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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1部:勇者リーズは帰らない
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答え合わせ

 エノーとロザリンデが執務室を訪ねる前日の夜。

 二人は王都の一角にあるエノーの邸宅で、これまでの情報を整理し、最終確認を行っていた。


「夕方に早馬が届いた。手紙の通り、ロジオンがアロンシャムにいることは間違いなさそうだ」

「ではやはり3枚目の手紙は……」

「間違いなくロジオンが持っているんだろう」


 アーシェラから来た手紙の解読は、多忙なグラントに代わりエノーとロザリンデに一任された。

 幸い、手紙からの真意は初日にすぐに解読できた。アーシェラもアーシェラで、この手紙の真意が伝わらないと困るから、そこまで難しい内容にしてこなかったのかもしれない。それでも二人は念のため、ロジオンが手紙の通りの場所に住んでいるのかだけは確認することにした。

 結果はビンゴ。アロンシャムには、元2軍メンバーの一人サマンサが住んでいて、彼女も例にもれずリーズの訪問予定に入っていたのだが、なんとサマンサは知らないうちにロジオンと結婚していたのだ。


「おそらくリーズは、サマンサを訪問した途中で、ロジオンにアーシェラの居場所を聞き出したんだろうな」

「ですが、おかげですべてが繋がりましたね」


 二人は改めて机の上に2枚の手紙を広げてみた。

 1枚はグラント宛。2枚目はエノー宛。そして左下の数字を見るに手紙は全部で3枚あり、全ての手紙をつなげることでリーズの居場所――すなわちアーシェラの元にたどり着けるようになっているのだろう。

 グラントの手紙だけではリーズがアーシェラのところにいる事しかわからず、エノーの手紙ではロジオンの住処と、ロジオンに会うための方法しかわからない。

 アーシェラがこんな面倒な手紙を送りつけてきたのは「君たちを心からは信用していない」という、彼なりの痛烈なメッセージなのだろう。


「アーシェラは……この手紙で、俺たちに覚悟を問いかけてきた。亡くなった戦友の墓参りすらしなかったお前たちに、リーズを守ってやれるのか…………ってか。言ってくれるじゃないか畜生」

「私は…………リーズさんがこの先もずっと「勇者」として生きていくことこそ彼女の幸せだと思っていました。私は間違っていました。私は……「世間一般の幸せ」をリーズさんに押し付けていただけだったのですね。なんだか、私がアーシェラさんに振られた理由が、はっきりわかった気がします」


 何ともやるせない気持になる二人だったが、とにかくリーズの行方はつかめた。おそらくアーシェラも早期解決を望んでいる。だったらその期待に応えねばならない。


「では明日、グラントさんに話をしてみましょう」

「出来ればタイミングを計った方がいいな」

「タイミングを?」

「アーシェラの奴、これだけ俺たちのことをボロクソ言ってくれたんだ、少しは意趣返ししても罰は当たらないんじゃないかな?」


 そう言ってエノーは、ニッと不敵な笑みを浮かべた。




 

 そんな経緯もあって、二人はグラントたちに、リーズがアーシェラのところに滞在していることと、その場所を知る唯一の人物の手掛かりがつかめたことを報告し、リーズを迎えに行く許可を求めた。

 これを聞いてまず怒り狂ったのがセザール王子だった。


「ふざけんな! なぜ勇者はそんなどこの馬の骨かもわからん奴のところにいる!? おい黒騎士! 勇者を取り戻すついでに、そいつをふんじばってこい!」


 まるで、取られたおもちゃを取り返してくれと駄々を捏ねる子供のような態度に、エノーは心の中で「これだから下半身でしかものを考えない奴は」と毒づいた。

 一方で、リシャールはどこか余裕そうな表情で、激高するセザールを眺めていた。


「はーん、もしかして勇者様はこんな困った王子との婚約が嫌で、逃げ出したんじゃないの?」

「んだとこら!」


 リシャールの歯に衣着せぬ物言いに思わず殴り掛かりそうになったセザールを、彼の召使が宥めた。

 だが、リシャールの口は回り続ける。


「だいたい「連れて帰ってこい」だなんて、リーズを物扱いしている時点でまだまだですね。ま、俺はリーズの想い人ですから、たとえ世界の端っこにいたとしても迎えに行きますがね」

「ぐっ……」


 今度はセザールも何も言い返せなかった。リシャールくらいの身分なら、まだ他国をお忍びで訪問しても文句を言われる筋合いはないが、第2王子が国を空けたり、ましてや他国にアポなしで赴くなど、言語道断だ。どうやらこの勝負、リシャールの優位に終わりそうだった。


「ふんっ! 勝手にしやがれっ! どうせ帰ってくれば勇者は俺の物なんだからな!」


 大いに機嫌を損ねたセザールは、乱暴に執務室の扉を開閉し、大股で立ち去って行った。

 自身の勝利を確信したリシャールは、改めてエノーとロザリンデのほうに向きなおった。


「というわけで二人とも、一緒にリーズを迎えに行こう。きっとリーズは今頃、俺と会えなくて寂しい思いをしているに違いないさ」

 

 彼の言葉に、二人は顔を見合わせてこっそり頷くと、やや困った顔で答えた。


「それには及びませんわ。向こうは私とエノーさんを迎えに指名したのですから、わたくしたちが責任を持ってリーズを連れて帰ります」

「いいや、なんと言われようとも、俺も行く。道中でどこかの誰かがリーズを口説くともわからないしね」


 そう言ってリシャールは、エノーにわざとらしく視線を向ける。その侮蔑を含んだ視線が、エノーには気持ち悪く感じ、やはり「こいつも戦いのこと以外の脳は下半身に行ったか」と容赦なく心の中で毒づいた。

 確かにエノーは、昔からリーズに恋してはいたが…………


 こうして、グラントの許可の元、エノーとロザリンデ、それにリシャールが、家出したリーズの本格的な捜索に向かうこととなった。



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