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第三話:固定概念の敵

 チクタク、チクタク、チクタクタク。



―1―

「よう来なさった。まぁ座りなさいや」

 壁一面のネジ巻き時計。

 振り子時計から懐中時計。

 果ては腕時計から仕掛け時計まで何でもありだ。

 その秒針は1分1秒と狂っておらず、それほどまでに正確だと逆に恐怖すら感じる。そんな恐怖を感じながらも渋々、薫は老人に促された席へと座った。

「先にコーヒーでも入れようか。いや、お嬢さんには紅茶の方がいいかな……」

 茶色いニット帽をした老人がニコリと笑う。

 サンタクロースを連想しそうな顔立ちである。

「いえ結構です。此所に来るのは私が覚えている限り“七回目”ですから……それよりも私は話を進めたい」

「そうか……。美味しい茶っ葉が手に入ったのだが。そう言われたら私は従うしかないな」

 老人は浮かした腰を降ろして、白い眉を上げて薫に聞く。

「さてではお嬢さん。話を聞こうか?」

 時計店の主は白い入れ歯を見せて、ニヤリと笑う。

「単刀直入に言いましょう。今すぐに世界の連鎖を止めてください」

 時計店の主はフフと笑い、眉を上げる。

「何が気に入らん? ループがそんなに嫌いかい?」

 チッ。チッ。チッ。と秒針が時を刻む。この音がどうも薫は崩壊に向かって刻んでいるようにしか聞こえない。

「同じ日常を体験した所で何の意味があるんですか?」

「ふふ」

「何がおかしいのです」

「いや、失敬失敬。君が言う同じ時間というのがワシの考える時間と全く違うからつい……な」

 老人は含み笑いを浮かべて薫を見る。孫でも見るかのようなそんな柔らかい瞳で見つめる。

 薫は思う。

 何故この人が敵になるのだろうと悩む。敵という概念は何かしら世界に恨みがあったり、世界の真理に絶望したりと大抵は世界に嫌気がさして敵となる場合が多い……識髪や一ヶ月前に起きたバラバラの事件がそうだ、薫の目の前に居るこの老人には敵になる要素が全くと言っていいほど無い。

 これは薫にすれば力は確かに老人を中心に展開しているが、敵なのか敵ではないのかその判断が付かなければ薫は拳を振う事が出来ない。

「同じでは無いとはどう言う意味でしょうか?」

「言葉通りさ。君は勘違いしているようだが時間がずっとループしてても同じ事を繰り返す人間など稀なのさ。ゼンマイを巻いたブリキの人形が全く同じ位置を歩くかい? それと一緒だ」

 まぁ……機微の変化に気付くか気付かないかの話だけどねと老人は付け加える。

「その機微が同じでは無いと言いたいのですか? でも大きな流れは変えれませんよ」

「確かにお嬢さんの言う通りだ。森羅万象を変える事など人間には不可能だ。それが時間などという大きな大河を変えるなど無理じゃろうな」

「では何故ループを……」

 そう言い終るか終わらないかと同時に見慣れた天井が目に入った。

 また此所からかと薫は額に手を当てたまま溜め息を吐いた。

「死にたい……」

 そんな言葉がため息と同時に口からこぼれた。





第三章

『固定概念の敵』





「今日午前六時頃旭区沢宮二丁目で火災が発生しました。その火事はおおよそ民家四件を焼き尽くし、現在も消防隊が鎮火に当っておりますが……」

 テレビを見ながら一言一句間違わずにキャスターの言葉を反芻する。

 バラバラは間抜けな面でトーストを咥えたまま、唖然として薫を見ていた。

「姉さん。どうしちゃったのいったい」

「簡単よ。三十回くらい同じ事聞いてれば嫌でも覚えるわよ。あとね。バラバラ。今日の晩ご飯はすき焼以外がいいわ」

「え!? えー!! 何で判ったの姉さん! 僕今日すき焼にしようって何で判ったの!」

 いつもと同じ反応。いや、いいんだけどね別に。

 ただ、ただ毎日見ている身の私としては……変わらないバラバラの反応は拷問に近い。

「実はお姉ちゃん超能力使えるようになったのよ」

「えー!!」

 もうどうでも良くなってきたので流す。

「とりあえず今日はすき焼以外でお願いね? 流石に三十回もすき焼だと飽きるよ」

 溜め息を吐きながらチャンネルを変える。どれもこれも様変わりしない番組で飽きる。

「あー姉さん。何で消しちゃうんだよ。今日の天気見たかったのに!」

「今日は晴れのち雨よ。一時頃に雨が降り出すから、その時間までに洗濯取り込んだり、買い物に行けばいいわ」

 コーヒーを飲みながらそんな事を言う。

「姉さんの好きな今日の占いは」

「私が八位であんたが三位」

 この三十のリフレインで、当った覚えなど皆無に等しいのだけれど……

 所詮占いは占いという事だろう。当たるもハッケ当たらぬもハッケ。

 不思議な顔をしたバラバラの頭をクシャクシャに撫でると薫は立ち上がり、鞄を持って家を出る。

 いつもより三十分も早い登校だが気にしない。

 同じ日、同じ時間に出た所で変化などしなかったのだ。

 だから少しでも変えようと一分単位で家を出る時間を変えていると、気付けばこんな時間に家を出る事になってしまった。

 大体、後三十分すると学園へ続く学園坂は人で溢れかえるのだが、今は学生服を着ている人間は薫一人しか居ない。

 カーボン柄のマフラーをキツく首に巻き直しながら薫は無意識に肩を上げながら学校へ向かう。

「どうして私はこうも勤勉に学校なんて行ってるんだろうなぁ……」

 勿論、このループの間に色々な事をしたのも事実だ。

 競馬やって当てたり、銀行強盗やったり、バラバラ襲ったり、無駄に男はべらかしてみたり、クソ高いだけの料理食べに行ったりとしたのだけれど、たった一日という尺度で出来る事などあまり無いのだ。

 それこそ一夏にしか生きれない蝉のように短い時間で楽しむ事など出来やしない。

 死ぬ事すらままならなかった。

 そもそもあの老人を倒すだけならば、簡単に出来る。

 ただ単純に捻りつぶすことなど一日もかからずとも容易い事だろう。

 ただ、薫はそれを出来ずに居た。

 薫の力には制約がある。

 敵と見なした者のみ力を発揮する。その制約がある。

 だからこそのヒーローの中で下から二番目なのだ。

 勿論、制約無き者も居るがそれでは我々が敵とみなす人間と大差無いのだ。

 それゆえに薫は自分の力に制約を設けた。それがこの力の源でもある。

 助ける事も動く事も出来なかった自分への戒めでもある。戒めというか罪だ。

「……さぶ」

 色々と考え込んでいると気付けば正門前に居た。

 早く来過ぎたと思う。というか三十分前に家を出たことすらなかった。

 いつもなら、この時間はまだ家で寝言垂れながら涎垂らして起こしに来たバラバラの顔を蹴って、布団でぬくぬくしてる筈なのになぁとか思いながら薫は校舎へと入る。

 靴箱から上履きを履き替えて二年校舎である東館の方へと向かう。

 正門前が三年校舎と移動教室。渡り廊下を渡って東が二年校舎と部室棟。一年は南館と体育館と食堂となっている。

 カタカナの『コ』を反対にして貰えれば分りやすい。

 渡り廊下を進むと何食わぬ顔で霧恵と出合った。

「ありゃ? オルちゃん早いねぇ」

「何でアンタがこの時間に此所に居るのよ……」

 唖然とする。

 神林 霧恵は数少ない薫の友達である。

 黒いお尻まであるうっとうしい髪と、前髪ぱっつんで揃えた日本人形のような顔立ちで、本人曰く泣き黒子がチャームポイントらしいが、泣かされてばかりいる女の子だ

 しかし神林 霧恵はこの日、遅刻ギリギリに学校に来る筈だった。

「え? あぁ弓道部の朝練があったからそれに行ったの。私、副部長だし」

「いやでも、それは……おかしい」

「なにぃ? 私が頑張っちゃ駄目なのぉ? オルちゃんそれはヒドいよぉ」

 クスクスと肩で笑いながら霧恵は口を隠して笑う。

「いや、でも……」

 ループが狂ってきてる?

 いや、でも同じ時間は無いとあの老人も言って居た筈である。ならばやはりこれも機微の変化なのだろうか?

 ただ何処からが機微なのだ。些細な事かも知れないが機微とは何処から何処までを指す言葉なのだろう。

 そもそも霧恵が遅刻しそうになるのと、霧恵が朝早くに来るのは機微なのか?

 じゃあ時間の大筋とは何処なのだろう?

 あの老人は世界に対してループをかけていたのでは無いのか?

「どうしたのオルちゃん? 難しい顔して……」

 ハッと気がつくと霧恵が黒髪を垂らしながら後ろ手にして薫を覗き込んで居る。

 肌白いなぁとか薫は考える。

 さっきまで考えていた思考は吹き飛んで、雪のように白い肌と墨を垂らしたような黒髪は反撥する事無く、彼女に良くも悪くも似合いすぎていて羨ましいを通り越して嫉妬すら感じる。

 そのまま二人は見つめあったまま動かない。

 白い眼光と真っ黒な眼球が近付いてくる。

 ん? 近付いてくる?

「チュッ」

 キスされました。

 ごめん。訂正。

 キスされましたorz

「えへへへへ」

「あはははは」

「えへへへへ」

「あはははは」

 二人見つめ会って笑い会う。

 反応を伺うにしろ先に笑われたならば笑うしか無い。

 いや、ぶっちゃけて話しますと私、不肖この女子校生である朝比奈 薫は先程のキスがファーストキスでした……。

 愕然と崩れ落ちてその場で泣く。

「初めてだったのに……フレンチもまだなのに……」

「え!? 嘘! ごめんねぇ。何かねぇオルちゃんの顔見てたらしたくなった」

「したくなったからってキスする……普通? つうかねアンタは誰彼構わずキスするのは辞めた方がいいってあれほど言ったのに」

「失礼なッ! 私はねぇ可愛い子と女の子にしかしないも〜ん」

 プンスカプンスカという擬音が似合いそうな怒り方をしながら霧恵は腰に手を当てて怒っている。

 神林 霧恵。

 日本人形のような独特の可愛さで、泣き黒子がチャームポイントの彼女。

 立てば芍薬、座れば牡丹を体で表し、廊下を歩けば男の子に声を掛けられ、教科書を忘れてたと言えば三年だろうが一年だろうが教科書を貸しに来るという伝説を残した彼女の正体は……

「だって私、百合だも〜ん」

 なまじ可愛い過ぎて死ぬかと思った。




―2―


「かーおーる。聞いたよ。あんた遂に霧恵に唇奪われたんだってぇ? しかも初めてなんだって?」

 褐色の肌に茶色い髪。

「うっさいなぁ。私に構うな。構うなッ! ほっといてよ。いい加減泣くぞ!」

 伏せっている薫の頭に肘を置きながらニヤニヤと喋りかけている。

「ほう……そんな口を私に聞けるのか。噂の弟くんに言えばどうなることやら」

 ガバッと肘ごと顔を上げてブレザーのリボンごと掴んで顔を近付ける。

「彩葉……そんな事したら、あんたを〇ったするからね」

「何。その伏せ字ッ! 何気に怖いんだけど!」

「ピーでもいいわよ。モザイク処理でグチャグチャにしてあげてもいいわよ。その豊潤な胸使ってピーでピーして〇っちゃうわよ」

「殆ど伏せ字じゃん……」

「『ごめんなさい。本当にごめんなさい。だからもう臭いおピーで私の〇〇〇〇をグチャグチャにしないでぇ。あぁまた中は……』という台詞を生で言わすわよ」

「鬼畜じゃんッ! もろ肉〇器確定じゃん」

「くふふふふふ」

「ごめん。もう言わないからその笑い方辞めて……ものすごく怖いから」


 東条 彩葉。

 この人も数少ない薫の友達である。というか霧恵と彩葉以外に薫は友達だと思っている人間は居ない。

 友達というのは信じれるか信じられないかの違いで、それ以上でもそれ以下でも無い。

 それが一番重要な事なのだけれど。

 例えば裏切ったり裏切られたり、利用したり利用されたり、友達だと言って惑わしたり、表面だけ繕って友達だと言ってみたり、それは輪という枠組みが欲しいだけの人間にしか過ぎない。

 輪を得るとはそういう事。

 そうやって騙し騙し生きて居るのが人間なのだ。

 ただ、始めから輪というものを作れない人間だっている。

 それが薫と霧恵と彩葉だ。

 薫は勿論、人になど興味は無く、良く独りを好む。それゆえに異物扱いされて薫は孤立した。

 霧恵はなまじ性格も顔もいいからか、幼少の頃から苛めを受けた。

 そのトラウマの為に未だにあの舌っ足らずに言葉を話す。あの喋り方は頭を悪く見せようとする彼女の悪い癖なのだ。

 頭が悪ければ構って貰えるというそういうトラウマなのだ

 彩葉は褐色肌の容姿の為にウリの噂が絶えない。

 彼女の肌はサーファー焼けなのだが、周りはそれを認めない。根も葉もない噂を立てられ、彼女は呆れ果てて輪から抜けた。

 そんなはみ出し者を集めたのが、何の因果か薫だった。

 霧恵の時は苛めている現場をバスケットの試合中に目撃して、相手の顔にロングパス決めたら何か懐かれた。

 彩葉の時は町でバラバラとラヴラヴして買い物をしている所をバイト中に目撃されてバイト禁制の家の学校に言わない代わりに秘密を共有するという理由で友達になった。

 そんなこんなで何をするにも三人になった。

 御飯を食べる時だって、体育の班決めだって何故か三人一緒になった。

 それが薫には居心地がいいのか悪いのかは未だに判っていない。

 始めての感覚だったから。

「ん〜なにぃ? 私のぉ話しぃ?」

 霧恵が間抜けな口調でお弁当を持って集まってきた。

「別にアンタの話なんかしてないっつうの。つうかね? 何でアンタ達は毎日毎日当たり前のように私の席に寄ってくる訳?」

 溜め息を吐きながら問い掛ける。

 毎日毎日同じ事を繰り返し繰り返し伝えて居るのにも関わらず、この二人は毎度毎度お弁当を持って私の席に集まってくる。

「いいじゃん別に。アンタはいちいちいちいち何かに付けてそう言うんだから」

 薫の席の後ろから誰のものかも判らない椅子を持ち出して彩葉は座る。

 霧恵は霧恵で自分の椅子をちゃんと持参しており、私の机の端にすまなさそうにお弁当を置いて、私と彩葉の反対側へと座る。

 ヒソヒソと教室の隅から嫌味タップリの陰口が聞こえて来るがそれを無視して、薫は自分の鞄からバラバラが作ってくれたお弁当を開く。


「うわぁ。マジで超旨そうなんだけど……薫のお弁当」

「そんな事言っても、あげないわよ」

「自慢の弟ぉ君がぁ作ってぇくれたんだもんねぇ」

 のびのびと霧恵はそんな事を言う。

「あんたに馬鹿にされると、何か通常より二倍腹立つわ」

「そんな事いったってぇー私だってわざとじゃないものー」

「じゃあ最初っからちゃかすな」

 水分を含んだエビフライを咥えてそう返す。

「そういえばさ、全然関係ないけどエビフライのしっぽって食べるタイプ? それとも残すほう?」

 彩葉は真面目な顔してそんな事を口走る。

「いきなり何の話よ? いいじゃない。チョココロネが下から食べようが上から食べようがどっちだって……そもそもチョコが零れるのがいやだったらはじめっからチョココロネなんて食べなきゃいいのよ。昔の高飛車の女がいったようにパンが無ければ青酸カリを飲めばいいのよ」

「すっごい嫌なマリーアントワネットだな。そもそもその時代から青酸カリってあったのか?」

「さーそこまで頭よくないからわかんない。そもそもそっちじゃなくて私としてはチョココロネのほうを突っ込んで欲しかったわ」

「ああ悪い。今ひとつあのオタク漫画のなにが面白いのか理解できなくてさ」

「メガネ死んでるからね。そもそもあれってオタクがオタクの事描くなんて最強の嫌みだと思うのは私だけ?」

「そういう皮肉な解釈しか出来ないから、人間もまともじゃないんだよ」

「あんたに言われたら終わりだと思うわ……で? なんでいきなり青酸カリの話なのよ?」

「それあんたがいったじゃん! 私青酸カリとか一言も言った覚えないわよ!」

「あれ? そうだったけ? 確かに青酸カリはメロンソーダと似てるからって、私が青酸カリとメロンソーダ変えてあんたに飲ませたりしないから大丈夫よ」

「何でそんなに具体的なのッ! おねーさんビックリだよッ! 失禁しそうな勢いだよ!」

「失禁するなら栓をふさげばいいじゃない」

「そんな使われ方するなんてマリーアントワネットもビックリだよ!」

「で? エビフライがなんだって?」

「あんた相変わらずムカツク返しするよね。いやだからエビフライの尻尾食べるか残すかって話よ」

「そんな事聞いてどうすんの? つかどうすんの?」

「いや、気になっただけだけど……」


 そういうと彩葉は私から目をそらした。

 いったいなんだって話なんだろう? 別にどっちでもいいとは思うのだけども。そもそもエビフライの尻尾なんて残そうが食べようが害のあるものじゃないんだし、それを聞いた所で彩葉に良い事なんて一つも無いと思うのだけども。


「ただの疑問?」

「そ。ただふと思っただけ」

「じゃあ多分残すかな? カリカリに揚げてるエビフライなら食べるけど、しわしわの尻尾とかはゆるい感じがして喉につまるから好きじゃない」

「ほぇー」

「だからなんなのよ」

「いや結構食べる人が多いんだよ。80%ぐらいかな? でもあんたは私の思ったと通りに食べないを選んだからなんかそうだよなぁって思った」

 彩葉は照れる。照れられても困る。百合ッ子は霧恵だけでもう十分だ。

「なにが嬉しいよ気持ち悪い。そんな事考えても人の趣味も人の性癖も勿論趣向だってその場限りしかないっていうのに」

「どういう意味?」

 彩葉が不思議そうな顔をして聞いてきた。

「そんなもの人の流れみてたら判るでしょ。芯が無い人間なんて沢山いるわよ。それこそこの教室見てみなさいよ。仲良かった人間がいつの間にか敵になってたり、いままで好きだって言ってた人間が手のひら返したようにきらいになってたり、前好きだった物が流行が終わったからってどうでもよくなってたり、人の趣向や趣味とかって結局はそういう物でそれって結局はその場限りの嘘って事になるのよ」

 お弁当の中にきんぴらごぼうが何故か入ってた。隣を見るとニコニコと霧恵が笑いながらきらいな物を私に勧めていた。

「あんたねーきんぴらごぼう食べれるようになりなさいって何度もいったでしょ?」

「だってぇあのこりこりする感覚がきらいなんだもん」

「子供か」

 そんな事いいなが口に含む私も私かも知れない。

「でも流行と趣向は違わなく無い?」

「何がどう違うのよ? 私はどう考えてもそうとしか思えないわよ」

「いやだってさ。趣向は自分が前から好きなもので流行は今好きなものじゃないの?」

「あーそういう見方は確かにあるわ。あんたの言うことは間違いではないわね」

「でしょ?」

 きんぴらごぼうを私の弁当に入れる作業を辞めて霧恵が喋る。

「でもぉそれでもぉ流行と趣向とかって関係はあるとおもうなぁ。ダイエット特集とかでダイエットに効きますとか言われたら私いつの間にかピーマン食べられるようになったもん」

「そんなこと云われてもというか、そのやせ細った体のどこにあんたはまだ痩せようとか考えるわけ? 嫌み? それって嫌み?」

「薫は体重の話になると食いつきがよすぎなんだよ。いいじゃん別に。ぷにぷにでも」

「違います! 筋肉ですぅ〜私のは脂肪じゃなくて筋肉ですう。だから胸も無いんです〜」

 自分で云ってて空しくなった。というか死にたくなった。なぜか知らないが泣きたくなった。ちょっと涙目だった。

「泣いてい?」

「あんた相変わらず自爆好きなぁ」

 自爆というより自虐だよとか突っ込みを入れてみた。

 二人の目線が薫るの胸元に行く。

 薫は泣きながら教室を出て行った。

 胸は無いが器はでかいもんって自分で思う事にした。


―3ー


 学校で泣き疲れた薫はというか学校で泣くのは初めてなような気もしないでも無いが、彩葉が帰りにピエロの人肉を使っているハンバーガーをおごってくれるというので渋々つきあうことになった。

「いつまで拗ねてんだよ。いいじゃん。薫は胸ないほうがかわいいって。だっておまえ。薫が巨乳キャラなんてなってみろ。すごく気持ち悪いぞ」

 彩葉が薫の肩に手を回しながら機嫌を直すために何ともわかりやすいおべっかを使って慰めている。

「えーっと。えーっとね? オルちゃんは巨乳になりたいんなら私の少しあげるからね? ね?」

「おまえ。遠回しに嫌み言ってどうするんだ」

「だって肩こるし。あんまりいいことないんだもん。あげれるんだったらあげるよぉ」

「だーそんな事いうなぁ!! ますます薫が惨めになるだろうが!!」

「おまえら二人帰れ。私の前に二度と姿を見せるな…………」

 四人掛けのテーブルに腰掛けながら薫はポテトをリスのようにかじりながら目の前に座る霧恵の胸をずっと見ていた。

 もちろん、涙目で。

「いいなぁほんとうらやましい。なんでこんなにも同じ人間なのにこうも違うのだろう」

 神様は確実に不公平だ。霧恵は多分神様に賄賂でも渡したに違いない。

 私は確実に神様に喧嘩売った結果がこれなんだろう。

 ああ。殺せるんなら神様殺したい。

 だからアダムとイブに裏切られたりするんだ神様の糞野郎め。人望ねーんだよ。

「というかあれだよね。ここに来たところで何か話す話題というか話題も無いのは確かなんだけど。どうする? このあとぶらぶらと買い物でもする? 久しぶりに薫もつきあってるし」

 そんなに私はつきあい悪いつもりは無いんだけども、でもまぁたまにはというか一度くらいはハメはずしてもいいかもしれない。

 古今ところ毎日、時計屋に会いに行って毎度ループループだからそれはそれで気晴らしになるかもしれない。

「じゃあさ。じゃあさ。時計屋でもいかない? すごい時計屋があるんだってさ。壁一面時計だらけで。老人一人で経営してるらしいいんだけど、それがまた暇らしくて毎度いくと紅茶とかコーヒーとか出してくれるんだってさ」

「へぇ」

 …………なんだろうこの不愉快さは。

 そもそも今日は忘れようと考えていたときにこの仕打ちか。私に確実にループ止めてくれって事を遠回しに云っているのか?

 なんなんだ厄日か。やはり神様は私が嫌いなのか。

「私は賛成だけど。でもその前に下着とか服とかみたいかなぁ」

「じゃあ先にモール行ってその後行くっていうのはどう? 別段何もないんでしょ? 今日は?」

 帰ればバラバラがご飯を…………

「よし。何もないっと。じゃあさっさといきますかー」

 有無も云わさずに連れて行かれた。まだフィレオフィッシュ残ってたのに……


 そんなこんなで現在モール。

 正直。バラバラからは小遣いとして一万円はもらってるがあまり使った覚えが無いのでどうしていいかわからない。

 そもそも。そういえば前の私はどうしてたっけ? とか思い出しながら多分、はなしをあわせていたのだろうと云うことだけしかわからなかった。

 だから適当に見て回ってると遠くから霧恵がキーホルダーを持って走ってきた。

「オグちゃんオグちゃん。これおそろいで買わない?」

 見てみると人差し指ぐらいのぬいぐるみで。怒っている女の子と泣いている女の子の二つが霧恵の指に挟まっていた。

「なにこれ?」

「えーっとね? 性格ぬいぐるみ?」

「なによその性格ぬいぐるみって……」

「自分の性格をぬいぐるみであらわそうみたいな感じのぉぬいぐるみ?」

「わかんないのに持ってきたのっ!」

「だってぇこれオグちゃんそっくりだもん」

 ニコニコ顔の霧恵から視界を外してぬいぐるみを凝視してみるが……私とはとうてい似ても似つかないほどの顔立ちだ。

 そもそもなんだうが―っって。私ってそんなに怒ってる感じがするのか? するのか?

「似てないって……」

「そっくりだよー。うがーってところがポイントです。もうピンポイントです。ロックオンです。波状攻撃です」

「まさかの戦艦規模っ!?」

「かおうよー。この泣いてるのが私で。ついでにこの……じゃじゃーん」

 効果音付きで出された人形がゲラゲラと笑う。先ほどとは違う女の子のぬいぐるみ。

「これがアザちん」

「似てないって……」

「いいじゃん性格人形なんだからさぁ。私たちの友情だよぉ」

「なんかのろいのにんぎょうっぽくてやだ。私たちの友情を裏切ったら的で怖い」

「裏切れば格兵器です」

「まさかの地球滅亡フラグっ!?」

「北朝鮮がテポドンです」

「あれでしょ? てんぷらが上に乗ってるやつだよね?」

「それ天丼です」

「そっかぁ……天丼かぁ」

「買おうよじゃなきゃヤンデレになって刺すよ」

「怖いよッ!?」

「アイスピックで刺すよ! ずたずただよ。牡丹と薔薇はどっちも綺麗だよ! 二階から突き落として笑うとかあそこまでいけば爆笑もんだとおもうよ!」

「わかったから。わかったから買うから。買うから。それ以上喋らないで」

「涼宮ハルヒは結局はクーデレとツンデレと巨乳キャラを出しただ」

「それ以上いうなぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。いやストーリーとかしっかりしてるよ。うんおもしろいし」

 モールに来てテンションが最大級に上がっている霧恵に押されてぬいぐるみ770円をお買い上げ。

 無駄に高くて後悔した。

「オグちゃんオグちゃん。一緒に携帯につけよ。携帯に」

 携帯といわれてもなぁ。携帯なぁ。

「ごめん持ってないのよ実は携帯…………」

「へ?」

 驚いてる。驚いてる。

「なんで?」

「なんでって、あんまり必要ないかなっておもってさ」

 実際問題。あまり必要な事が無い。

 まぁ電話をかけるだけでメールとかもめんどくさそうでいやだ。

 不便になることもないし。家に帰ればバラバラだっているし。

「あ。もしもし? アザちん? あのねぇ。このアマ携帯もってないんだって」

 あれ? このアマって云われたよ? なんか自然に流してるけどこのアマっていわれたよ? 霧恵キャラ変わってない? あれ? あの舌足らずなしゃべりの霧恵はどこに行ったの? あのかわいいいつもいじられキャラの霧恵はどこにいったの?

「どうしよっか? てか今時携帯もってないとかないよねぇー。時代遅れもはだはだしいよねぇ。ほんと死ねばいいのにねぇ。もう最悪。なんていうの? こういう人間は友達いません見たいな雰囲気だしてないで携帯の一つでももって自分から声かけていけって話だよねぇ。ほんと死ねばいいのに。というか死ねばいいのに」

 あれ? 私って気づいて無いだけでいじめられてる? 私っていじめられっ子だったの? ねぇ? あれ? というか霧恵なんか今時の女の子って感じで怖いよ?

「おわったよぉ。今からアザちんくるってぇ携帯買いにこう」

「でも私そんなにお金持ってないよ?」

「チッ」

「まさかの舌打ちッ!? あなた霧恵だよね? 私の知ってる霧恵だよねッ?」

「大丈夫だよぉ。まだ0円携帯とかあると思うからぁ」

 スルー!? あれ? やっぱり私っていじめられてる?

「死ねばいいのに」

 霧恵。恐ろしい子!!!!!!!!!!!!!!




 数分して大量の袋を持った彩葉が到着。

「悪い遅れた。そんなに買うつもり無かったんだが、なんか見てたらほしくなってさ」

「なに買ったのぉ?」

「ん? ああ。水着とか春物とかその辺」

「水着はまだ早くない? 時期的に」

「いやでもなんだかんだで波乗りには必要なのよ。ウェアはなんか着心地悪いときあるし、その中に着る水着だってすぐだめになるしさ」

「そんなにすぐ痛むもの? てか波に乗ってなにがたのしいのか私には疑問だわ」

「そうか? 一度でもラウンドハウスカットバックとかチューブの中とか体験したらもう病みつきだぜ。すっげーの上に波があるんだから。しかもチューブの中にいると外と中がわかんなくなってくるんだけど、その先の景色がすごく鮮明に映るのよ。一度やったらもう病気だよ。まぁはじめの頃はボード折れたりしてたいへんだったんだけどさ」

 全然意味のわからない事を専門用語で並び立てられても非経験の人間には全然わからないわけでして……でもすごく楽しそうに喋る彩葉を見てるとなんだかこっまで満足してくるから不思議だ。

「そんなわからない事はどうでもいいからぁとりあえずは携帯買いに行こうよー」

「わかったからそんなに急ぐなっての。いけばいいんだろいけば。ショップは逃げないんだからいいじゃんか」

「わかってないなぁ。初めての経験だよ。夏の日の経験とはまた違うんだよ。いわゆる初体験だよ。オグちゃんの初た」

「やかましいわ! 初体験初体験連呼すな。恥ずかしい」

 とりあえず、彩葉が荷物置きたいというのでコインロッカーに荷物を預けて、そのままモール内にあるたくさんの携帯ショップを見て回る。

 色とりどりの携帯をみながら思うのだが。こんなに機能増やしてどうするんだろうか?

 なんなのだろう? しまいには携帯一つで何にでも出来てしまいそうな気がする。

「オグちゃんこれは? これ? DSN-10だってメールに名前書き込むとその人死ぬんだって!?」

「私はこっちかな。必ず着信がある携帯だって。なんか未来から動画付きでメール送られてくるらしいよ。つかそれならメールアリだよね?」

「あ、これは? デスマッチだって」

「何がッ!?」

「こっちはどうよ? 天然素材」

「意味わかんない。何が天然? どう見たって人工じゃん」

「繁殖用」

「すげーの来ちゃった!? 繁殖とかきちゃったよ!?」

「VOCALOID初音ミク」

「初音ミクっていってんじゃん! 伏せ字つかってないじゃん! てかPCソフトじゃん!」

「液体窒素」

「もう携帯ですらないッ!?」

「君のために鐘は鳴る」

「どっちでもいいよッ!」

「携帯用」

「何がッ! 何が携帯用ッ!? そもそも携帯なのに携帯用?」

「お京阪」

「京阪じゃん。阪急線高田行きじゃん!? てか列車じゃん」

「パーティは全滅しました」

「Aボタン連打しすぎ!」

「まさかのボス戦」

「会話すんなおまえら!!」

「テレレテッテッテテー」

「レベルアップすなッ!?」

「デンデロデンデローデンドン」

「冒険の書消すなッ!!」

 なんで普通なのが一個もないんだ……おかしいだろ。

 そもそもなんでドラクエ? てかなんでドラクエ?

「あこれは? 白いの。本体価格0円でワンセグとか見れないけど、でもメールとか電話だけするんならシンプルなのが一番だよ」

「もうなんでもいい」

 激しく疲れたよ。

 記入用紙に書くと保護者欄が出てきたので識髪の名前を書いてそのままにしておいた。

 なにかあればあいつが何とかしてくれるだろう。

 その真新しい携帯とやらをとろうとしたときにすかさず、霧恵が携帯をもぎ取っていった。

 その隣で彩葉が自分の携帯をあけてなにやら霧恵と話し込んでいる。

「はい。おっけー。これが私と彩葉の携帯とアドレス。いつでもメールしてくるんだよ。私もメールするし」

 初めて持った携帯というのは以外に重くて、それ以上になんか心の中が変にかき回されるような感じがして、妙に落ち着かなかった。

「じゃあこれからどうする?」

 彩葉が楽しそうに語る。

「私は激しく疲れたから帰りたい…………」

「まだ帰るには早いよぉ。そうだ。プリクラとろ。プリクラ」

「あ、いいねぇ」

 何が? 何がどういいの? そもそもプリクラとかフリクリとかどう違うの!? てかプリクラって流行終わって撤去されたんじゃないの!?

 帰りたい衝動が出てきている薫の首根っこ掴まされて、ずるずると霧恵に引きずられていく。

「そういえば、結構初めてだよねぇ。おぐちゃんがこんなに遅くまでつきあってくれるの」

「ああ。そういえばそうだな。薫は気づいたら教室からいなくなってるもんな」

 バラバラがご飯作って待ってるからに決まってるからでしょ。ああ。多分今でもおとなしくジグゾーパズルでもしながら、待ってるんだろうなぁ。

「ああ。そんなこと云うと帰りたくなるじゃない!?」

「今日はだめぇ。プリクラ撮ってその後にクレープ食べて彩葉の言ってた時計屋に行くんだもん」

 せめて時計屋だけでも入れてほしくないものなのだが……

「なんであんたはそんなに元気なのよ……」

「だってオグちゃんと一緒だもん」

 笑いながら言われると反論すら出来なかった。




―4―

 カチカチカチと一定のリズム。

 チクタクチクタクと孤高の変速。

 水のような煙に包まれているかのような感覚がある。

「よう来なさった。まぁ座りなさいや」

 老人は語る。夢のような昨日と全く同じ台詞を語る。

 やはり壁一面の時計は1分1秒とも狂っておらず、それがなぜだか威圧感じみていて先ほど食べたクレープをはき出しそうになる。

「三人組とは珍しい。てっきり今回も一人だと思っておったよ」

 老人が私に向かって口を開くがそれを無視。

 今日は相手にしないと決めたのだ。ならば私だけでもその言いつけを守ってやる。みみっちいがそれぐらいしか私には抵抗できるすべがない。

「うわぁすごい時計の数」

「これはまた…………」

 二人して感嘆の声を上げている。それほどすごいのだろうか? 私には自爆装置にしか見えない。

 最後の1秒まで狂うことのない時計など、終焉に向かって進む黙示録ではないか。そんな自爆装置ほしくはない。

「おや? お二人さんは時計が好きかい? それはいいことだ。少し待ってなさい。おいしい紅茶の葉っぱを手に入れたところなんだ、入れてこよう」

 老人は腰を浮かせたと思うとその場で少し停止する。

「今回はいいのかい? 私に紅茶を入れさせても……」

「…………ご自由に」

「ふふ。ご自由に、か。そえれはいい答えだ」

 老人はカウンタ−横に常備されている石油ストーブの上に置かれてある銀色のポットを取ると、花柄のマグカップに葉をくゆらせて、湯をながしこんでいく。

「うむ。いいにおいだ。私はこの香りがたまらなく好きでね。なんとも言えない感覚になる。私はどうやってもこの紅茶というのには夢を感じてしかたがないのだ」

 薫にしゃべりかけているのだろうが、薫は何も言わない。言うつもりもない。答える気すら無い。

 ただ、壁にかけられてあり時計の音がうるさいと感じるだけだ。

 霧恵と彩葉は二人してなにやら時計を見上げながら止まっている……止まっている?

「彩葉? 霧恵?」

 いすから立ち上がろうとすると、立てなくなっている事に気がついた。

「時計というのは不思議なものでね。動いていると時間は間違いなく刻んでいるんだと勘違いする。それはいかがなものかなと私は考えてしまう。時計を信用しすぎて何か肝心なものを忘れているような気がして仕方がないのだよ」

 老人はマグカップを私の前に置くと先ほど座っていたいすに腰掛けた。

「何する気?」

「何もしないさ。何もする気も無いしね。ただ、君と落ち着いて話がしたかっただけだ」

「何の話よ。いつもはぐらかすくせに今更何を語るというの?」

「いや。簡単な話さ。君はループだと語ったが本当にループだと思っているのかい? そもそも時間という概念は進んでなければループなどしないのではないかい?」

 老人はそういって紅茶をすする。

「だからどういう意味よ。まどろっこしいのよ。言いたいことが意味不明すぎてわからないわ」

「簡単さ。認めてしまえばいいのだよ。何がとは言わないよ。これでも敵と名乗ってるんだ。ヒーローの敵だからね。君は私の力だと勘違いしているようだが本当にそうかな? 君はこの先を見たくないからこの時間をループしているだけじゃないのかい?」

「なにがいいたいの!?」

「簡単な話さ。僕が今から君が自分自身にかけた呪いを解いてあげようというんだ。僕もさすがに三十回もループなどして飽き飽きしていたところだからね」

「何を意味不明なこといってるの? あなたのせいでしょ? あなたのせいでこんな事になったんでしょ!? 動け! 今すぐぶっ殺してやる。あんたが責任転換するのは自由だけどね。自分の責任ぐらい自分でとれよ糞野郎が!! あんたは敵で私はヒーローなのよ!? あんたを倒せばこんなループ終わるの。それでおしまい。私がこの先を見たくない? ちゃんちゃらおかしいわね。私すら感じだ事のない明日をどうやってあんたは見てきた訳!? オオカミ男も対外にしなさいよ! 認める!? 何がよ!? 私は……私は……」

「君はね多分。何もおかしくはないんだよ。ただそうだね。ショックがでかかったんだろうね。だからヒーローの権限でこんな世界を作ってしまったのだろうね。君は案外といやがってはいたけれど、この関係が好きだったんだね」

 老人は時計を見上げている二人に目をやる。

「さぁ。もう終わり。いい子は帰る時間だ。………………泣かないでくれるかい?」


 その日からループが終わった。

 そして神林 霧恵が死んだ。



―5―


 次の日神林 霧恵の遺体が発見された。

 いじめの過剰暴力によるものだった。

 顔面は膨れあがり、綺麗だった髪はばらばらに切られ、それでもなお、私の名前を呼んで死んだと警察に聞かされた。

 遺留品は昨日買ったおそろいのぬいぐるみだった。携帯は逆におられていて私のアドレスすら見ることが出来なくなっていた。

 どこにでもあるいじめだと思った。

 どこにでもあるほんの些細な事件だと思った。

 次のループになればかえって来ると思っていた。

 だけど、ループはもう消えた事に気がついた。

 昨日死ねば助かった人間が次の日にはあっけなく死んだ。

 腹の黒い子が死んだ。意外と学校とは違う人間でびっくりした。性格が変わりすぎてびっくりした。私の事が大好きだと惜しげもなく語る姿にびっくりした。

 でも、なんでそんなになつくのだと思ったいた。確かに虐めを助けたのはわたしだけども、それでも安っぽい友情を感じられても内心としては困っていた。

 扱いにも困っていたし、男子には受けは良かったけども、女子には不人気でよくいじめられていた。

 だからあまり好きでは無かった。

 そうあまり好きでは無かった。

 あまり好きじゃ無かったのだ。


 がこっ。がこっこっ!!!。


 だから今この現状でも私はこれほどまでに冷静に対処できるのだ。


「ゆ。るじでぐだ・・ざ、い」


 何を言っているのだろう? この人間は? 誰がこの世界をまもってやっているのかわかっているのだろうか?

 世界とはいわないまでも誰がこの空間を、この街を、この学校を、人を、手の届く範囲で助けてやっているのかわかっているのだろうか?

 そうじゃなきゃこいつは敵だ。なんの敵だ? いや関係ない。敵だ。敵なのだ。敵以外に何があるというのだ。


 ガゴッ。ぶちぶち。げちゃ。


 敵は私の敵だ。私はヒーローだ。霧恵は死んだのだ。

 悲しい? 悲しい。いや悲しくない。泣いてはいないのだから悲しくは無いはずだ。

 ならば私はどうしてこうも拳をふるっているのだろう。


「お、、べ、ゆ・・るし。でぇ」


 敵だからだ。敵だからに決まっている。

 アンサーだ。答えだ。これが証明だ。こいつは敵でどうしようもないほどの敵でそれで霧恵は死んで。

 次は誰を殺すつもりだ? ああ。そうか。また霧恵を殺すのか。

 そうなんだな。おまえらが快楽や遊びでやっている事が霧恵を殺す事になるのだな。

 ならば私はその前におまえらを殺してやる。それがヒーローなんだそれがヒーローたるゆえんなんだ。


「もうやめぇな。死んでまう」


 識髪が教室のドアの前で白衣に手を突っ込みながら私を制止させる。

 教室は先ほどとかわらず血の海だった。

 誰の血なのかは知ってる。霧恵をいじめた三人組の女だ。

 私たちがお弁当を食べるときに陰口していた女だ。

 そいつらの血だ。

「だれが、止めてくれって頼んだ?」

「私やがな。あんたいい加減にせなライセンス剥奪されるで」

「いいじゃない剥奪されても。いやループしてるからこそ殺すんでしょ? 明日になれば霧恵も彩葉もいるんでしょ? そうでしょ? そうに決まってる」

 どちらにしろ剥奪されても何されても霧恵もかえってくるんだ。

 誰を殺そうが誰に殺されようが関係ない。

 そうだ。今日寝れば私はまた霧恵と彩葉と三人で遊べるんだ。

 そうだ。あのうっとうしい日に。

 だけど。識髪からかえって来た答えは薫には絶望的だった。

「ループなんておきてへんがな。霧恵は死んでそのまた明日も明後日も霧恵は死んだままやで…………」

「なんでよッ!!! きのうまでループしてたじゃない!? 三十回もループして次の日には霧恵が死ぬの!? そんな不条理あっていいわけないじゃない!? なんで? なんでこんな事が起きるの!? 携帯も買ったのよ? メールするっていったもん。 何とか…………何とか言えよ! 識髪ッ!!!!!」

「霧恵は死んだ。それでおしまい。この話はここで終わり。『誰かが早く見つければ』『少しでも誰かが優しくすれば』そんなIFはあったかもしれん。けどそうならなかった。だからこの話はここで終わり。そこで終了。どうにもならない事でそれは変えようのない事実なんだよ」

「嘘だよそれは。嘘なんだよ。そうだよ。次の日にはね? 霧恵は生きてね? それでね? また一緒にモール行くんだよ。彩葉とね? 一緒にプリクラ撮ってクレープ食べてまたね? 遊ぶんだよ。遊ばなきゃだめなんだよ。だめなんだよ…………」

「…………あんたそれ以上行ったら戻れんようになるで?」

「でね? 私はそうやってまた霧恵と一緒にね? 一緒に遊ぶんだ。遊ぶんだ。あそぶんだ。あそブンだ。アそぶんだ。遊ぶんだ。遊ぶんだよ? 遊ぶってなんだっけ? 何が何をおかしいんだろ? 私はそもそもなんでヒーローなんてやってんだろ?」

 口元があがる。あがって跳ねてくるりと世界が壊れる。

「薫!!!!!!」



 なんだ。簡単じゃないか。そうだよ。そうなんだよ。




 ――――――――間違っているのはこの世界だ!!!!!!!!!!!!




                                                                     To be continued?






つう訳で続きます。

停滞ばかりしてすいませんorz

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