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Other than ③(4/18修正)

チョコでお腹は壊さないですよね…

 その日は朝からソワソワしてた。


 家を出る前に言われたからだ。

 学校でチョコもらっても、家帰るまで食べないのよ!と。

 そういや、毎年何かもらってたな。ひなから。


『あたしとシズルからだよ。』


 てことは、今年はシズルが持ってくるんだろうか。

 そう思ったら、何かドキドキした。


 帰り際に5,6年生の先輩達からもらったチョコを家でちょっとだけ食べてから、着替えて練習の為に学校へ戻る。

 練習は学年もチームも関係なく全員一緒だったからシズルも当然いて、そんなかでも、今日はやけに視界に入ってくるなと思いながら、いつもより必死にメニューをこなした。

 コーチが日曜日の紅白戦の話してる間も、早く終われとそればっか願いながら。

 なのに、練習が終わるとすぐ、着替えもせずにシズルは帰ろうとしてたから、慌てて後を追っかけた。


「シズルっっ」


 振り向いたシズルは、こっちを見て驚いたように目を大きく見開いた。

 シズルは日に焼けて色黒だったし、髪も短いけど、目は割と大きくて、睫毛が長い。よく男に間違えられるって言ってるけど、全然男には見えなかった。


 てか、こんな顔してたっけ?

 真っ正面から顔見たの、どのぐらい振りだろう。


 何となく顔見れなくて、無意識に顔を背けた。

 「ん」とだけ言って、手を出す。


「…? 何?」


 シズルが首を傾げた。

 あれ、チョコは?明日バレンタインだろ?

 するとシズルが呆れた顔になった。


「無いよ。“ひな”じゃないんだから。」

「ええ~っ」


 思わず叫んでた。

 楽しみにしてたのに!と思わず言ったら、シズルが今度は困り顔になる。どうやらあれは“ひな”が1人で作って、勝手に配ってただけだったらしい。


「シズルは作れねぇの?」

「…作れなくは、ない、けど…」

「! じゃあ、ちょーだいっ!」


 食い気味に言ったら、シズルが一瞬、固まった。


 あれ、だめ?


 するとシズルが、ふっ、と笑った。

 しょうがないなぁ…と、口にした訳じゃないけど、そう言ったみたいな。

 へにょり、と眉を下げたその顔は、ゴールが決まった瞬間に見せるヤッター!!てのじゃ無くって。


 何かふわっと、ていうか、そんなカンジで、何でかわかんないけど、ドキッとした。


「わかった、いいよ。」


 でも、日曜日でいい?と聞かれたけど、正直、あんま聞こえてなかった。うんって、言ったとは思う。

 そのまま背中を向けたシズルを見送ってたら、後ろから背中をどつかれて、ハッとなった。

 振り向くと、何でか4年が全員集まってる。

 多分、チョコ期待してたんだと思う。


「何だよ~、シズルはチョコ作ってなかったんじゃん。」

「ひなに作らせて、デカい顔してたってか。」

「まあ、シズルに手作りとか無理っぽいよな~」


 言えた~っと大笑いするヤツらにムッとする。


「今、作れるって言ってただろ。」

「言っただけじゃん?ぜーったい無理!」

「多分、食ったら腹こわす!」


 こえ~っっと言った河田に、ほぼ全員が笑った。

 確かにシズルが食べ物作るトコなんて、想像はつかないけど。そう思ってたら、トーゴがニヤニヤ笑いながら言った。


「賭けねぇ?」

「賭け?」

「シズルがチョコ作ってくるかどうか。俺はゴメン無理って言ってくると思う。」

「あ、俺も俺も!」


 俺も~って、声ばっかで、スゲー腹立つ。

 そもそも、お前らの分なんか頼んでねぇのに。


「大地は?作ってくる方?」

「は?」

「作ってきたら食えよ?真っ黒焦げでも!」

「そーそー、歯ぁガキッてなってもな!」

「ちょっ、何で」

「だって、全員“作らない”じゃ、賭けになんねぇじゃん!」


 そう言って、また大笑いする。

 歯ぁガキッて、食えねぇじゃん…どんなんだよ?

 流石に不安になった。


 そして結局、帰り道でも、トーゴ達に色々吹き込まれた。


 チョコは焦げ茶色だから、焦げてても食ってみないとわかんないとか。とーさんが腹こわしてトイレに籠もった時スゴかったとか。


 そのせいで、日曜日には、シズルが作って来なかったらいいのに…と思うようになってた。自分から頼んだのに。


 なのにシズルは、律儀に作ってきた。

 シズルの性格なら、それは当然の事で。

 せめて2人っきりの時にすりゃ良かったのに、全員が集合してる所で、“それ”を渡してきた。

 まあまあの大きさの紙袋。4年全員分なのが一目でわかって、俺は固まった。途端、


 “ぶっ、ぶ―――っっ!!!”


 背後で大げさに吹き出したのは誰だったのか。

 それを合図に、近くにいたほぼ全員が笑い出した。


「ウケる~っっ、マジで作ってきた!」

「一応、女子ですってか?!」

「大地~、お前が言い出したんだから、責任持って全部食えよ!」


 皆の声に、頭ん中が真っ白になる。

 次の瞬間、カッ―――と顔が熱くなった。


「何でだよっっ!! 俺1人で全部とかっ、罰ゲームじゃねぇんだからっっ!!」


 気が付いたら叫んでた。

 それで、トーゴ達も調子ん乗った。

 色々、酷いこと言ってた、と思う。

 でも、全然記憶に残ってない。


 気が付いたら、親とか、コーチとかやって来て、頭べしって叩かれた。シズルのお母さんがスゴイ顔で、ウチの親とかがペコペコ謝ってて、でも。


 シズルは、泣かなかった。


 元々ひなみたいに常時ニコニコしてるヤツじゃなかったけど、その時は完全にムヒョージョーで。

 そして、何も言わなかった。


 フツー、女子だったら泣くんじゃね?

 後でトーゴが言ってた。


 だから、そのまま。

 一応、コーチに言われるまま、すんませんでしたっっと全員一列でシズルに頭は下げたけど。


 シズルはやっぱり、何も言わないまま、そしてムヒョージョーのまま、紅白戦の試合が始まった。


 やっぱり、センターで、バック。

 いつもの通り、全体を見ながら、ピッチに立ってた。

 いつもの通り、だと、多分誰もが思ってた。


 ゼロゼロのまま、前半が終わろうとしていた、その時だった。


 大きく蹴り上げられたボールが、シズルの所に落ちて。

 いつものシズルだったら、大っきくワンバンしたそれを、上手く胸でトラップしてたに違いない。


 でも、そのボールは、胸より上。


 シズルの“顔”を直撃した。


 普段だったら笑うとこだ。でも、誰も笑えなかった。

 見てた親達がハッと息を呑んで、シズルが顔を押さえて蹲るのを見た先輩が、ボールを外に蹴り出した。


 ベンチに戻ってきたシズルに、シズルの母さんがタオルを渡して、シズルが顔を押さえる。

 鼻血出たんじゃ…と思って近くに言ったら、シズルの母さんに睨まれて、それ以上近付けなくなった。

 シズルはそのまま、交代して家に帰った。


 そしてそのまま、クラブを辞めた。



 その話を聞いて直ぐ、シズルの所に行った。


 だって知ってたから。

 シズルが、サッカーすんの好きだって事を。


 でも、廊下歩いてたシズルを見つけて、声をかけた時。

 振り向いたシズルの顔を見て、何も言えなくなった。


 シズルはあの時と同じムヒョージョーだった。

 何も言えない俺を、ちょっとの間、黙ったまんま見て。

 そのまま、何にも言わずに背中を向けた。


 なんかが胸ん中で膨らんで、大きく息を吸ったけど、それはなかなか治まらなくて。そしてそれは、そのままずっと、自分の中に残り続けてた。



 ―――もし、と思う。


 もし、あの時。

 シズルが泣いていたら。


 そしたら、土下座して謝り倒してた。


 ゴメン、悪かった!

 全部食うから、だから、


 また、あの時みたいに―――




 許してもらうチャンスを逃したんだと、気付いたときには遅かった。


 シズルは中学も学区外に行った。

 卒業式でそれを知って、何でって、聞こうと思ったけど、ダメだった。

 呼びかけて、振り向いたシズルは。


 髪が伸びて、色も白くなって、でもシズルだったのに。


 やっぱり、同じ顔で言った。


 “どうでもいい”―――って。


 言われて泣きそうんなった。

 パシンッて、シャットダウンされたみたいな、そんなカンジで。



 ギュッと握ってから、手の平を開く。

 考えてみたら、シズルの手を握った事、無かったな。


 小っこくて、細くって。

 柔らかかった。


 思い出して、また、ギュッと手を握りしめた、その時。



 ジリリリリーンッッッ


 けたたましい音が鳴り響く。

 着メロのいいのが思いつかなくて、“昔懐かし黒電話”にしてるけど、やっぱ代えた方がいいかも。


 そんな事を思いながら、取り出したスマホに表示された文字は、“シノ”。


 さっきのメッセージ読んだんだな。

 内心ほくそ笑みながら、通話をタップする。



『ちょっとアンタ、ウチの子どうしたの?!』



 一瞬、頭が真っ白になった。

時列の関係で、電話をかけてきた相手を変更しました。

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