表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/39

 自分家(じぶんち)の最寄り駅より、2つ手前で電車を降りた。


 ここの駅は駅前がバスターミナルになっていて、近くにお店も結構あったりと便利な立地だ。

 駅舎を出てすぐのコンビニに入り、端末を操作して荷物を受け取る。ついでに飲み物と軽くつまめるお菓子を購入すれば準備は万端!

 鼻歌を我慢しながら(怪しい人になっちゃうからね!)、歩いて五分の距離にある、瀟洒なマンションに入った。


 風除室にある集合インターホンに暗証番号を入れて、エントランス入り口のロックを解除する。

 御影石の敷かれたホールを抜けて、エレベーターのボタンを押してから、さっき受け取って小脇に抱えたダンボールを両手で持ってじっくりと見つめた。


 ふっふっふ~、楽しみ~!


 この「漫画家せりな」シリーズは、藤井先生のジュニア小説デビュー作だ。

 最初はそれほどでもなかったのに、毎回ごとに出てくる美少年(笑)キャラ達にファンが付き、ファンブックまで出版される程の人気を博したらしい。


「ぶっちゃけ、美少年はどうでもいいんだけどさ~、基本ミステリーで面白かったんだよね~。」


 そう教えてくれたのは、このマンションに住んでいる―――というか、この3月まで住んでいた伯母の“レイちゃん”だ。

 彼女はバブルのしっぽに掴まるように(レイちゃん談)、結構大手の建設会社に勤めている。大学を出て総合職で入った彼女は、45にして初めて海外赴任が決まり、現在ベトナムに行っていた。


「あっちに永住する訳じゃ無いし、荷物もあるからね~、時々顔出して換気しといてくんない?」


 という訳で、しょっちゅう入り浸っている(笑)のだけど、本棚の中身が、だいぶ私のモノになってきているのはご愛敬だ。

 ちょっと予定外な事で時間取られちゃったけど、2時間ぐらいはまったり出来るかな?なんて思ったところで、ポンッとエレベーターの到着音が鳴った。


 上機嫌なままで顔を上げるのと、エレベーターの扉が開くのが同時で、エレベーターに乗っていた人物と、逸らす間もなくバッチリ目が合ってしまった。


 若い男―――高校生(同じくらい)かな?


 最近の若者がそろいもそろってやってる、所謂マッシュルームカットってやつで、重めの前髪が軽く目に掛かっている―――その目が微かに眇められたのを見て、自分が彼の正面に立って行く手を塞いでいることに気がついた。

 慌てて脇に避けるも、彼はすれ違いざまちらっとこっちを見る。


 そんなに怒んなくても…まあ確かにガン見しちゃったけどさぁ…


 軽く肩を竦めながらエレベーターに乗り込み、向き直ってボタンを押す。顔を上げると、エントランスを歩いていくほっそりとした後ろ姿が目に入った。


 綺麗な顔―――だったと思う。一瞬見とれちゃったぐらい。

 くっきりとした二重のアーモンド型の瞳に、すっと通った鼻筋。丁度いい大きさで少し薄めの唇が、ちょっと甘めの顔立ちを引き締めてた。

 ゆったりとした七分袖のサマーセーターから覗く腕は意外にも筋肉質で、背中も広いのに、黒いスキニーパンツを履いた足はすっきりとしている。


 後ろ姿までイケメンとか、すげー…なんてしげしげと見つめていたのがマズかった、かもしれない。


 もう少しで閉まる、その直前に。

 不意に、彼が振り向いたのだ。


 うぉっ…やばっ―――と焦ったのは一瞬。

 すぐに閉まってくれたドアのこっちで、ふーっと息をついた。

 テメー何ガンつけてんだよ?とか言われなくて良かった、うん。

 いや、だって多分、競馬場で腕組んで顎なでながら、どの馬買おうかな~なんて思案中のおっさんみたくなってた自信ある。


 今まで見たことないけど、ここの住人じゃないといいなぁ…と。


 殊勝(?)な事を思ったのはその時だけで。

 部屋に入ってレイちゃんお気に入りの、居心地の良いソファに陣取り、2時間どころか、夜9時を過ぎて『アンタ何やってんの?!』という母からのお怒りメッセージが届く頃には、その彼の事は、私の頭の中から綺麗サッパリ消え去っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ