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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1.5部:過去という名の重し
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最後のきっかけ

 もし今、自分たちを取り巻く事情が違うものだったら、いったいどうなってだろうか? ロザリンデはそんなことを思いながら、昼食の用意を待っていた。


(私もエノーも、アーシェラさんの手紙で目を覚ますことができましたが……愚かにも、本気でリーズさんを取り戻すためにここまで来ていたら、どうなっていたことやら)


 リーズとアーシェラがまだ恋仲になっておらず、かつ、二人がほかの王国貴族たちと同じように、リーズの気持ちを一顧だにせず連れて帰ろうとしたならば―――

 おそらくリーズは、エノーとロザリンデの説得を「最後のきっかけ」として、王国への帰還を完全に拒絶し、彼女の意をくんだアーシェラの報復攻撃を受けていたことだろう。

 それが身体的なダメージになるか、精神的なダメージになるかはわからないが、ロザリンデたちは無事では済まないはずだ。

 これがきっかけでロザリンデとエノーが立ち直れなくなるだけなら、まだ自分たちの自業自得なのだが、リーズとアーシェラには、かつて親しい仲だった人物を、敵として叩きのめしたという後ろめたさが残ってしまいかねない。


 で、報復攻撃を受けさせる身代わりとして連れてきたのが、自分たちよりよっぽど罪深い存在のリシャールなのだが、苦労して連れてきた甲斐あって、彼は実によく働いてくれていた。


「リーズ! 帰らないとはどういうことだ!?」

「言葉の通りよっ! リーズはずっとここに住むの。王国には帰らないもんね」

「何を考えているんだ君はっ! それに、その言葉遣いは何だ!? 君は勇者だろうっ!」


 リシャールはリーズに対して説得を通り越して脅迫まがいの言葉をかけており、

対するリーズも完全にへそを曲げて、リシャールへの嫌悪感を隠そうともしなかった。どこからどう見ても、完全に逆効果である。


(リシャールさん、想定外という顔をしていますね。無理もないでしょう、あなたは本当のリーズを知らないのですから)


 自分のほうになびく気配を一切見せないばかりか、勇者にあるまじき子供っぽい態度で平民(アーシェラ)に寄り添うリーズに、リシャールは怒りと焦りを隠せなくなっていた。

 一方で、以前から付き合いがあるエノーや、リーズに勇者としての教養を叩き込んだ張本人であるロザリンデは、もともとリーズはこのような性格であることを知っているので、今更驚きはしない。


 ただし、逆に言えばリシャールをはじめとする王国の人々が、作られた勇者の姿を本物だと思い込んだ原因を作ったのは、ほかならぬロザリンデであり、エノーは本当のリーズの姿を知っているにもかかわらず、作られた勇者象をいつのまにか本物と思い込んでしまっていた。

 見苦しくわめくリシャールを見て、二人は改めて、自分たちの今までの態度を恥じた。下手をすれば、二人のうちどちらかが、リシャールと同じことをしていた可能性すらあったのだ。


 実際のところ、リーズは意外と性格的な欠点が多い女の子である。

 親からほぼ育児を放棄されて育ったせいか、性格がかなり子供っぽく、考えが非常に直情的だ。普段は比較的優等生だが、若干わがままなところがあり、束縛を嫌う。それ以上に長所や美点は非常に多いのだが、こういった欠点は「平民的」ゆえに、王国貴族社会では非常に嫌われる。

 ロザリンデも、女神の啓示を受けて呼び出されたリーズと初めて出会ったときは、その年齢に比してあまりにも子供っぽい性格に驚愕し、しっかりと教育し直さねばと決意したほどだった。


 エノーもロザリンデも、既のところで過ちに気が付いた。

 そして、二人がたどろうとしていた道の「末路」を、この場でしっかり目に焼き付けておかねばならない。


「さあどうぞ。お代わりもありますから、遠慮せず召し上がってください」

「ふん、まあいい……」


 アーシェラが昼食を用意して来てくれたことで、ヒートアップした話し合いはいったん沈静化した。

 用意されたのは、リーズの大好物のハンバーグとクリームシチュー、それと村では貴重な白パン。実に数年ぶりのアーシェラの料理――――本当ならばエノーもロザリンデも「待ってました!」声を大にして叫びたいところだったが……


(囲まれているのはわかっているが……それを抜きにしてもすさまじいプレッシャーだな)

(せっかくのお食事くらいは純粋に楽しみたかったのですが、こうも威圧されていては、せっかくのアーシェラさんの料理も味がわかりませんね…………)


 徹底的に無礼なふるまいをする上に、リーズに危害を加えようとしているリシャールに、アーシェラがすさまじい敵意を向けている。

 肝心の怒りを向けられているリシャール本人は、アーシェラを馬鹿にし切っているせいか何も感じていないようだが、そばにいる二人は、改めてこの怒りの矛先が自分たちに向かなくてよかったと心から思った。


 ただし、大部分の敵意をリシャールに肩代わりさせて、冷静に思考できるようになった二人は、今度は別のことに気が付いた。


(…………? これ、本当にアーシェラさんが作ったお料理なのかしら………?)

(これは……ひょっとしてまさか、いや…………アーシェラがそこまでやるとは、しかし……)


 味が違う。

 アーシェラの料理を食べたのは久しぶりだが、別人が作ったとはっきりわかった。

 それもそのはず。この料理はリーズが作ったものである。

 リーズは、自分が料理を作ることで、自分はもう迎える側――――村の一員になっていることを示しているのと同時に、もしリシャールがリーズの料理をけなしたら、それを逆手にとって彼を追い詰めるつもりなのだ。

 食べ物をとても大切にするアーシェラが、料理に何かを仕掛けてきたことに、エノーとロザリンデが思わず鳥肌が立つほど戦慄し、気まずい表情で顔を見合わせた…………次の瞬間だった。


「もうたくさんだ…………。俺は公子なんだぞ。舐めた態度をとるのもいい加減にしてもらおうか!」


 持ち込んだ時限爆弾が、ついに爆発したようだ。

 リシャールは、なんとハンバーグとシチューを食器ごと床にぶちまけ、それを足で踏みつけたのだった。


ブロス「オイオイオイ」

ゆりしー「死ぬわあいつ」

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