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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1部:勇者リーズは帰らない
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19日目 星空

なんと今日3話目の更新です。一話一話が短いので、わざと分割してます。

 リーズは、鞄の中から術式ランプを取り出して、二人の足元にそっと置いた。

 小さな明りがほのかに周囲を照らすが、夜空に光る流れ星が見えにくくなることはない。

 時折風が吹き、辺り一面に咲く花の香りが二人を包む。白と青の花は、夜の闇にあってなお月と星の光を受けて輝き、その美しい姿をしっかりと主張していた。


「きれい……本当に、綺麗…………」

「まるで白い雨が降っているみたいだ」


 流星群のピークは夜の9時ごろだ。陽が沈んでまだ30分ほどしかたっていないこの時間では、まだ始まったばかりでしかないが、それでも夜空のあちらこちらに流れ星が一筋の白い輝くを残していく。

 これがピークに達すれば、いったいどれほどの光景になるのか想像もつかない。


「ね……シェラ。リーズは、この村に来れて……本当に良かったって思う」

「リーズには王宮の生活は合わなかったの?」

「そうなのかもしれない。ううん、それも違うのかもしれないけど、リーズは今が一番幸せだなって思うから…………」


 リーズは遠回しに告白しているようなことを言っているが、お互いそのことに気が付いていないようだ。二人の距離は、いつもと同じくとても近い。けれどもリーズにはなぜか、この距離ですら満足できなくなってきていた。


(まだ……まだ、何か壁みたいなのがある。どうしたら、もっとシェラに近づけるの?)


 一筋の流れ星は、すぐに消えてしまう。それと同じように、リーズの想いはなぜかアーシェラに届く前にどこかに消えてしまうようで…………


(なぜだろう。まだリーズがどこかに行ってしまいそうな…………手を放したら、もう会えなくなってしまう気がしてくる)


 アーシェラもアーシェラで、何となく今の距離に危機感を持ち始めていた。

 物事にはすべてに終わりがあるように、この関係はいつか終わってしまうのだろうか……そんな恐怖が、彼の心の底でざわついているのを感じる。


 アーシェラは、何となくリーズの腰に手を回して、彼女の身体を少しだけ抱えてみる。

 するとリーズは、何も言わずにアーシェラにもっと体重を預けてくる。


「リーズ……いよいよだ。これから空からたくさんの星が降ってくる」

「うん……なんだかドキドキするね」


 バスケットの中の食べ物はすべてお腹の中に収めた。二人は一枚の毛布を二人で一緒に羽織り、温かいお茶で体を温めながら、ずっと夜空を見つめる。


 そして――――降り注ぐ流星群は、いよいよ最高潮に達した。

 どこまでも広がる黒い夜空に雨あられと流れていく星々……数える気にもなれないほどの白色の一閃が、眺める二人の目を惹きつけて放さない。


「すごい…………本当に、すごいっ!」


 リーズの興奮も最高潮に達し、アーシェラも感極まって言葉が出ないようだった。


(綺麗……でも、あれ? なんかこんなこと、前にもあったっけ?)


 ところがリーズは、唐突にデジャヴを感じた。リーズは流星群を見るのは初めてではない。確か以前にもこのような光景を見たことがあったはずだ。それも……アーシェラの隣で。


「ねぇシェラ、その……一つ聞きたいんだけど、いいかな?」

「ん? どうしたのリーズ?」


 リーズに声を掛けられて、ふと彼女の顔を見たアーシェラは、月の光に照らされた途轍もなく可愛い顔に思わず心臓が飛び出そうになったが、何とか心を落ち着かせて、笑顔で答えた。


「なんか……こんなこと、前にもあった気がしない?」

「うん、あったね」


 あっさり答えるアーシェラに、リーズはちょっと驚くも、その先を聞かなければならない思いが彼女を促していく。


「これも昔5人で冒険してた時にさ、魔獣退治の依頼に向かう途中で、ツィーテンが寄り道しようって言った時があったのを覚えてる」

「あー! あったあった! そういえば、流れ星がたくさん見えるから、道から少し離れた丘で野営しようってことがあったよね!」


 リーズはようやく思い出してきた。それはリーズたちがパーティーを組んでから半年くらいの頃、珍しくツィーテンが最短距離から離れたところで野営したいと言ったことがあった。なぜなら、その日は夏の流星群が見れる日だったからだ。

 ただし、無駄に高いところに登る必要があったので、アーシェラだけは反対したが、結局多数決で押し切られて全員で小高い丘の上で野営することになったのだった。


(そっか……あの時は5人で流れ星を見たんだっけ。今日みたいに多くはなかったけど)


 あの時は、丘の周囲に森があったのと、満月の日だったせいで、今日ほど盛大には見えなかったが、それでもほとんどのメンバーが初めて見る流れ星に、かなり興奮していたのを思い出した。


「まぁ、今ではもう5人じゃ見れないけどね。でもこうしてリーズとまた見ることができて嬉しいよ」

「…………あれ?」




(シェラ……今なんて………)


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