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こっちの幼なじみとあっちの幼なじみ

 今日はマリアと学校に行く約束をしてたらしい未来は、俺よりも早く十分前には家を出た。

 久しぶりに一人で登校することになるからか、若干の寂しさを感じながら、少しゆっくりした後に俺も家を出る。

 その直後、姫川と偶然にもバッタリ鉢合わせしてしまい「あ」という声がどちらからともなく、条件反射のように飛び出る。

 流石にこの距離この場面で無視するのも感じが悪いと思い、軽い挨拶だけはすることに決めた。


「おはよう」


「っ!? う、うん。おはよう!」


 姫川は目を一瞬だけ大きく開くが、すぐに明るい挨拶を返してくる。


「またな」


「あっ、うん。またね……」


 本当にささっと挨拶だけで切り上げた俺は、視線を姫川から外し、前を向いてマイペースに歩き始めた。

 やっぱり、毎日薄化粧してるみたいだ。

 間近で改めて見て思ったけど、髪もなんか少し変わったかな。艶やかさも前より増したような気が。

 気にしたって仕方ないか。さ、行こう行こう。


「げっ、言い逃げ女」


 朝から校門前で、嫌な女と対面してしまった。


「誰が言い逃げ女よ!」


 やべぇ、口に出してたか。

 しょうがない。もう勢いで言ってやる。


「言いたいことだけ言って誘った側が勝手に帰ったくせに。一番似合う言葉じゃないか? これ以上に似合う言葉があるのなら、教えてほしいよ」


「あんたが女々しいからでしょ! それに逃げたんじゃなくて、帰っただけよ」


 また、貶しやがって。もう少し丸い態度になれないのかよ。


「自分勝手なのは否定しようもない事実だよな」


「くっ」


 やっと言葉に詰まったな。ほんの少しだけスッキリした。


「まあ、良いや。じゃあな」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


 俺は言い逃げ女を無視して言い逃げした。

 よくよく考えたら、話してもデメリットばっかだしな。

 教室に着くと、アリアからマリアの件でお礼を言われた。ゴールデンウィーク中に電話でも言ってくれたのに、直接でも忘れないなんてな。

 放課後は、永井が教室まで来て、姫川を誘っていた。

 永井は俺に宣戦布告してから、週の始まりの月曜日と学校が終わる金曜日の放課後に来ているみたいだ。

 しかし、姫川の反応は芳しくないらしい。

 時折、姫川と永井が見てくることもあるが、俺は我関せずとばかりにスマホをいじっている。

 いつの間にか教室が静かになってたので、俺も今日は帰ることにした。

 靴箱の前まで来ると、何やら言い争いの声が聞こえてくる。


「これ以上和志を弄ばないで!」


 桃色に近い茶髪のポニーテールで、可愛い系の顔立ちをした女子生徒が、結構な声で怒鳴っていた――姫川に。

 背は姫川よりも若干高い。


「あたしは、別に……」


 姫川は罰が悪そうな顔をしている。


「そんなつもりはないとでも言うの? 一週間で振っておきながら! いまだに誘われていながら! 和志に気がないのなら、もっとちゃんと振ってよ!」


 女子生徒はどんどんヒートアップしていく。

 どうやら、永井関連の女子みたいだが。名前で呼ぶほどには親しいらしいが。


「あたしは、ちゃんと振ったよ。あれは永井くんが諦めてないだけだよ……」


 一理ある。そもそも、永井は俺に直接諦めないって言ってきたからな。

 姫川がちゃんと振ろうが、そう簡単に永井の決意は揺るがないのだ。


「理由はあなたの幼なじみのことよね。あなたが幼なじみである彼を好きなように、私も幼なじみの和志のことがずっと好きだった。なのに、和志はあなたを選んだ。和志が幸せになるならって、私も諦められそうだったのに。あなたは和志を傷つけ、尚も和志の心を奪ってる」


 幼なじみだったのかよ……。

 面倒パターンだよね、これ。

 つまり、永井の幼なじみ➡永井➡姫川➡俺。何だこの一方通行具合は。


「確かに、永井くんには勘違いで好きになって悪いと思ってる。だけど、もう終わったことだよね。今永井くんがあたしを好きなのは、アプローチしてくるのは永井くんの責任だよ」


 姫川ってこんなに饒舌だったっけ? 口数勝負なら正直もう少し弱い印象しかなかったんだけど。


「あなたが、変に期待を持たせたから和志はあなたに離れられないのよ。あなたが、和志と一度でも付き合ったから」


「そうかもしれないね。でも、それならあなたが頑張って振り向かせれば良いじゃん。あたしに文句を言う前に、自分の行動も振り返った方が良いと思うよ」


「それができないからつらいんじゃない……」


 永井の幼なじみは図星を突かれたようで、分かりやすく顔をしかめる。


「永井くんのことまでならまだしも。あなたの弱さまであたしに押しつけないで。それはあなたの責任でしょ」


 ド正論過ぎて草も生えないとはこのことか。

 ――っておい、何で手を振り上げてん……あっ。


「この!」


 パチン!


「っ!?」


 おいおい……ビンタって。

 姫川は頬を抑え、目を丸くして驚いていた。

 まさか手を出されるとは夢にも思ってなかったのだろう。


「わ、私、謝らないから!」


 永井の幼なじみはそう言い残して、走ってその場を去る。

 姫川は頬をさすりながらも、ゆっくりと歩いて後にした。


「とんでもない現場を見てしまったな。あんなの昼ドラでしか見たことなかった……」


 俺は地味に重い場面を見たことで、強制的に気分が下がるという――ある意味とばっちりを受けていた。

 


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