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じゅうろく

 あっ、と、思う暇も無かった。


 身体が横向きに倒れ込んだ、次の瞬間。


 ―――ガンッッ!!


 こめかみに強い衝撃が走った。

 痛い―――体を丸めるようにしながら、顔の近くへ寄せた手に、ヒヤリとした感触。


 何だろう、これ…?

 ていうか、落ちた…?

 こめかみがズキズキと痛む。


 その時不意に、ジリリリリリリリ―――!!!というけたたましいベルの音が鳴り響いた。

 薄らと開けた視界の中に、ザッと敷石を鳴らしてスニーカーが降り立つ。


「大丈夫か?」


 言いながら近づいてきた気配が、ハッと息を呑んだ。

 見上げようと動かした頭を、大きな手の平が掬うように持ち上げる。そのままぽふ、と、何かの布地に頰が埋まった。


 鼻腔を擽るシトラスの香りと、―――温もり?

 上げた視線の先に、覗き込む綺麗な顔を見て、ピキッと身体が強張った。

 えっ、何でっ?!


「ちょっと大人しくしててくれ。」


 頭を支える腕に背中ごと抱き込まれ、反対の腕がスカートを抑えるように太股を抱えて、次の瞬間、ふわり、と身体が宙に浮いた。


 えっ、えっ、え~っっ!!


 いわゆる姫抱っこじゃない、けど。


 後頭部を手の平で押さえ込まれてるおかげで顔は肩に埋まってるし、向き合った状態で彼の身体に体重を預けるようなカンジになってて、正直、密着度がハンパない。

 ていうか、これ、抱き締められてるのと変わりなくないっっ?!


 しかも、何?

 コノヒト見た目詐欺師?


 なんだ、この腕!

 なんだ、この胸!


 私なんで夏服なの!

 生地薄くて筋肉が~~っっ!!


「君、急いで。前の駅で停まってもらってるから、あっちの階段から上がって。」


 内心パニック状態の私の頭上から声がする。

 それに応じて彼が歩き出した。

 歩みにつれて身体が揺れる。

 それを抑えるように、更に腕に力がこもる。

 何て抜群の安定感!

 でも私の心臓が安定しなーい!!!


 思わず息を詰めていた私が呼吸困難に陥る寸前に、彼はホームに上がると、自動販売機隣のベンチに私を下ろしてくれた。

 ホッと息を付いたのもつかの間、直ぐ側に膝をついた彼が、顔を覗き込んでくる。

 ちっ、近いっっ!!


「気分はどうだ?吐き気とか…」


 言いながらこめかみに触れそうになるのを、反射的に避けようとした私は悪くないと思う!

 だって、心臓がバクバクと全力疾走した後みたいになってて、鼻息が荒いんだから!!

 頼むから、これ以上近付かないで!!!


「…血は止まったか?」

「えっ、血?…あっ!」


 思わず顔を上げると、彼のシャツの肩口が目に入った。

 赤い―――染みがっっ!!


「ご、ごめんなさいっっ、血が!」

「え?…ああ、別にいい「良くないですっっ」」


 どうしようっ!制服なのにっっ!

 思わず身を乗り出した。


「すみません!洗って返しますから!! それかっ、クリーニング代!」


 言いながら、お財布に今いくら入ってたっけ?と頭を巡らした瞬間、ズキッとこめかみが痛んだ。結構頭全体に響く。

 思わず顔を顰めると、彼が眉を下げて、近くに居た駅員さんに仰向いた。


「スミマセン、救急車呼んでもらえますか?」

「えっっ?!」

「ああ、そうだね。」


 救急車?!

 まさかの展開に焦った。


「だ、大丈夫ですっ!」


 駆けていこうとする駅員さんを止めようと慌てて立ち上がろうとして、彼に肩を押さえられる。


「何やってるんだ。」

「えっ、や、だって、救急車なんて…」

「あのな、頭打ってるんだぞ?傷だってちゃんと見てもらった方が良い。」

「でも、そんな大げさな…」


 思わずそう言うと、彼がジロリとこっちを睨んだ。


「大げさじゃないだろ?ホームから落ちたんだぞ。」

「そうだよ、“彼氏君”の言う通りだよ。」


 ―――ん? 今、なんて?


 はてなマークの私の前で、駅員さんがうんうんと頷いている。いやいや、ちょっと待って?


「とりあえず呼んでくるから、その間に親御さんに連絡出来るかな? 彼氏君が出来るんならそれでも…」

「あ、いや…」


 “彼”が何とも言えない顔をしている。

 うん、だよね。何か申し訳ない。


「あの、大丈夫です。それに彼氏じゃないし。」

「え、そうなの?」

「はい、“赤の他人”です。」


 間違いを訂正すると、駅員さんの目が丸くなった。


「えっ、あ、ええっ?…そうなの?」


 駅員さんが“彼”に問いかける。


「…そうですね。まあ、顔見知り、ですかね。」


 何だか不機嫌そうだ。目が半眼になってる。

 だよね~、助けた挙げ句に彼氏呼ばわりされたんじゃ、たまったもんじゃないよね。

 そう言えば、大地の事を知ってたし、知り合いぐらいではあったかも?だけど。少なくとも友達ではないし。


「あの、もう大丈夫なんで、行って下さい。ホントに、ありがとうございました。」


 これ以上お世話かけるのも申し訳ないと思ってそう言ったんだけど、何故だかジロリと睨まれてしまう。ええっなんで?

 なのに、駅員さんまで、そんな配慮をものともしなかった。


「あ、悪いんだけど、それは待ってくれる?線路に飛び降りるのは危険行為になるから…」

「えっ?!」


 その言葉に思わず腰を浮かせたら、また彼に押さえられる。

 あれ、怒ってるのに…意外…じゃなくて、今聞き捨てならない事を言われなかった?


「あの、まさか、何かお咎めが…?」

「ああ、それについてはちょっと注意する位だよ。ただ、事故だからね、鉄道警察から話を聞くことになるんだ。」

「ええっ」

「とりあえず救急車呼んでくるからね、じっとしてて。」


 そう言って駆けていく駅員さんを、呆然と見つめた。

 なんてこった―――思わず彼の顔を見ると、眉が寄っている。

 うう、だよね~っ。


「あの、ホントに…」


 ごめんなさいと言いかけたところで、彼がこっちを見た。


「アンタさっき、もしかして突き飛ばされたのか?」

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