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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1部:勇者リーズは帰らない
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周到

「ちょっとボイヤールっ! せっかくシェラに膝枕してもらってたのに、突然起こすなんてひどいよっ!」

「あの、せめてもう少し遠くから声をかけていただきたかったのですが」

「はっはっは、わりぃな、私は昔からこういう雰囲気を見ると、ぶち破りたくなる性分なんでな。ま、モテない男の僻みとでも思ってくれたまえ」


 甘々な雰囲気の中、せっかくアーシェラの膝を借りて幸せな気持ちに浸っていたリーズは、空気を読まずに突然現れたボイヤールに対し、猛烈に抗議をした。

 アーシェラも、かつて危機に手助けしてもらった手前強く言えないが、それでも困惑した表情を隠せない。

 しかし、ボイヤールはそんな二人の言葉も、どこ吹く風と平気で受け流す。


「今日はフリッツ坊やに用があって来たんだが、ついでに手紙を預かってるから、渡しておこうと思ってな。ふふふ、私もなんだか郵便屋業が板についてきたと思わないかい?」

「手紙だけなら、なにもフリッツ君に預けとけばよかったのに」

「まあそう言うなって。とにかく読んでみろよ」

 

 まだ旧カナケル王国があった時代は、旧街道沿いにはそれなりの数の宿場があって、今とは比べ物にならないくらい往来は楽だったのだが…………アーシェラの開拓村は、郵便屋ですらいちいち訪ねてくるのが面倒な土地であり、今の季節は旧街道を越えるのも命懸けだ。

 そこで、ボイヤールと親交がある人物たちは、事あるごとに彼にリーズとアーシェラへの手紙を託し、彼自身も気が乗らないながらも渋々引き受けている。まさに大魔道の無駄遣いと言えよう。

 だが今回、ボイヤールはなぜかノリノリでリーズに手紙を手渡した。


「あ……ロザリンデからだ!」


 リーズが便箋を開けると、中からとても丁寧な筆跡で書かれたロザリンデの手紙が出てきた。


『リーズへ

 ロザリンデです。お久しぶりですね、お元気ですか。

 私もエノーも、女神さまのご加護があり、無事に各地を巡っています。

 王国の大神殿以外の神殿を訪ねることのなかった私にとって、今回の旅はとても新鮮で、同時に学ぶべき事がとても多くあります。戦乱で親を失った子供たち、貧困で明日をも知れない人々、病気を治す薬や術が受けられない方々……救いを求める手はそこかしこにあるというのに、王国にいた私に彼らの声が届いていなかったのです。

 私とエノーの贖罪の旅はまだまだ続きますが、苦に思ったことは一日たりともありません。全てが終わった後も、私は各地を歩いて、救いの手を差し伸べていくつもりです。


 さて、早速本題に入りますが、グラントさんと何度か手紙で話し合ったところ、飛鷹の月 (※4月上旬ごろ)10日目に王国での謁見を行う手筈が付いたと連絡が有りました。そのため、私たちも飛鷹の月1日目に、アロンシャムの町で式典を開催することを決定しました。リーズとアーシェラさんも日程に間に合うようにお越しいただきたいと思います。

 内容の詳細につきましては、後日改めてご連絡いたします。


 リーズとアーシェラさんの結婚もその場で発表し、皆さんに盛大にお祝いしていただきましょう。そして…………最後の決着をつけに向かいましょう。私もエノーも、そしてこの手紙を届けるボイヤールも、お二人の味方です。


 では、また逢う日まで、アーシェラさんとお幸せに。


 ロザリンデ・ヤークトシュロスより』


 アーシェラと共に手紙を読み上げたリーズは、ロザリンデとエノーが変わり無く旅を続けていることに安堵するとともに、王国との最終決戦の時が徐々に迫ってきていることを、改めて実感した。

 どうやらグラントも、水面下で順調に計画を進めているようで、決戦予定日の指定もきちんとしてきた。


「二人も元気でよかった! それに……シェラとリーズの結婚のお祝いをするなんて! すっごく楽しみっ!」

「ふふっ、なんだかんだ言って、僕が料理を用意する羽目になりそうだけどね」

「そりゃそうだろ。お前ら二人のイチャイチャを見てると、なんでか知らんがみんな腹減るんだよ」


 ちなみに、リーズとアーシェラはほぼ結婚しているも同然だが、とある事情で結婚の誓いなどはまだ行っていない。すべての戦いが終わって、村に帰ってきた後…………二人は改めて村で結婚式をする予定なのだとか。


 二人の結婚については、2軍メンバーの誰もがひそかに祝福してくれた。

 彼らは例外なくアーシェラには世話になったし、いざとなったらアーシェラを中心に王国に立ち向かう構図も考えられていた。そしてその計画は、リーズがアーシェラの傍に来たことで、いよいよ現実味が増してきた。

 それに、定期的にロジオンとやり取りする手紙でも、一致団結して協力する体制が整っていることが知らされている。


「しかし面白いな。ふつうこんな状況でも、1人か2人くらいは王国側に情報を漏らしそうなものなのに、まるで示し合わせたかのように、誰も王国にチクる奴がいねぇのな。お前らの結束が固いのか、それとも王国がそんだけ嫌われてるのか……」


 そして、ボイヤールによって、現在の王国の内情について語られることになった。

 王国の館に引きこもっているように見せかけて、グラントの元に出入りしている彼は、今の王国の惨状が手に取るように分かるのだ。

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