〇豚は異世界に出荷される。
僕、佐藤 初(30)は、俗にいう絵描きという職業で飯を食ってきた人間である。
絵描きといっても、芸術家みたいな高尚なものではなく芸大を卒業しても芸術家になれなかった。
その慣れの果てが、萌え絵師として名高い人気イラストレーターとしての現在の姿である。
ジャンルはエロからグロまでなんでもござれで、依頼を受けたら書きますよとやっていたら、いつの間にか人気イラストレーターが誕生していたというわけだ。
元々、芸大で絵のイロハってものは学んで来たので、そこらの連中よりは人物や背景等をリアルに描くこともできるし、今風に人物を可愛く描くこともできる。
まぁ、後者は趣味が高じて描けるようになったというべきだが……。
美少女キャラクターに対して強い愛着や情熱を注ぐ、そんな人間を人は【萌え豚】と呼ぶ。
僕は、所謂そっち側の人間だったのだ。
何故? こうなってしまったのかというと、元々から女性が嫌いというわけではない、だが女性が怖いと思う事はあった。
男性の価値をお金扱いしたり、彼氏彼女の関係になり付き合うと決まった瞬間に人間の変わる様。
ああいった部分を堂々と見せられてしまい、リアルの女性に興味を無くしてしまった一人だ。
女性に関しては面食いというわけでもなく、すべての女性がみな美しい部分を持っていると思っている。
あくまでも、付き合う対象としてみなければだが……。
そんな感じのフェミニスト思考が入ってるのに、女性が苦手な変わり者が僕だ。
そういう、状況もあってそっちの趣味 (萌え豚)に走ったのは当然の流れなんだと思う。
少なくとも、ひどい裏切り行為はしてこないからね二次元のキャラクターに関してはね。
そういう事もあり、僕は一人一人愛情をこめて娘のように扱って大事に作品とかかわってきた。
これは、ある種歪んだ性癖が生んだ人気絵師の裏話ってわけだ……。
あと、1か月もすると僕も30歳になる、俗にいう【魔法使い】になってしまうのだ。
こんなに歪んだ僕は、それも仕方ないと諦めていた……。
仕事の締め切りに追われてはいるが、気分転換にテレビをつけてみると都市伝説系の番組がやっていた。
絵を描く作業をしながら、テレビをみていると物凄い美人がテレビに映っていた。
その奥さんは急に旦那に先立たれて、その後も旦那の部屋に住んでいたため、死人の部屋に人がいるってことで都市伝説扱いされた女性だった。
凄く綺麗な人だ……。
この人を思う存分に描きたいと思い、このテレビ番組の録画を始めた。
しかし、こんな若くて美人な人が未亡人かぁ等と考えながら、今やっている仕事を忘れて録画した番組を見ながら若奥様の絵を描き上げた。
ノッテいたから、筆が進みに進んだ……。
いつもの、絵師ご用達の趣味絵をアップしているサイトに、タイトル【若奥様】と付けて描いた絵をアップしておいた。
予想以上に、あの番組を見ている人が多くて反響があったので、【先生、仕事して下さい】とお絵描きサイトのタグをつけられてしまった……。
結果はものすごく好評で、調子に乗った私は、キャストオフ版も作ろうかと悩んだが、一般人のキャストオフは流石にまずいだろうと踏みとどまった。
まぁ、僕以外の挑戦者達が遠慮なく若奥様を剥いてましたが……。
死ぬまでに、こんな綺麗な人をモデルに絵を思う存分描いてみたいな等と考えながら、いつもの仕事に戻った。
……
…………
それから、締め切りに追われ何とか締め切りに間に合ったものの、30歳という節目を仕事をしながら終わらせてしまった。
締め切りの作品もすべて終わったし、今日はゆっくり休むとしよう……。
……
…………
いつもの代わり映えのしない天井だ……。
そうか、僕は締め切り明けで疲れて眠っていたんだな。
しばらくは、仕事もないし気楽に過ごすとしようかな?
そういえば、仕事の合間に描いた若奥様の絵ってどうなってるんだろうと思い、いつものお絵描きアップロードサイトを見にいった。
ん!?
僕がアップロードするまで誰も若奥様を描いてなかったのに、便乗したかのように色んな人が若奥様を描いていた。
中にはキャストオフ版までアップロードされていて、ある種のブーム的なモノが起きていた。
ぐぬぬっ、僕が仕事に追われている間に、他の奴にキャストオフ版アップをされてしまっているじゃないか!!
なんか悔しい……。仕事で絵を描く必要がなくなったが、個人的に絵を描く必要が出てきたみたいだ。
そこらの絵師には負けんぞ!! 完璧なまでの若奥様のキャストオフ版をアップロードしてみせると意気込んで絵描き作業に入った。
参考資料は録画したテレビ番組のみだが、大丈夫だ問題ない……。
異世界やら学園やら未来やら色んなバリエーションの絵を描いてきたんだ、資料があるだけでも十分過ぎる。
朝からパーソナルな理由で絵を描き続けて夕方になる頃には、若奥様のキャストオフバージョンの着色まで完成させていた。
自分で描いた絵だが、非常に満足な仕上がりだった。
アップロードは明日するとして、今日は風呂入って休むかなと思ったが作品に僕のサインを入れておくのを忘れてた。
風呂に入ろうと立ち上がっていたが、再びパソコンの前に戻り作品にサインをしようとしていたら。
急に眠気が……、仕事明けで疲れてるから……。
そのまま、パソコンデスクに突っ伏した。
こうして僕、佐藤初の人生は終わったのである。
◇◆◇◆
僕はパソコンの前で眠ってたはずなのに……。
何処だここは? ウチじゃないよな?
やけに明るすぎるしと、状況を飲み込めず困惑する。
誰かが視界の先にいる…綺麗なお姉さんだ。
あっ、綺麗なお姉さんがこちらに気づき近づいてくる。
「佐藤初さん、始めまして」
初対面なのに、綺麗なお姉さんに名前を言われてしまったぞ、どういう事だ?
初対面ではあるが、僕はこの綺麗なお姉さんを何処かで見たことがある……何処だったかな?
あっ!! さっきまでキャストオフ絵を描いてた若奥様じゃないか、この人……。
「あのぉ、先日、テレビに出られてましたよね?」
「えっ、何のことでしょうか?」と言って、お姉さんがあきらかに動揺している。
「人違いじゃないでしょうか? 佐藤さん」と、話を戻された。
この人、テレビに出てた若奥様だと思うんだけどなぁ……。
「いいえ、人違いです」
え? 何も言ってないのに考えを読まれた。
何なの? この人、エスパーか何か?
「エスパーでもありません」
「じゃぁ、若奥様にそっくりなお姉さんは誰なんです?」
「私は、ノルンと言います。所謂、運命を司る女神です。
あなたに単刀直入に申し上げます。
佐藤初さん。貴方は誰もいない部屋で、一人寂しくお亡くなりになりました」
「えっ!?」
いやいや、まてまて、僕が最後に書いた絵が、このお姉さんのキャストオフ画像なのか。
人としてそれは……何か狂ってる気もするが、それはそれでいいだろう。
若奥様にはそれだけの価値があったし、これも絵描きの性だしな。
「なんてモノを描いてるんですか、貴方は……」と言って、女神様が僕が描いた絵を何処からか取り出した。
取り出した絵を見て、女神様がこう言った。
「何故、私が脱がされているのかわかりませんが、凄く愛情にあふれてる良い絵ですね。
この絵の女性に、恋心を持って絵を描いたようなそんな情景が目に浮かぶようです」
素直に自分の絵を褒められて、嬉しかった。
「誰の目にも見せれなかった……。
その絵を見て貰い褒められて嬉しいです、女神様」
「話が脱線しましたね。
私は先ほど説明した通り、運命を司る女神です。
お亡くなりになった佐藤さんに二つの選択を与えましょう」と、女神様が言ってきた。
続けて、女神は提案を出してきた。
「1つめは、新しい肉体を与え、1からやり直す俗にいう輪廻転生です。
2つめは、貴方の知識を残したまま、異世界で生き返る。
この二つの運命の選択をあなたに与えましょう......。
そうですね、異世界だと知識はあってもその扱いに困るでしょうから
異世界での成人年齢の16歳からのスタートってのはどうでしょう。」
「新しい肉体をもらった場合、記憶はどうなるの?」と、僕は聞き返した。
「輪廻転生の流れに乗るのです、当然ですが、無くなりますよ。
新たな個としての人生を送っていただきます」
僕としての存在がなくなってしまうのか、どうせならもっと絵を描き続けたかったなぁ……。
「佐藤さん、あなたの考えてる事はよくわかりました。
それならば、異世界でも絵を描き続ければいいんじゃないですか?」
女神は、僕にアドバイスをくれた。
異世界で画家か、それも面白そうだな……。
「あなたが仮に、女神だったとしましょう。
異世界とか行っても、僕は何もすることができませんよ。
そう考えると、大人しく新しい肉体の方がいいような気もします」
「わかりました。
佐藤さんが異世界に行くというのなら、あなたの希望を何でも1つ聞き入れましょう」
この流れは、異世界転生の良くある展開?
それと、さっき何でもって女神様は何でもっていってくれたよな。
「最初に聞いておきたい、異世界で魔王と戦えとかそういった制約は?」と、確認を取った。
「ありませんよ。
私はあなたの進むべき道を示すだけですので」
「そっか、それじゃ異世界でも絵を描きたいです」
「それだと、何の願いも必要ないですよね?
絵を描ければ、出来る事ですし……」と、女神はもっともな事を言った。
「あー、それなら。
異世界の何処の場所ででも、デジタルで絵を描ける環境と印刷をできる環境を下さい」
これは、無理筋かなぁ……?
「可能ですよ。
本当にそれでよろしいですか?」と、あっさりと答えられた。
「異世界で生きていく上で、その能力だと苦労することになると思いますよ。佐藤さん」
「能力はそれでいいんで、僕が異世界に行く前にノルン様、僕の絵のモデルになってください!!」と、聞いてみた。
「解りました。佐藤さんが望むのならモデルの件引き受けましょう」
「やった!! 女神様を見ながら絵が描ける!!」
「ホントに転生の特典は、それでいいんですか?」と女神が聞き返してきた。
どうせ、僕は戦うつもりもないし。
絵を描ける環境さえあれば、何とか生きていけるさ異世界でも。
「いいんです。
それより絵を描ける環境の件と、ノルン様が絵のモデルになってくれるんですよね?」
「はい。それくらいの時間は、貴方にお付き合いしましょう」
「やった!! ノルン様、なんでも聞いてくれるんですよね? それがヌードであっても?」
「あっ!!」
「[若奥様]のキャストオフをリアルで拝むことができるなんて、生きててよかった」
「いや、死んでますよ? それに、ヌードといっても芸術の為ですよね?」
「はい、そうですよ。
当然じゃないですか……」
呆れた感じに、女神が苦笑していた。
それから興がノリに乗って2日間、強制的に女神様をモデルに何枚もの絵を描き上げた……。
それこそ、普通の絵も何枚も描いたし、肌色成分多めの絵も何枚も描いた。
下書きのみで、デジタルで取り込みだけしてある絵なんかも多数ある。
女神様は想像通りのナイスバディでした。
絵を描き終わった後にこう思ったね、我が人生に一遍の悔いなしと。
「異世界転生の手続きがかなり長くなりましたが、詳しい確認はそちらで行ってください。
それでは、異世界転生を希望でよろしいですね?
長時間、女神の私を辱めたんです拒否は許しませんよ……」と、言って女神様はかなりご立腹のようだ。
「大丈夫だ、問題ない」
女神が、羽衣の一部を切り取り僕に巻き付けてきた。
「何してるんです?」と、女神に訊ねた。
「異世界に送りやすいように[加工]してるの……」
グエッ、苦しい死ぬ……って、すでに死んでたんだった。
グルグルグル。(羽衣をひたすら巻いている)
「できあがりー。
萌え豚は、異世界に出荷よー」
「(´・ω・`)そんなー!」という、お約束の言葉を僕は言った。
こうして僕は、異世界に転生もとい出荷されていくのであった。
本日の投稿は6話投稿になります。
1話 7:00 ※イマココ
2話 7:00
3話 7:00
4話 12:00~13:00 の間
5話 15:00~16:00 の間
6話 19:00~20:00 の間
の6話投稿です。