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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1部:勇者リーズは帰らない
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平穏

 季節は冬真っただ中。

 開拓村がある地方は、めったに氷点下を下回ることのない温暖な気候ではあるが、やはり暖房や防寒具なしで過ごすのは厳しい寒さになった。

 広葉樹の葉はすっかり落ちてしまい、木々からは実りは得られなくなった。暖炉には一日中火が絶えず、人々は部屋の中でも当たり前のように厚着で過ごすことになる。


 しかし、そんな厳しい季節にもかかわらず、この日はいつも以上に温かく、まるで春のような陽気だった。空は雲一つない快晴で風もなく、太陽の光を浴びるだけで身体が温かくなる。


「えっへへぇ~…………シェラぁ、おかわり~……」

「ふふっ、リーズってばあれだけお昼を食べたのに、夢の中でもご飯を食べてるんだね」


 リーズとアーシェラは、以前夜に流星群を眺めた花畑の丘に来ていた。

 頂上の花に囲まれた空き地で敷物を広げて、お昼を食べて、後はのんびり過ごす。このところリーズは、エノーとロザリンデの家や村の集会所の建設に携わっており、その圧倒的な身体能力であっという間に木材を組み上げるなどの大活躍をしている。また、それだけにはとどまらず、時にはブロス夫妻と狩りに出かけ、大型の魔獣を仕留めてくることもあった。

 無限とも思える体力で嬉々として働くリーズだが、やはりそれなりに疲れもたまるものである。なので今日は、お休みもかねて二人でピクニックにやってきたのだ。


 お昼を満足いくまで堪能したリーズは、アーシェラの隣で日向ぼっこしているうちに眠くなってしまい、アーシェラの膝を枕にして寝てしまった。男性が女性に膝枕するというのも妙な話だが、リーズにとって愛する旦那様の膝は、何物にも代えがたい極上の枕なのだろう。


「…………本当に、幸せそうだねリーズ。でも、こうしてリーズの寝顔を見ながら、頭を撫でてあげられる僕は……もっと幸せだ」


 朝目覚めたばかりだと、すぐに食事の準備をしなければならないので、ずっと寝顔を見ていることはできないが、お昼寝をしている最中なら、好きなだけリーズの寝顔をのぞくことができる。

 アーシェラが、綺麗な紅の髪の毛をゆっくりと撫でて、毛布を掛けてあげた体を、時々優しくポンポンとしてあげれば、リーズは幸せそうな寝顔のまま、甘えるように身じろぎする。


「シェラ………んっ、リーズは…………シェラのごはん、すき…………」

「ごはん、ね。リーズ、好きなのはご飯だけなの?」

「でもね…………シェラのことは、もっとだいすき…………♪」

「リーズ、もしかして起きてる?」


 寝言でも好きと言われてしまったアーシェラは、恥ずかしさで顔を真っ赤にしてしまう。

 リーズから愛の言葉を囁かれるのは慣れたと思っていたのだが、不意打ちは回避できなかったようだ。

 あまりにも恥ずかしかったので、アーシェラは思わずわざと言っているのかと確認してしまったが、相変わらずリーズは締まりのない顔で、アーシェラの膝に頬擦りしつつ寝息を立てている。


「もう……リーズったら」


 ふわりと風が吹いて、花の香りが二人を包む。

 明日にはまた寒くなるかもしれないのだから、この貴重な暖かな陽気を、アーシェラは存分に楽しむことにした。


 去年の冬は本当に寒かった。

 一人しかいない家は静かで冷たく、短い冬が長く感じ、春がとても待ち遠しかった。

 まだ物資も乏しい頃だったので、燃料となる薪はディーターやブロスなどに優先的に配分せざるを得ず、アーシェラの家では調理以外のときは火を使わなかった。そして、アーシェラ自身も必死に薪を割って体を動かすことで、寒さをごまかしていた。


 今年はリーズがいる。

 一緒に食事をして、一緒に村とその周りを駆け巡って、一緒に入浴して、一緒の布団で抱き合って寝る。こんなに暖かく過ごせる冬が、今まであっただろうか。

 そして、来年も再来年も……その先もずっと、リーズは絶対に傍にいてくれる。

 新しい家族もきっとできる。リーズの子供なのだから、きっと明るくてにぎやかになるだろう。

 考えるだけで、アーシェラの胸の内が温かくなるようだった。



「おい~す、郵便でぇ~す」

『!!??』


 突然、アーシェラの背後に人の気配が湧き、わざと気を抜いたような声が聞こえた。

 アーシェラだけでなく、寝ていたリーズもすぐに気配を感じて起き上がり、二人同時に声がした方向を向いた。

 そこには、厚手の黒いローブを着た銀髪の男性――――ボイヤールが立っていた。


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