼にしてみても、「ジュニア小説ってなんぞや?」とかは別に思ってなかったかもしれないのに、なんでか一生懸命説明してしまったのは、やっぱりこの人の顔のせいじゃないかと思う。

 写真撮って見せたら、リコがさぞかし喜ぶだろうなぁ…何て、顔には全く出さなかった(つもりだ)けど。


「レイちゃ…伯母さんが、好きで読んでたものが、最近になってリメイクされてて、それがきっかけで読み始めたというか。まぁ、元のは廃版になってるんでなかなか手に入らないんですけどね。」

「ふーん…」


 相槌は打ってくれてるけど、興味は無さそう…まぁ当然か。

 それでも、さっきのヤツみたいにバカにしたカンジは全く無い。

 そもそも、見ず知らずの私を助けてくれる位だ。

 見た目だけじゃなく、中身もイケメンだな!スバラシイ!

 

「ホントに、ありがとうございました!」


 心からの感謝を込めて、勢い良く45度に頭を下げた。最敬礼だ。

 いやホントに助かったと、満面の笑顔で顔を上げると、彼が苦虫を噛み潰したような顔になっている。はて?


「あんた、部活とかやってんのか?」

「へ?…いいえ?」


 いきなり何の脈絡もなく聞かれて首をかしげる。

 中学の時は全員強制的にしないといけなかったけど、高校は自由だもの!

 ホントは、校則で禁止されてなければバイトがしたいんだけどね~、こればっかりは仕方ない。

 クラウドソーシングで、家で出来るものでも探すかな~?とかも思ってるから、基本授業の後は家かレイちゃんちに直行だ。


「…さっきのヤツは、初対面か?」

「は?…はぁ、もちろんですけど?」


 んん?何なんだろう?

 ますます訳が分からない私の前で、彼が思案げに顎に手をやっている。

 そういう姿も様になるなぁ…と眺めている内に、レイちゃんちの駅名がアナウンスされた。


「あ、じゃあ、私はここで…」


 失礼します、と告げるより先に、開いたドアから彼が降りた。


 え―――?


 ホームで立ち止まり、振り向いた彼と目が合った、その時。

 強い既視感を感じて立ち止まった。


 あ―――、と。


 そうだ、この顔は、昨日――――――


 呆然と目を見開いた私の目の前で。

 ドアが、タンッ―――と、音を立てて閉じた。

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