20日目 歓迎
エノーたち3人が、木材を組んで作られた村の門をくぐると、そこにはアーシェラとリーズを中心とした6人が、立派な衣装に身を包んで待っていた。
特にエノーとロザリンデは、初めて見るアーシェラの正装に若干驚いた。地味で目立たない存在のアーシェラが、今や立派な指導者の姿になっていたのだ。
アーシェラの傍にいるリーズは、まるで恋人だと見せつけるかのように手をしっかりつなぎ、わざとらしい笑顔で3人を出迎えた。
「お久しぶりです皆さん。遠く不便な道のりを、わざわざ足を運んでくださり恐縮です」
「……ええ、アーシェラさん、お久しぶりです。会えて嬉しく思います」
一見温和そうな会話であいさつを交わすアーシェラとロザリンデだが、すでに雰囲気は刺々しい。
アーシェラとリーズを挟むように、ドレスを着たミルカとミーナが恭しく一礼し、更にその後ろにいるレスカとフリッツも、ピシッと姿勢を整えた。
「よう、アーシェラ。久々に会えて嬉しいぜ。いいところに住んでるじゃないか」
「やあエノー。手紙、読んでくれたみたいだね」
そんな中エノーは、まるで罪悪感を感じてない風を装っているのか、堅苦しい挨拶も抜きに話しかけてくる。そして―――
「リーズ! 無事だったようだな! 俺だ、リシャールだ! 遥々こんな辺鄙な村まで迎えに来たぞ! さぁ、俺の胸に飛び込んでおいで! 一緒に帰ろう! そして、愛を確かめ合おう!」
リシャールは両手を大きく広げ、まるで「俺が愛の使徒だ」と言わんばかりの表情で、リーズにずかずかと近づいていこうとする。
早速の空気読めない行動に、エノーとロザリンデは顔を見合わせるも、一番の被害者はリーズである。
リーズは、リシャールのあまりの気色悪さに、真っ青な顔をしてアーシェラの背中に隠れてしまい、代わりにミルカとレスカがボディーガードのように彼の前に立ちはだかった。
「あらあら、どなたかはご存じありませんが、この村で勝手な真似をされては困りますわ」
「リーズに危害を加えようとするなら、全力で阻止させてもらう」
「おっと、こんな吹けば飛ぶような村にも、なかなか見事なお嬢さんがいるとはね。リーズに嫉妬しているのかい? よかったら君たちも王国に連れて行ってあげよう。リーズと一緒にいられるし、俺の愛も分けてあげられる。素敵な話だと思わ――――」
そこまで言いかけて、エノーがリシャールの襟を後ろから思い切り引っ張って止めた。
「リシャール、さっき言ったことをもう忘れたのか?」
「邪魔をするなエノー! リーズとこのお嬢さんたちを、すぐに抱きしめてやりたいんだ!」
二人がもめている間に、再びロザリンデがアーシェラの前に出た。
「見苦しい所をお見せしました。ですが、そろそろ本題に入りたいのですが……」
「そうですね。積もる話もあるでしょうし、昼食の用意もできています。大したもてなしもできませんが、どうぞわが家へ」
「ふふ、それは嬉しいですね。久々にアーシェラさんのお料理をいただけるなんて、素敵です」
「いえ……そのような。ご案内しますので、こちらにどうぞ」
まさかアーシェラが料理を用意してくれているとは思わなかったロザリンデは、言葉の端々につい本音を漏らしてしまう。
なんだかんだ言って、行軍中に食べたアーシェラの料理が、彼女は今でも忘れられないのだ。
しかし……アーシェラの反応は若干微妙だった。そのことが、ロザリンデの中で何か引っかかるものがあった。
「エノーさん、リシャールさん。アーシェラさんがお昼をご馳走してくれるそうです。行きましょう」
「ほーん……田舎者の料理が、果たして俺の口に合うものかな? 変なもの食わせたら承知しないからな」
リシャールのあんまりな反応に、エノーは心の中で大いに呆れかえった。
(こいつもしかして、魔神王討伐の旅でアーシェラが料理を作っていたのを覚えてないのか? いや、それどころかこいつアーシェラがかつての仲間だったことを完全に忘れてやがる。なんて野郎だ……)
エノーも、パーティーメンバー全員の顔と名前がすべて完全に一致するわけではないが、それでも何度か話した相手なら、ほとんど全員顔を覚えている。
いかにリシャールをはじめとする1軍メンバーたちが、2軍たちを顧みていなかったかがよくわかる。
3人はそのまま、アーシェラに招かれて彼の家に入った。村人の中でリーズたちに同行するのは、護衛任務についているレスカだけだ。
だが、ミルカが彼らが家の中に入ったことを確認すると……彼女はドレスの袖を乱暴にめくりあげ、家の前の扉で周囲に手を振った。ミルカの合図で、あちらこちらに待機していた村人たちと、案内から戻ってきたブロス夫妻が彼女の周囲に集まる。
「では皆さん、予定通りの位置にお願いしますね」
村人一同はミルカの言葉に無言で頷くと、よく統率された動きであっという間に家全体を包囲した。
特にブロス夫妻は責任重大だ。ブロスは手製の軽クロスボウを片手に、勝手口から音もなく入って台所の陰に潜む。ユリシーヌは屋根板の一部を開けて、天井の梁をこちらも音もなく伝って、あらかじめ指定されている、屋根裏の覗き穴の上でナイフを握って待機した。
王国勢が下手な動きを見せたら、二人は奇襲攻撃を仕掛ける手はずになっている。
「まあ、何事も起こらなければいいのですがね」
そう言ってミルカも、寝室の窓からひらりと家の中に入り、先に入っていたミーナと共に扉の向こうの様子を伺った。




