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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1部:勇者リーズは帰らない
80/153

転変

 ボイヤールの話によると―――――まず、勇者様を送迎に行ったはずのリシャール公子が、いつの間にか帰ってきてると思ったら、邸宅に閉じこもったきり出てこなくなったそうだ。風土病に掛かって途中で帰ってきたという噂が流れているが……実際にボイヤールが確認したところ、リシャールはアーシェラに舌戦で敗れたせいで、精神に深刻なダメージを受けたのか、ベッドで寝たきりとなり、小声で意味不明な言葉をぶつぶつと呟いているらしい。

 リシャールの実家であるエライユ公爵家は、第3王子を支持しているため、

この醜聞は対立する第2王子セザール派にとって追い風となった。国王もひそかに、リーズが戻り次第彼女をセザールと結婚させると決めたという噂もあり、いまや第2王子はほとんど次期国王に内定したかのような状態になっている。

 ただし第3王子派も黙ってはいない。もともとセザールはその傲慢な態度が敵を作りやすく、彼を嫌う貴族たちは第3王子派につき、表面上は恋愛面で潔白とされる第3王子こそがリーズと婚約すべきと言って憚らない。しかもこの第3王子派には、貴族出身の1軍メンバーの殆どが味方しており、その対立は日に日に激化しているそうな。


「ま、さすがにこのバカらしい状況が、さすがにヤバイって気が付いた奴もポツポツ出始めてきたのも事実だ」


 王国から莫大な富と名誉を与えられ、その目を曇らされていた、元平民出身の1軍メンバーたちは、

勇者リーズがいなくなったことで熱狂から徐々に冷めてきていた。

 勇者リーズの栄光で誤魔化してきた重税に、王国民の不満は大いに高まっており、各都市の治安は大いに悪化していた。しかも、貴族たちは心の底で平民出身者らを見下しているのか、王国民の不満の抑え込みを彼らに丸投げしたのだ。こんなことをしていれば、彼らは面白くない。

 そんな元平民出身のメンバーたちに対し、グラントがひそかに手を回しており、表面上は第1王子派として結束することとなったのだった。


「ふふんっ! シェラをないがしろにして、リーズを嫌な奴と結婚させようとした罰ねっ!」

「それは僕も同感だよ。リーズをきちんと大切にしてあげてたら、こんなことにはならなかったのにね」


 リーズもアーシェラも、もはや王国への同情は一切感じなくなっていた。

 遠目から見ると、彼らは好き好んで崩壊に向けて進んでいるとしか思えないのだ。


「くっくっくっ、グラントもやればできるもんなんだな。もっともアーシェラ、お前には遠く及ばないがな」

「そんなこと言われましても……僕はできれば、そういった手段は使いたくないのですが」

「そうだよねっ! シェラを怒らせるのがいけないんだからっ!」


 アーシェラが対王国包囲網の基礎を形成したのも、リシャールを舌戦で憤死寸前まで追い込んだのも、全てはリーズを想うが故……。心優しく穏やかなアーシェラにとっては、権謀術数の類は大きな心の負担なのだから、世界一愛する人の為でもなければ、やる気すら起こらない。

 リーズを守る力があるのは嬉しいことだが、自分の嫌いな分野で褒められるのはあまり嬉しく感じない。


「そんなわけで、今王国はリーズを取り戻すどころの騒ぎじゃないから安心しな。まあ、中には無謀にも奪還に動く連中もいるだろうが、下手な準備じゃ旧街道も越えられん。もちろん油断しすぎはよくないが、今は距離の防壁の中でゆっくりしているといい」


 王国の醜悪な内ゲバ劇について話せて満足したのか、ボイヤールは二言三言話すと、さっさと帰っていってしまった。

 相変わらずの自分勝手ぶりに、リーズとアーシェラは呆れるほかなかったが、彼がとっとと立ち去ってくれたことで、再び花畑には穏やかな空気が戻ってきた。


「シェラ…………こんな心配をしなくてもいい日が来るといいね」

「僕もそう思うよ、リーズ」


 勇者として魔神王を討伐し、その後も大国の問題をたった一人で支えていたリーズと、かつてのパーティーメンバーを扇動して一致団結させ、王国以外の諸国をまとめて、その復興を加速させたアーシェラ。彼ら二人がそれぞれの能力をフル稼働していたら、もしかしたら後の歴史は大きく変わっていたかもしれない。

 だが、リーズもアーシェラも、ただ静かに幸せに過ごしたいだけなのだ。それすらも許されないと批判する権利が、いったい誰にあるというのか。


 再び二人きりになった花園で、無言で肩を寄せ合うリーズとアーシェラ。

 リーズは、アーシェラと結ばれてしばらくすると…………もう、自分が村に来て何日目かを数えるのをやめてしまった。リーズはこの先ずっとアーシェラの隣にいるのだから、そんなことを気にする必要がなくなったからだ。

 だが、偶然にもこの日は――――リーズが村に来てからちょうど100日目の節目の日だった。

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