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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1.5部:過去という名の重し
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手を繋いで歩き出す

 ロジオンの家を訪問した後、エノーとロザリンデは改めてアロンシャムの町をゆっくりと見て回り、ロジオンが手配してくれた宿に一泊することになった。

 町の人たちが二人を見る目は非常に好意的なものもあれば、かなり厳しいものもあった。特に冒険者たちにとっては、勇者パーティーの主力だった二人は生きている英雄扱いであったが――――一方で、町の中にいくつかある神殿とそこにいる神官たちあまり反応が良くなかった。

 それに、王国は勇者リーズに各地を訪問させることを引き換えに、中小諸国への復興援助を止めたせいか、王国出身者に不満を持っている人も少なくないようだ。


 ロザリンデは町の神殿で、今までの中央神殿の不手際を詫び、戦乱と復興の過程でケガや病気をした人々を、一人残らずすべて治療した。そればかりか、中央神殿が秘匿している病気予防の薬や術を伝え、今後もこの町の健康と、人々の信仰を守ってほしいと願った。

 エノーは冒険者ギルドで初心者を中心に、強くなるための努力のコツや、冒険の心構えなどを、先輩冒険者の目線で懇切丁寧に教えた。彼もまた、魔神王討伐戦で大事な親友を失ったゆえに、とにかく生き残ることが大切だと説明した。


 そして翌日の朝、エノーとロザリンデは再び勇者の丘で、ロジオンとともにこの世を去った仲間たちの名が刻まれた石碑に頭を下げていた。


「よう二人とも、昨日はあちこち回って仕事してきたみたいだな。疲れただろう?」

「ぶっちゃけ、もっといろいろ言われるかと思ったが、この町の人たちは強いな。彼らは失ったものを取り戻すために、前を向いて頑張っている。俺もいろいろと教え甲斐があったな。ロザリンデこそ、ひどいことは言われなかったか?」

「いえ、それはありませんでした。私の聖女の肩書は……まだまだ強力なようです。ですが、やはり神官さんたちからの視線は厳しいものでしたね。中央神殿は、地方の神殿には今まで見向きもしませんでしたから」

「まっ、この町はほかに比べればまだ被害は少ない方だし、俺が財産をなげうって色々援助もしているから余裕があるはずだ。かつての仲間の中には、あえて厳しい環境で働いている奴らもいるから、そいつらを助けてやってくれ」


 エノーとロザリンデは、これから本格的に各地を回る旅に出る。

 ロジオンとも……ここに名前が刻まれている、ツィーテンたちとも当分会えなくなる。


「ありがとな、ロジオン。お前には本当に助けられてばかりだ。俺たちの代わりにリーズとアーシェラのことをよろしく頼む」

「言われなくてもそうするさ。もう少ししたら、俺も隊商を率いてアーシェラの村に物資を届けに行くつもりだ。お前たちも、たまには手紙を書いてくれよ。俺かシェマに送ってくれれば、アーシェラのところまできちんと届けてやる。もちろん、アーシェラの奴が書くような暗号みたいなものじゃなくていいぞ」


 ロジオンの冗談に、3人はちょっとだけ笑いあった。


「アーシェラとリーズに会った時もそうだったが、なんだか俺たちはこの歳になって初めて本当の親友になれた気がするな」

「ふっ、言われてみればそうかもしれねぇ。また春になったら戻ってくるんだろう? その時はうちの女房と、俺のかわいい子供を見せてやるからな」

「それは楽しみですね♪ 私も早く、エノーとの間に子供をもうけたいものです。ね、エノー?」

「お、おう……」

「あのカタブツ聖女様が見る影もないな。ま、俺もその方がいいと思うぜ」


 人は変わっていく。

 新しい出会いもあれば別れもあり、学ぶこともあれば忘れることもある。

 過去の過ちは、今なおエノーとロザリンデに重くのしかかっているが、これから二人はその荷物をお互いに支えながら運び、徐々に新しいものに置き換えていく必要がある。


 その第一歩として、ロジオンとの間にあったわだかまりを消すことができた。

 今はもう、かつての仲間たちに申し訳ないと落ち込むこともない。


「じゃあなロジオン。サマンサにもよろしく言っておいてくれ」

「私にまで気にかけていただいて、本当に助かりました」

「あぁ、また会おう……親友!」


 アロンシャムの町に初めて来たときは、敵を見るようだったロジオンは、馬にまたがって次の目的地に向かう二人が見えなくなるまで手を振っていた。

 エノーとロザリンデも、それにこたえるように仲良く手を振り返した。


「さてロザリンデ。ここからが俺たちの正念場だ。とてもつらい道のりになるだろうが…………ついてきてくれるか?」

「はい、もちろんですとも。エノーこそ、私を離さないように、しっかりと手を握っていてくださいね」


 遅ればせながら、二人もスタートラインを切った。

 この先の苦労はおそらく予想以上のものが待ち受けているだろうが…………アーシェラとリーズからのプレッシャーを感じたまま、リシャールを伴って旧街道を駆け抜けた時に比べれば、なんてことない道のりだろう。


 これから二人は、だれにも憚られることなく、ずっと手を繋いでいけるのだから…………


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