3日目 朝
3日目朝。
リーズが朝食を食べ終えて、ホットミルクで一息ついていると…………
「リーズはかつての仲間たちを訪ね歩く旅をしているんだよね?」
「っ!」
食器を洗いながら尋ねてくるアーシェラの言葉に、リーズは「ついにきてしまった」と心の中でつぶやいた。
リーズが滞在し始めて、今日で3日目になる。予想していたよりもちょっと遅いタイミングではあったが、いずれ必ず聞かれることはわかっていた。それに、自分がアーシェラに多少なりと迷惑をかけている自覚もある。いくら旧知の中とは言え、ここできちんと自分の気持ちをはっきりしておかなければいけない。
「そろそろ、次のところにいかなくていいのかい? 長い間王国を空けていると、王国の仲間たちも心配しないだろうか」
「……………大丈夫、旅の目的地は、ここで最後だから。シェラに会いに来るのは遅くなっちゃったけれど、シェラは、その……特別な仲間だから、最後にゆっくりしたいの」
リーズの顔は少しこわばっているが、その話に嘘はなかった。
彼女は約1年前の旅立ちから、ずっとアーシェラのところは最後に行くと決めていた。その方が日程が余った分だけ彼のところに滞在できるし、なにより楽しみは最後まで取っておきたかったのだ。
「わがまま言ってごめんね……。でも、シェラとまた離れると、二度と会えない気がして」
「うーん、僕はもうこの地に骨を埋める気だから、また会おうと思えば会えそうな気はするけれど」
顔色一つ変えずに淡々と話すアーシェラとは対照的に、リーズの顔は若干うつむきがちで、拳が膝の上で不安そうにぎゅっと握られる。
「まあでも、確かにリーズが王国に帰ったら、そう簡単に外に出歩けなくなるよね。僕だけじゃない、ほかの仲間にもそう簡単に会えなくなる」
アーシェラはゆっくりと皿を食器棚に戻すと、リビングに戻ってきてリーズに微笑みかけた。
「リーズ、好きなだけゆっくりしていきなよ。王国が恋しくなって帰りたくなるまで、ずっとこの家にいていいからさ」
「……本当に? もっといていいの?」
アーシェラなら、きっと滞在を許してくれる……リーズはそんな甘えに近い確信を持っていたが、いざ彼の口からその言葉を聞くと、予想していた以上に嬉しい気持が湧いてくる。
「僕と君の仲じゃないか、遠慮することはない。ま、こんな何もない村はすぐ飽きると思うけれど、自分の家だと思って思う存分羽を伸ばすといい」
「っ……シェラっ! 今、遠慮しないでいいって言った!? いったよねっ!」
「まぁ、多少はお手柔らかに―――――――ふみゅっ!?」
言い終わらないうちに、リーズはまるでヤマネコがとびかかるように、椅子からアーシェラの胸に飛び込んだ。
「えっへへぇ~……よかった♪ 今日からしばらく、シェラといっしょだ~♪」
「わかった、嬉しいのはわかったからっ! 急に抱き着くのは危ないからねっ!」
ひょっとして自分は早まったか――――アーシェラは一瞬そう思ったが、結局なんだかんだ言って、リーズのお願いを断ることなど、できはしない。
甘やかしすぎはよくないが、今までのリーズが背負ってきた苦労を考えれば、多少のわがままは叶えてあげたい。
(そうと決まれば…………)
アーシェラは今日の予定を変えることにした。
勇者リーズは、当分帰りそうにないから。