異世界で絵を売る。
村の中で何とか金策をしないと、装備さえ購入できないし宿無しスタートは流石に辛いぞ。
現状を把握できた僕は、現実逃避を止めて村の探索を始めた。
うーん……。
何と言おうか良くも悪くも村だな。それ以上でも、それ以下でもない。
村ではあるが、一通りの施設っぽいものも揃ってるみたいだし。
村の人も時々みかけるので、次に出会った人にでも話かけてみることにしようかな。
この世界で初めて、話す相手が道具屋さんになるとはな……。
道具屋の前で僕は立ち止った。
「あのぉ、すいませーん」
「やぁ、いらっしゃい」
おっ、言葉は通じるみたいだし、相手の言葉を聞き取る事も出来たぞ。
「すいません。
絵を買っていただけないでしょうか?」
「絵を? なんだい君は、有名な画家か何かなのかい?」と、道具屋に訊ねられた。
どうやって、説明したものだろうか……。
「実家の方では、絵描きを生業 として生活していたので。
この辺りでも、そういう仕事ができないかなと思いまして」
「へぇ、絵を描いて生計を立てれるってことは、それなりに実力のある絵描きってわけだな。
良いぜ絵を出してみな、気に入ったら買ってやる」
女神様の絵(着衣あり)と、先程描いた風景画の2枚の絵を、道具屋の店主に渡した。
「おぉ、両方とも凄くいいじゃないか。
この美人さんは誰なんだい?」
「女神ノルン様ですよ……」
「まるで、本物を見てきたような絵だな。
この女神の絵は教会にもっていくといい、ウチで売るより必ず高値を付けてもらえると思うよ。
それにしても、ウチの村の伝説の木の風景画を描くとは、画家さん解ってるね」
「伝説の木なんですか? あの木」
「あぁ、この村に伝わる昔話でな……。
あの木の下に女神ノルン様の使いの娘、ノルニルって少女が現れた場所なんだよ」
僕が、あの場所に簀巻きにされて吊るされたのも、そういう縁があったのかな?
「なぁ、画家さんよ。
この絵は、いくらで売ってくれるんだい?」
「店主、貴方がつけたい金額をつけてくれ。
僕は、それに対して文句は言わないよ」と言って、道具屋の店主の裁量に任せた。
「うーん。絵の価値ってのは、俺にはわからん。
ただ、この絵はいいものだというのは解る……。
300ゴールドでどうだ?」
「はい、それで結構ですよ」と、言って風景画の商談が成立した。
「こっちの女神様の絵は返すぞ」と言って、女神様の絵を返してくれた。
そして、絵の代金として300ゴールドを渡してもらった。
「せっかく買った絵だし、お店に飾らないとな……。
それはそうと、この風景画の右端にサインがあるけど、コレがアンタのサインなのかい?」
「はい、生まれてこの方、そのサインでずっとやってきてます」と、答えておいた。
「この後は、女神様の絵を売りに教会に行くんだよな?」
「はい、そのつもりです」
「だったら、この店を出て右手の道をまっすぐ進めば教会が見えてくるよ」
「あ、情報どうもありがとうございます。
そうだ、傷薬とかそういったアイテムってありませんかね?」
「あぁ、あるよ回復薬な。
通常の回復薬は8ゴールドで、上級回復薬は40ゴールドだ」
「だったら、上級回復薬を4個と通常の回復薬を5個下さい。
それで、200ゴールドですよね?」と言って、200ゴールドを店主に渡した。
「おう、待ってな。用意するから」と言って、上級回復薬を4個と回復薬を5個と渡された。
「この辺りはモンスターと言ってもスライム位しか、でないから通常の回復薬で十分だと思うぞ」
「僕の絵を買っていただいて情報までいただけましたので、そのお礼も兼ねてますからね。
それじゃ、今から教会に行ってきますね」
「おう、画家のにーちゃん。
また来てくれよ!!」
道具屋を離れ新たな取引相手として、教会へ行くことにした。
どうせ回復薬は冒険に必須だろうし、今回の出費は必要経費だ。
教会へ行った後は宿屋を探さないとな、準備もなしで野宿は嫌だしね。
しばらく道を歩いていると、道具屋の店主が言った通り教会らしい建物があった。
ココがこの村の教会か……。
恐る恐るだが、僕は教会に入っていく。
なんといっても、女神を脱がしてモデルにした罰当たりの代表格のこの僕が、教会にいくのだ。
バレたら火炙りにでも、されるんじゃないだろうか……?
教会に入ると、祭壇の奥に大きなノルン様の像が祀られていた。
あぁ、この国の神様の扱いなんだな、女神様って…‥。
よし、最初に売りに出すのは普通の奴にしよう……。
絵描きとしての第一歩で、ノルン様のキャストオフ版を売りに出して不敬者として断罪されたくない。
そんなロクでもない事を考えていると、教会のシスターが僕に気づいて近づいてきた。
「どうされました? ご礼拝ですか?」と、シスターが言った。
「いえ、僕は旅の放浪画家をやっていまして……。
女神ノルン様の絵を描いたので、この教会に購入していただけないかと思いまして立ち寄らせていただきました」
「そうですか。それでしたら神父を呼んできますので、今しばらくお待ちください」
……と言って、シスターは神父を呼ぶためにこの場を離れていった。
教会に備え付けの長椅子に座り神父が来るのをしばらく待った。
……
…………
しばらくして、神父らしき男と先程のシスターが僕の目の前に現れた。
「お待たせしました。
私は当教会を管理させていただいる、神父のダニエルです。
今回は、ウチに女神様の絵画を買ってもらいたいとお話を聞いていますが?」
「はい、僕は旅の放浪画家をやっています。
佐藤 初って、言います。
地元では絵を描いて生活していたので、今回は女神ノルン様の絵を描かせていただいたので教会に見ていただこうと思いまして」
「なるほど……」
「本当は、道具屋に女神ノルン様の絵も買い取ってもらう予定だったのですが、この絵は教会に持っていった方がいいと紹介されましたので、店主の言葉を信じて教会に参りました」
「ふむ……そうですか。
現物を見ない事には判断できないので、一度現物を見せていただいてよろしいですか?」と、神父が提案を出してきた。
確かに、現物も見ずに買ってもらえるものではないからな……。
[アイテムボックス]から、女神像のモデルに出来そうな感じの女神様の姿絵を取り出した。
そして、その姿絵をダニエル神父に手渡した……。
「この紙は、物凄く高品質のものですね。
それに、なんと言いますか。これは……」と、言って驚愕していた。
神父は女神像を何度も見ながら、姿絵を見る事を繰り返した。
シスターも姿絵をみて驚愕するようなしぐさを見せていた。
「まるで、本人を見てきたような。
繊細な姿絵で、かつ女神様に対しての愛情を感じる姿絵ですね」
神父さん、だいたいあってる。
流石に、それは言わないけどね。
「それでどうでしょうか? この姿絵は購入していただけるのでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ、街の教会に確認を取ってみる。
それと、この姿絵をいくら売ってくれるのかい?」
「そうですねぇ……。
道具屋さんに、この村の風景画を300ゴールドで買っていただいたので、それ以上の価格でしたら問題ありませんよ」
「えっ!? そんな価格で大丈夫なのかい?
この出来だし、何千ゴールド、いや何万ゴールドを請求されるものと思っていたよ」
「ただし、僕も自分の絵を安売りするつもりもありませんので、価格に関してはその時に応じて考えさせて貰います。
今は、最初のお付き合いみたいなモノなんで、その価格で大丈夫ですよ」
「解った!! 1000ゴールドを出そう、それなら今すぐになんとか出せる金額だし。
街の教会への連絡は後からでも対応できる」
「ありがとうございます。
即決いただいて、ありがたいです」
「それで購入する条件なんだが、一つ付け加えさせてくれないか?」と、ダニエル神父が言ってきた。
「なんでしょう? 僕に出来る事ならお受けしたいと思いますが……」
「いや、難しい事じゃない。
1か月程、この村に滞在してくれないか?」
「ん? 滞在となると宿屋の費用がかかるので少し厳しいかと?
それ以前に、この村の宿屋が一泊いくらかかるのか知らないので……」
「宿屋の宿泊費は教会が持つ。
他の教会の人間にも、君の描いた絵を見せたい……。
見せた時に君がいなければ、確実に私が説教を受けるのが目に見えてるんだ」
「まぁ、そういうことなら。
この村に、1か月の間滞在させてもらいますね」と、答えておいた。
続けて、こちらから質問をした。
「一ケ月過ぎたら、僕は再び旅に出ると思います。
なので、その間は旅の準備をしていてもよろしいですか?」
旅をするにしても、近隣等の下調べをしておいた方がいいだろうと思い、確認をしておいた。
「あぁ、それは構わない。
1か月間だけ、この村に滞在してくれればそれでいいよ。
用事があれば、コチラから宿屋に迎えに行くので……」
「じゃぁ、それでお願いします」と言って、商談成立した。
「ちょっと、お金を取ってくるんでしばらく待ってくれ。
その後、宿屋も案内するから」
「わかりました」と言って、神父が戻ってくるのを待った。
……
…………
しばらくして、ダニエル神父が商品の代金を持って現れた。
「待たせたね。
これが、さっき渡してもらった女神様の姿絵の代金だ受け取ってくれ」
袋に入った1000ゴールドを、ダニエル神父から受け取った。
これが、僕と教会の付き合いの始まりだった……。
本日の投稿は6話投稿になります。
1話 7:00
2話 7:00
3話 7:00 ※イマココ
4話 12:00~13:00 の間
5話 15:00~16:00 の間
6話 19:00~20:00 の間
の6話投稿です。