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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1部:勇者リーズは帰らない
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21日目 祝福

「よし! やった! 最後の最後でアーシェラに一矢報いてやったぜ!」


 目を点にしてポカーンとするリーズとアーシェラの顔を見て、エノーはかつてのようないたずらっ子のような笑顔で大喜びし、ロザリンデとハイタッチを交わした。


「何でもお見通しのアーシェラさんでも、仲間のことがよくわかってるリーズでも、私たちが恋仲だとはわからなかったようですね。ふふ、お二人のその顔を見ることができて、ここに足を運んだ甲斐がありました」

「ほらほらどうした? 俺たちはあんなに二人のことを祝ってやったのに、俺たちのことは祝ってくれないのか?」

「そ、そんなことないよっ! おめでと! ロザリンデ、エノー!」

「あー……本当にわからなかった。そんな素振りちっとも見せてなかったじゃないか。まぁ、でもおめでとう。僕とリーズほどじゃないけど、凄くお似合いだと思うよ!」

「このやろう……」


 アーシェラとリーズは、二人の仲がいつの間にか一線を越えていたことに衝撃を受けたが、素直に喜びの言葉を口にした。


 確かに、アーシェラの一連の洞察力は凄まじいものがあった。

 二人がわざわざストレスを溜めながらリシャールを連れてきたのは、二人がアーシェラとリーズが相思相愛だと知っていて、しかもお互い尊敬し合い過ぎて恋愛に及び腰なので、わざとリシャールを暴れさせて、リーズとアーシェラの仲を無理やり急接近させるつもりだったからである。そうでなくても、リシャールを暴れさせることで王国の醜態を改めて晒し、リーズに王国への未練を捨てさせる目的もあったし、アーシェラがリーズを守る時になると本気を出すことを期待し、アーシェラに自信をつけさせる目的もあった。「君たちのおかげで、ようやく本当の意味でリーズの隣に立てた気がする」とアーシェラが言ったのは、彼がエノーたちの意図に気が付いていたからに他ならない。

 もっともアーシェラは、そのことについてはリーズと直前に恋仲になったことで、思考に余裕が生まれたおかげで気が付けたようなものだが……もともとアーシェラ自身も、デート直前の作戦会議で同じような作戦を考えていたので、最終的にやることはあまり変わらなかった。


 だが、そんなアーシェラの目をもってしても、二人が恋仲になっていることは見抜けなかった。


「しかし一体いつから?」

「少なくとも、一昨日よりは前ですね」

「うそっ!? リーズたち先を越されてたんだ!? シェラっ、リーズなんか悔しいっ!」

「はっはっは! リーズもアーシェラも一緒に住んでたくせに、ぐずぐずしてるからだ」


 余裕そうに勝ち誇るエノーを見て、リーズは悔しそうに黒パンをガジガジと齧る。

 リーズも、ロザリンデとエノーが自分たちの味方をしてくれていると直感で気づいていた。アーシェラとリーズが結ばれた夜に、影を飛ばして来訪を予告してきたロザリンデがその場で何も苦言を呈さなかったというのが大きい。


「でも、そっか……いつもリーズのことをチラチラ見てたエノーがロザリンデと結婚か~。よかったね♪」

「人聞きの悪いこと言わないでくれないか? っていうか気づいてたのかよ!?」

「うん! でもリーズはシェラの方が気になってたから!」

「だと思ってたけどさ! 結果的に良かったけどさ!」


 かつてリーズに惚れていたエノーだったが、あまりにもリーズがアーシェラばかり見ているので、不貞腐れていた時期があった。だが、そんな時に相談相手になったのが――――アーシェラに振られたばかりのロザリンデだった。


「それでエノーったら、よりにもよって失恋したばかりの私に、そのことを愚痴ってきたんです」

「僕も、あの時ロザリンデを振って正解だったね」

「それはそれでひどくないですか? アーシェラさんは鬼ですか?」

「リーズにひたすら勇者としての虚像を押し付けている聖女様が、恋愛禁止なのに「私だけのものになりませんか」とか言ってくるのはどうかと思うよ」


 もともと、よく傷だらけになるエノーを回復することが多かったロザリンデ。

 いつの間にか気心知れた間柄になった二人は、お互い好きな人が振り向いてくれないことを、夜の天幕で愚痴りあっていた。しかも、お互いのあこがれの人同士が密かに相思相愛なので、余計面白くない。

 そんなことを繰り返すうちに…………いつしか二人はお互いのことを気にし始め、戦後もエノーがロザリンデの警備をよく買って出たので、お互いの家を行き来する仲にまで発展していた。


「確かに俺は「黒騎士」なんて言われるようになってそれなりにモテるようになったが、結局表面でしか見てもらえないんだと思うと虚しかったな」

「私も、聖女として生きる限り、女性の幸せを知らずに生きていくことが怖くなりました」


 王国の表面上の栄華にあこがれていたエノーも、自分の生きてきた道を否定したくなかったロザリンデも、ほかの貴族たちと一緒になって、リーズを王国色に無理やり染めようとしてしまった。

 リーズを旅に出したのも、かつての仲間と話し合って少し息抜きをさせてあげたかっただけで、旅から帰ってきたら第2王子セザールとの婚約もやむなしと考えていた。

 しかしリーズは…………勇者の使命をかなぐり捨てて、アーシェラのところに逃げ込んだ。このことはエノーとロザリンデに衝撃を与えたとともに、二人の関係を進展させる大きなきっかけとなった。


「アーシェラ、お前の手紙のおかげだ。俺たちは知らないうちに……俺たちが苦労してるからリーズも苦労すべきだと、馬鹿な考えを持っていた」

「お手紙でアーシェラさんが叱ってくれたから、私たちも目が覚めました」

「うーん……さすがにそれは想定外だったなぁ」


 こうしてエノーとロザリンデは、自分たちも王国から脱出することを決め、その勢いでお互い将来を誓い合った。リーズとアーシェラの行動が、二人を結び付けたのだ。


「そっか~。よくわからないけど、リーズのおかげってことで、いいのかな? えっへへぇ~♪」

「まあ、結果オーライかな。だから…………リーズを1年間も苦しい思いをさせたことは許してあげよう。本当は許したくないんだけどね♪」


 因果関係がよくわかっていないが、自分のおかげで二人が結ばれたことを嬉しく思うリーズ。

 アーシェラも笑顔で祝福してくれたが、その笑顔にはまだ半分怒りが混じっていたという。


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