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勇者様が帰らない  作者: 南木
第1.5部:過去という名の重し
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脱出行路


「――――ってなわけで、なぜか王宮にいたフェリクスさんを家まで送って、今に至るわけだ」


 エノーは馬車を操りながら、一部始終をロザリンデに語った。


「あそこでフェリクスさんを見かけた時からただ事じゃないとは思っていたが…………」

「考えるまでもないですね。国王陛下は……いえ、国王陛下に取り入った第二王子派の貴族たちが、こうなることを見越してリーズのお父様を、わざわざ私の会談予定の時間に呼び出したのですね」


 なんと卑劣な――ロザリンデは思わずそうつぶやいた。

 貴族的な権謀術数にある程度理解がある彼女ですら、えげつないと思わざるを得ないやり口だった。

 エノーに対して第二王子が仕掛けた罠は、長時間拘束して疲れによる判断を鈍らせる目的だったが、リーズの父親は逆に時間に余裕がないことを逆手に取られたのだろう。


「で、そこまでして、国王陛下は男爵に何を求めたのでしょうか。もっとも、大体予想はつきますが」

「リーズの正式な婚約の承認と、第二王子セザールの支持だ」

「国王陛下は、第一王子殿下は廃嫡なさるおつもりなのですね」

「何を考えているのかは知らないが、下手すると内乱が起きかねないな」


 長い王国の歴史の中で、太子以外が王位についた例はいくつかあるが、それはやむを得ない事情があったからで、基本的に王国は長男が王位を継ぐと決まっている。

 それが分からないはずはないのに、国王まで廃嫡に傾いているのは、勇者リーズの血を引いた孫に、将来の王位を継がせた方がいいと吹き込まれたからなんのだろう。


「王国中枢は…………リーズさんを駒か何かとでも思っているようですね」

「使えるだけ使い倒そうとする魂胆が見え見えだ。リーズは戻ってこなくて正解だったな」


 二人は改めて、勇者リーズを王国に連れて帰るわけにはいかないと決心した。

 それがリーズの為である以上に、世界平和の為にすらなってきているような気さえする。


「それと、部下に頼んで早馬を出した結果も分かった。これについては、また夜に話し合おう」

「わかりました。夜までしばしのお別れですが…………どうかお気をつけて」


 話をしているうちに、二人の馬車は神殿の裏門についた。

 想定外の出来事で会談が中止になったと聞いた神官たちが慌ててロザリンデを迎える中、二人はいつもの言葉を交わして、一度別れる。


「この後のお仕事は?」

「夜のお祈りだけです。今日は色々ありましたから、女神さまに報告することも多そうです」

「わかりました。では、先に失礼します」




 日が暮れて夜になり、中央神殿ではリーズの実家との会談が中止になったことで大いにもめたが、ロザリンデはそれらを全て大神官たちに丸投げし、さっさといつものルーチンワークをこなした。

 1秒でも早くエノーの家に赴きたかったが、最後までバレない様、精いっぱい平静を装った。もはや身近な人を騙すことに何の抵抗もなくなっている聖女を、女神は苦笑いしながら見ている事だろう。


「こんばんは、エノー。ちょっと早いですが来ちゃいました♪」

「ロザリンデ、待ちくたびれていたよ」


 体調がすぐれないという理由で就寝の時間を早めたロザリンデは、神官たちがいなくなるや否やすぐに神殿を抜け出し、エノーの邸宅に足を運んだ。わずか数時間離れただけだというのに、この日は色々あったせいか、どちらも一秒でも早く会いたがっていた。

 ロザリンデを迎え入れたエノーは、そのままハグを交わし、いつものソファーにもつれるように座った。

その後しばらくはとりとめもない雑談などを交わしていたが、いよいよ脱出に向けての最後の打ち合わせを行う。


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