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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1部:勇者リーズは帰らない
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2日目 入浴

 朝――――リーズがゆっくり瞼を開けると、薄いカーテンを通して入り込んだ朝の陽射しが、部屋を薄暗く照らしていた。掛け布団はぐちゃぐちゃに乱れ、無意識に抱きしめていた枕には口元からの涎が垂れてシミを作っている。

 自分はどうしてベッドの上にいるのか? リーズが、ぼーっとした頭でしばらく考えると……すぐに昨日の夜のことを思い出し、跳ねるようにベッドから飛び起きた。


「いっけないっ! 話している間に寝ちゃった!? シェラはっ!?」


 リーズが靴も履かずにパタパタとリビングに来てみれば、ちょうどテーブルに黒パンがいくつかおかれ、朝食の準備が整いつつあるところだった。


「おはようリーズ。そろそろ起きてくる頃だと思ってたよ」

「あうぅ、おはようシェラ…………その、勝手に寝ちゃってゴメン……」

「気にしないでいいよ。リーズも旅で疲れていただろうし、あれだけたくさん食べれば眠くなるのも当然だから。でも、靴くらいは履いといで」

「っ!? し、しまったっ!?」


 どうもリーズはこの家に来てから気が抜けているようだが、アーシェラは全く怒らなかった。

 リーズが靴を履いて戻ってくる頃には、テーブルの上に目玉焼きとベーコン、それにサラダが揃っていた。相変わらず質素な食事ではあったが、リーズは文句一つ言わず、おいしそうに食べていた。


「昨日はよく眠れたかい? いや、聞くまでもないか」

「う、うん……もしかしてシェラがリーズをベッドまで?」

「あんなにかわいいリーズの寝顔、久々に見せてもらったよ」

「かわっ!? も、もうっ! 恥ずかしいよぅっ」


 寝顔を見られた上に、かわいいとまで言われたリーズは、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。そして、そんな顔もまたかわいいなと、アーシェラはほっこりしながらリーズの顔を見つめた。


「さ、ご飯食べたら、お風呂を沸かしてあるから入ってくるといい。僕はその間に洗濯をしちゃうから」

「お風呂か~……そういえばここしばらく、清め術(※体を清潔に保つ魔術。水属性)ばっかりだったから、久しぶりのお風呂だっ!」


 お風呂と聞いて、リーズのテンションが高くなる。

 何しろこんな辺鄙な土地まで来るまでの道は、宿屋すらないし、普通の民家にはお風呂はない。久々の入浴に心躍らせるリーズだったが…………


「あっ! で、でもっ! 絶対覗かないでねっ!」

「ああ、わかってるとも。僕はリーズがお風呂に入っている間に、洗濯をしちゃうから、ゆっくり入ってて大丈夫だよ。それと、ついでに洗ってほしいものがあったら、ベッドの上に出しといて。いっしょに洗っておいてあげるから」

「はーい」


 こうしてリーズは、朝食を食べた後、この家のすぐ傍のログハウスにある小さな浴室で、ゆったりと温かいお風呂を満喫した。


「こんなお風呂なら、毎日でも入りたいな…………」


 木造の浴室内には、かなり大きい樽を半分に割ったような浴槽があり、外の釜で沸かされたお湯を、筒を通して半分ほど入れてある。そのままだと熱いので、備え付けの水瓶から水を入れて、ちょうどいい温度に埋めることで入浴できるようになっている。

 また、部屋の真ん中には石組みの暖炉もあり、これに木炭を入れて火を入れることで、サウナにもなる。

 王国の宮殿で生活していたころは、大理石でできた巨大な浴室で、召使たちに傅かれながら入浴していたので、あまり気が休まることがなかった。その点、すべて自然の素材でできたこの簡素な浴室が、今のリーズにはとても居心地がいい。


「しかも……シェラがこんなのまで用意してくれた♪」


 湯船にぷかぷか浮かぶ、網に入った大ぶりのオレンジの実が数個。

 このオレンジはあまり食べるのに適さないが、香りがよくて、しかも肌の美容に効果がある。また、皮をすりおろしたものを卵白洗剤に混ぜれば、自然由来のボディーソープの完成だ。


「…………ふふ♪ 今なら、シェラに覗かれても、許せちゃうかも♪」


 ご機嫌なリーズはそんなことをつぶやきながら、長々と湯舟に浸かった。



 その一方で――――――


「洗うものを出してとは言ったけど…………これまで洗っていいのかな?」


 ベッドの上に、無造作に積み上げられた衣類にいくつか下着が混じっており、アーシェラは本当に自分が洗っていいのか大いに迷ってしまった。


 結局その日は……勇者リーズは帰ることなく、アーシェラの家にとどまった。

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