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食事中の会話

 先程の告白……? あれはなんだったんだ。放心状態から正気に戻って最初の疑問がそれだった。

 シリアス風な空気を故意ではないにしても、緩和してくれたことには感謝の心しかないけど。

 本気なのか……? それとも場をなごませるための名演技か? 少なくとも俺の目には演技に見えなかったが。

 しかも未来まで。

 なんというか、アリアさんの方は告白するつもりはなかったのに、心の声が思わずれてしまったかのようにも見えた。

 未来の話では、アリアさんはうちで一緒に食事を取るらしいのだが、果たしてどうなることやら。

 両親がいるにしても、変な空気感での食事になりそうだし。

 あ、親父は仕事で遅くなるんだったな。

 ここで悩んでも仕方ないか。真実は下りて確かめるしかない。

 真実はいつもひとつ! ……はぁ。

 あまり気にしても、お互いに意識し合う光景がありありと目に浮かぶので、平常心を保ってリビングへと足を向けた。


「あ! しーくん、やっと下りてきたわね。もうすぐご飯できるわよ。それまでは未来とアリアちゃんの相手をお願いするわね」


 お袋はテンション高めに、笑顔で微笑んで言ってきた。現実は残酷ですね。わかります。

 気まずい状況を知らないお袋は、知らぬ間に俺を地獄へと導いた。

 見事なまでのバッドタイミングだ。

 俺は未来とアリアさんが座ってる長ソファーとは違う、一人用ソファーに座る。


「や、やぁ。さっきのは気にしてないから。空気を良くするためのジョークだろ?」


 俺は軽く手を上げて、ややぎこちなさを感じさせる物言いをした。

 背中には変な汗を掻いている。

 おそらく頬もひきつってるのだろう。


「先程は取り乱してしまって申し訳ありません。無意識に自然と言葉が出てしまいまして……。あの、その、あ、あれは! 正真正銘本音ですから……」


 アリアさんは頬が若干赤いままで、俺の顔をまっすぐ見ると、本心だと伝えてから顔を伏せた。

 そんなアリアさんに感化されたのか、俺まで少し顔が熱くなってしまい、堪らず顔をそむける。

 少し前に何回か告白される経験はしたけど、知り合いに告白される方が何倍も照れてしまう。

 俺は一度軽い深呼吸をしてから、アリアさんを見ると、あちらも顔を上げていて、再び見つめ合う状態になってしまった。


「何を二人でラブワールド展開してるの……。お兄ちゃん、わたしも本気なんだからね! もしかしなくても忘れてないよね?」


 未来はそんな空間に待ったをかけるように、二人の視線の間を割るように手を上下に振り、遮ってくる。

 一体いつからだ? ……まさか、昔から俺のことを好きだったとか? 確かにブラコンの気質は見られたけど、恋愛的な意味があったとは。

 どう反応すればいい。相手は妹だぞ。マイビーナスシスターだぞ。

 血は繋がってないんだけどさ。

 愛さえあれば関係ないよねっ! っていうどうしようもない幻聴が聞こえた俺は重症だな。末期かもしれない。

 とにもかくにも、身近に好意を示してくれてる子がいたのに、今まで気づかないなんて。俺はどこぞの鈍感系主人公だったんだよ……。


「大丈夫だ、まったくもって心配ない。お兄ちゃんは、どんな時だって未来となら無条件でワールドを展開できるぞ!」


 ご機嫌を良くしてもらうために、俺はテンション高めで宣言した。


「お兄ちゃん……!」


 すると、感激した未来は俺と見つめ合い、簡単にワールドが展開してしまった。

 しかし、今度は一転して、アリアさんが嫉妬の炎に燃えていた。熱気がひしひしと伝わってくる。

 あーこれ確定だ。二人とも俺のことを本気で好きらしい。

 嫌じゃないからこそ、複雑だ……。


「紫音君!」


「お兄ちゃん!」


 二人同時に詰め寄られ、これ終わったかも、と思っていたら、そこで鶴の一声もとい母の一声が届いてきた。


「三人ともご飯よ~。早く席に座りなさーい」


 ふぅ、助かった~。お袋によって窮地に立たされた俺は、お袋によって救助される。この時、とてつもない安心感に包まれた。

 食事の席順は俺の隣にお袋、俺の正面に未来、その隣にアリアさんだ。

 全員が「いただきます」と同時に手を合わせ、食事が始まる。

 お袋はアリアさんに興味津々なようで、早速質問を投げかけた。


「アリアちゃんのお家はこの辺りに?」


 お袋はニコニコしてご機嫌な感じで訊く。


「はい。ここから、五分~十分ほどですね。初めてお邪魔させていただいたので、正確には分かりませんが」


 途中までは一緒に帰ったことあるけど、そこそこ近いんだな。


「マリアちゃんのお家ね、一回だけしか見たことないけど、すっごく大きかったよ!」


 大きさを表現するように腕を大きく使って、上から下に弧を描くように広げていた。

 あら可愛い。背も高くて美人なのに幼い子供みたいに瞳を輝かせている。

 興奮するほどの衝撃を受けたのか。

 この近くなのに、そんな大きな家を知らないなんて。俺の活動範囲って結構狭いのな。


「マリアちゃん? アリアちゃんの妹さんなのかしら? さぞ、可愛らしいのでしょうね」


 お袋は知らなかったな――アリアさんに妹がいることは。なのにも関わらず、話の流れで察したようだが。


「はい。マリアは可愛い妹です」


 マリアちゃんの名前が出ると、アリアさんも柔和な笑顔になる。さては! お主もシスコンの名を受け継ぎし者か。

 まあ、俺には敵わないだろうけどなぁ。ワーッハッハッハッハッハー。

 ……おっと。何か変なキャラに取り憑かれてた。


「へぇ~。やっぱりアリアさんたちはお嬢様だったんだ。言葉遣いでなんとなく予想してたけど、まさか本当にそうだったとはね」


 他の女子生徒と比べても、どこか気品が漂って見える。

 チープな表現だけど、初めて見た時からなんか他とオーラが違ってた。


「あら、そうだったの。この料理お口にあったかしら?」


 お袋の料理は贔屓目一切なしでおいしいから、普段良いものを食べてても大丈夫だと思うけど。


「とてもおいしいですよ。この唐揚げなんて、揚げ具合が最高ですし、サクサクで食感も良いです!」


「褒められちゃったわ。なんだかうれしいわね」


 右頬に手を添えて喜んでいる。

 良かったなお袋。

 一流なものを口にしてると思われる、アリアさんにお墨付きをもらえてさ。

 個人的には当然と言えるけどな。昔から料理については上手かったし。年々レベルアップしてるのだから。


「それにしても、アリアちゃん本当に綺麗よね~。ハーフかしら。モテるでしょう?」


 お袋の言う通りモテまくりだ。振られる男子の数は日々更新されており、二度三度挑む強メンタルすら存在する。

 持ち前の優しさと圧倒的容姿による人気に加え、英才教育の賜物か、はたまた元々の素質か、または両方なのか、頭脳明晰だ。

 テストは毎回三位以内をキープしている。勉強では敵う気がしない。


「あ、ありがとうございます……。母が日本人で父がスウェーデン人なんです」


 アリアさんは照れていたが、お袋の「モテる」という部分にだけは、少し苦笑い気味だった。

 実際、超がつくほどモテモテなことで苦労しているのだ。

 去年なんて、露骨過ぎるバレンタインアピールをされてて物凄く可哀想だった。

 アリアさんをチラチラと見る、通りすがる度にチョコ食べたいな~と言う、ひたすらガン見、直接嘆願する者、土下座する者、など迷惑者が多数存在していた。

 終いには逆チョコを渡して告白する者まで。

 もうここまで来ると、あまり関わりないのに告白とかやめたげて! と言いたくなる。

 実質知り合いじゃないのに告白する人も結構多いけど、OKを期待するのはおかしい。

 それでOKされるのは、容姿が良い人に告白された時――つまり顔で選ぶ場合にしか成立しないのだ。

 例外として、あまり関わってないのに外から見た性格で選んだ――とか言う人もいるが、俺にはよく分からない。

 チャレンジ精神のワンチャン集団が発生し過ぎなんだよなぁ。去年よりは少なくなったようだが、それでも告白リピーター含め、まだまだ多いらしい。

 告白にも時間を費やされるんだから、される側の気持ちも少しは配慮してあげたらいいのに。特にアリアさんの場合とかね。

 そういえば未来も当然可愛いよな。変な害虫が勘違いしなければ良いのだが。まあ、そんなのがいたら駆除確定だがな。


「そういえば、アリアちゃんはしーくんとどんな関係なのかしら?」


 俺が危険思考に入っていた時、お袋の言葉で強制的に引き戻された。

 ニコニコしながら何を尋ねてるんですかねぇ。何かこういう展開はテレビで見たことあるぞ。


「おい、お袋少し待て」


 俺は立ち上がり、隣に座っているお袋の顔数センチ手前にツッパリするかのような制止のポーズをした。


「あら、良いじゃない。……まだまだこれから? それとも既にただならぬ関係なのかしら?」


「ふぇ。ち、ち、違いますよ」


 お袋の言葉を聞いた瞬間、アリアさんは目に見えて動揺する。

 うつむいたアリアさんは、少し間を空けてから、か細い声で「まだ……」と付け加えた。


「まだ、ね~。じゃあ、しーくんをよろしく頼んじゃおうかしら」


 フフッとからかうように笑って、お袋はとんでもないことをサラリとアリアさんに言う。

 会話が俺の制止を無視して勝手に進んでいく状況に、俺は止められないと判断して座り直す。

 実は、アリアさんとお袋の会話で、俺も頬辺りが若干熱くなった気がしていた。意識しないようにすればするほど、逆効果を発揮しているみたいだ。


「ストーーーップなんだよ! わたしがいるでしょわたしが!」


 俺と入れ代わるように、今度は未来が声を張り上げて立ち上がると、会話に参戦した。


「そうだったわね。未来も昔からしーくんのこと大好きだったわね」


「当然だよ! お兄ちゃんと未来は運命共同体だからね!」


 未来が俺の後ろに回り込むと、肩から腕を回してぎゅっと抱きついてきた。

 未来さんや、後頭部に双子のお山を押しつけないでください。

 …………成長したな。


「あら、大きく出たわね」


「へへーん」


 未来は俺から離れると、自分が座る椅子の前で腰に手を当て、年齢の割には立派な胸を張る。


「あの~。この話は恥ずかしいからもうやめませんかね」


「しーくんは恥ずかしがり屋さんね」


「いやいや、そんな恥ずかし話されたら誰でもこうなるから……」


 俺は少しげんなりした感じになる。

 ここまでからかわれて、平気な奴とかどんな勇者だ。


「じゃあ、しーくんの学校生活の話でも聞かせてもらいましょうか。未来の学校生活の話はよく耳にするけど、しーくんは、あまり学校生活について話さないものね」


 結局俺の話題から逸れることがない。何だこの悪循環は。

 俺に逃れるすべなんてなかったんだ……。


「あ、それならわたしも聞きたーい。教えてくださいアリアさん!」


 未来までもノリノリか……。俺に味方なんていなかったんや……。

 まあ、別にいいんだけどね。


「分かりました! 紫音君はモテモテですね。学年問わず人気があります」


 アリアさんは、俺の話になると、目に見えて楽しげに話し出した。あなた、さっきまで恥ずかしがってませんでしたっけ?


「しーくんなら当然よね。でも、アリアちゃんも未来も頑張らないと大変よ」


 身内に褒められると、言葉に上手く言い表せない変な気持ちになる。何か、むず痒い? そんな感じかもしれない。


「えっ、何を?」


「ライバルが多いからよ」


「大丈夫だよ。お兄ちゃんは顔で惚れないから、ぽっと出にかっさらわれることもないよ」


 あーなるほど、という感じで納得した未来は、余裕綽々と自信ありげに答えた。

 俺への信頼が厚いな。お兄ちゃんは嬉しいぞ。


「甘いわね。そうやって油断してると、知らない間に街で女の子を助けて親しくなるのよ。そして、気づかぬ間にゴールインされるはめになるわ」


 お袋……。わざわざ真剣な顔を作ってまで二人の危機感を募らせるなよ。顔の裏では絶対面白がってるだろ。

 まあ、このくらいじゃ動揺しないか――って滅茶苦茶動揺してるー!


「え!?」


「お、お兄ちゃん! 絶対に駄目だよ? そんなことしちゃ!」


「いやいや、俺がそんなことにな――」


「まさかもう!?」


「だ、大丈夫ですよね、ね?」


「二人とも落ち着け。お袋も煽りすぎだよ。まあでも、可能性もなきにしもあらずか」


 一度穏やかな口調で落ち着かせたところで、今度は俺も一度だけお袋側になってみたのだが、面白いようにわたわたと慌て出した。

 所謂いわゆる出来心だな。


「あらあら。プレイボーイね」


 お袋は相変わらず、この状況を面白そうに見物している。

 全ての原因であるお袋が、きっと一番謳歌してるんだろうな。


「そ、そんなお兄ちゃん……」


「紫音君……」


「――冗談! 冗談! そんなことにはならないから安心してよ」


 二人の様子を見てると、目尻に涙を溜めて悲しそうな顔をしたので、俺は罪悪感に耐えきれず、すぐにネタバラシをすることになった。


「もう! お兄ちゃんはいつもいつもからかうんだから!」


「危うく紫音君と無理心中するところでした……」


「ごめんごめん…………ぱーどぅん?」


「もちろん冗談です。これでお相子ですね」


「これは参ったなー」


 俺は苦笑いをして、アリアさんは微笑み、未来はアリアさんを尊敬と憧れの眼差しで見ていた。お袋は変わらず、笑みを絶やさない。

 アリアさん演技上手すぎだ。あまりにも迫真だから、かなり動揺してしまったよ。

 こんな風にじゃれあいを挟みながらも、ほのぼのとした食事の時間は過ぎていった。

 ただひとつだけ、懸念すべきことができた。

 それは、未来がアリアさんを真似して演技スキルを身につけたらアウトなことだ。

 そんなことが実現してしまえば、俺が手玉に取られた挙げ句、関係が逆転するのは言うまでもないことだろう。


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