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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1部:勇者リーズは帰らない
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披露

 朝早くから始まった追悼式典は、その参列者の多さから、太陽が頂点まで登った正午ごろになっても、その列が途絶えることがなかった。

 だが、その裏ではアーシェラを中心に前代未聞な催し物の準備が着々と進んでいた。


「フリッツ、盛り付けの用意はできてる?」

「は、はい村長! 数は多いですが、何とか頑張ります!」

「レスカさん、お皿の数は万全?」

「ああ、問題ない…………しかしなんだな、村長はこんな大変なことを毎日やってたのか……。人間ができる仕事量じゃないぞこれは」


 式典が開催されている陣地の一角にある簡易調理場で、アーシェラがフリッツとレスカ、それに何人かのかつての仲間に手伝ってもらいながら、調理に専念している。

 式典に参加している人の人数は1000人以上いるため、アーシェラ一人ではさすがに準備が間に合わない。それに、これから彼は式典の主役の一人になるので、しばらく作業ができなくなる。魔神王討伐の戦いの最中では、この4分の1以下とはいえ、一人で調理と並行しながら全部の雑用を仕切っていた。それを体験することになったレスカやフリッツをはじめとするメンバーは、控えめに言って地獄を見た。


「…………よしっ! ここまでやっておけば大丈夫! 後でほかの人にも手伝ってもらうように言うから、みんなもう少し頑張ってね」

「おうよ! 任せておけってんだ!」


 かつて2軍メンバーだった大柄の男に調理場を任せると、アーシェラはフリッツとレスカを伴って、蓋がされた巨大なお皿を、どこかへと運んで行った。


 そして、正午を過ぎたころ、勇者の丘がある西側の麓には大勢の人々が集まり始めていた。

 ひときわ高くなった壇上に設けられた簡素な席に、白いドレスで着飾ったリーズが何かを待つようにワクワクしながら座っているのが見える。

 彼女の左右には、王国風の雰囲気を排除した服装をしたエノーとロザリンデが控えており、緊張しながらもどこか和気あいあいとした雰囲気を醸し出している。

 そんな中、どこからかアーシェラがフリッツとレスカに先導されて人の波をかき分けてきた。


「シェラっ! 早く早くっ! リーズお腹空いたっ!」

「ふふっ、慌てないでも大丈夫だよ。リーズの為に、今日も気合入れて作ってきたからね」


 壇上に登ったアーシェラは、リーズの前に巨大なお皿を置くと、その場ですぐに蓋を取った。

 すると中からは暴力的ないい匂いと共に、出来立て熱々の巨大ハンバーグが姿を現した。その大きさは…………リーズの顔よりも一回り大きく、程よくついた焦げ目とアーシェラ特製のソースが、もはや芸術的ともいえる気品を現していた。


「さ、リーズ、召し上がれ」

「えっへへぇ~っ! シェラ、最初の一口は一緒に食べよ♪」


 巨大なハンバーグが、二人の手で握られた大きめのナイフで切り分けられると、衆目の前であるにもかかわらずフォークでお互いの口に入れてあげた。そのあとは、一部だけアーシェラが切り取って、残りはリーズが満面の笑みで食べ始めた。


「アーシェラが作った巨大ハンバーグ!? な、なんと圧倒的な存在感なのだ!?」

「もしかしてあれ、リーズさんが一人で食べるの!?」

「くっそ……なんて匂いだ! 腹が悲鳴を上げるっ!」

「ラブラブすぎるでしょあの二人…………なんか変な気分になるぅ」


 見たこともない巨大なハンバーグを、ラブラブな状態で、リーズがとてもとても美味しそうに食べる姿を見せつけられた参加者たちは、何が何やら意味が分からず、誰もが冷静さを保てなかった。

 さらに、フリッツとレスカの手によって、白パンやサラダ、それに鳥の串焼きが配られると、リーズの食欲はますます加速し、その凄まじい健啖ぶりに、いつしか周りの人たちは熱狂し始めた。


「おいおいおい! 自分より大きい肉の塊の大半を、あんな小さい体のどこにしまってるんだ?」

「な、なんかあんなに幸せそうに食べてもらえると、作ったアーシェラはもっと幸せだろうなぁ」


 アーシェラが作ったハンバーグは、途中で飽きないように中が三層になっているようで、食べ進めていくと途中で別のおいしさが味わえるようになっている。どのお肉も魔獣の肉を使っており、人類が魔獣を逆に食い尽くしてやると言う野心的な要素も見えるような気もする。

 付け合わせの白パンも文句ない出来で、脂っこい肉によく合う。


 周囲が固唾をのんで見守る中、リーズはわずか20分で巨大ハンバーグを見事完食した。

 大好きな人に作ってもらった料理を心行くまで堪能したリーズの笑顔は、人々に一生忘れられない思い出となることだろう。


「おいしかったっ! えっへへぇ、リーズはシェラと結婚出来て、本当に幸せっ♪」

「よかった、リーズ。これからもずっと傍にいるからね」


 とどめの惚気の言葉に、人々の熱気は最高潮に達した。

 さらに、二人が食べ終わったタイミングで、祝典に参加した人々にもあらかじめアーシェラが作っておいた、同じ料理の数々が昼食として配られることになった。

 さすがに、ハンバーグは顔より大きくはないものの、三種類の肉で作られた肉塊の食べ比べができ、人々の舌を楽しませた。魔神王討伐の苦しい戦いの中で、毎日人々に活力を提供したアーシェラの料理を久々に食べたメンバーたちは、その懐かしい味に歓喜の涙を流した。彼の料理は、まさにおふくろの味であった。

 

「ははは……なんだか凄いことになったな。みんなに楽しんでもらうのが、リーズとアーシェラなりの喜びだとしても、ここまでやると格式だとか儀礼だとか、バカバカしく思えてくる」

「今日ほど、平和な世界が戻ってよかったと思ったことはありません。皆さんとても晴れやかな笑顔ですね。亡くなったメンバーたちも、天の国から微笑ましく見てくれることでしょう」


 リーズとアーシェラの後ろに控えているエノーとロザリンデは、王国では見ることのできなかった、人々の心からの笑顔に、本当の幸せの形を見た。

 彼らの生活は未だ楽とは言えない。傷だらけになった世界は、これからも必死で修復していかなければならない。けれども、人々に希望がある限り、彼らは新しい幸せの形を作り上げていくに違いない。


「にしても、俺たちはいつになったら昼飯にありつけるんだろう? そろそろ限界なんだが」

「これもかつての所業の、天罰…………でしょうか?」


 新婚夫婦の警護という重大任務を任された二人は、この後しばらくの間お預けを食らい、拷問さながらの苦痛を味わうことになる。


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