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放課後の出来事

 放課後の教室。

 俺とアリアさんの二人だけ。

 今日は未来とマリアちゃんは二人でカラオケに行くらしい。

 俺も先ほどSNSのトークで誘われたが、交遊関係を深めるには、友達同士二人だけの方が良いと思い、断りを入れてナンパと不審者には注意するようにとだけ忠告した。

 断った俺だが、特にこれといった予定もなく、しばらくの間教室に残り、面白そうなスマホアプリ探しをしていたのだが、気がつけば教室には誰も残っていない状況だった――俺とアリアさん以外は。

 アリアさんも何やらスマホを見ていたらしい。

 今はそんなアリアさんと座り、向かい合った状態で会話中である。


「なるほど。朝が遅めの登校だったのはそれが理由だったんですね」


「うん。アリアさん的にはどうかな? 俺の判断は間違ってたと思う?」


「否定も肯定もできません。個人的に姫川さんに対して良い印象を持ってないのは確かですが、当人同士の問題です。私は紫音君の好きなようにすれば良いかと。未来ちゃんも複雑な気持ちはあるでしょうけど、私と大体は同じ考えだと思いますよ」


「そっか」


 俺は視線を少し上に向けて考える。

 結局は俺次第だよな。

 俺は幼なじみに戻るだけなら特に問題ないと思ってる。その考えは変わらない。

 近くで見ていれば、それだけ俺へ向ける好意の無駄さも早めにわかるはず。

 だとするなら、諦めてもらう為には元の関係を修復し、幼なじみとして側に置いておくことこそ、一番手っ取り早い方法でもある。


「ただし、次に紫音君を傷つけたら、流石に黙ってられませんけどね」


 冗談めかした笑みを浮かべて言うアリアさんだけど、たぶ本気なんだろうな。

 好かれてるって証なのかもしれない。

 そう思ったら、自然と顔がほころんでいるのが分かった。


「ありがとう」


 いえいえ、と言ったアリアさんだが、その少し後に緊張した面持ちになる。


「……あの、私からお願いがあるのですが」


「アリアさんが? 全然良いよ」


 俺ばかりお世話になってるし、俺で解決することなら何でも聞いてあげたいけど、いったいどうしたのだろうか。


「来週のゴールデンウィークの二日目。私とデートしてくれませんか?」


「……マジ?」


 俺は耳を疑うことはしなかったが、お願いの内容に驚いてしまった――目をパチクリさせるほどに。

 アリアさんは不安そうな表情を浮かべてるが、ブルーの瞳は期待に満ちている。


「ええ。大真面目です。どうでしょうか?」


「うん。わかったよ。デートしよう」


 断る理由もないし、先週は既に本気の覚悟も聞いてるので、俺は普通に了承した。


「ありがとうございます。少しでもドキッとしてもらえるように頑張りますね!」


 アリアさんの気合いの入った言い方に、微笑ましさを感じ、ハハハと俺は少し笑う。


「お手柔らかに頼むよ」


 正直、デートと言われた瞬間から胸が高鳴っていたが、それを知られるのは恥ずかしいし、少し格好悪い気がするので、秘密にしておく。

 この後、大まかな日時と行く場所を話し合い、細かい部分はまた後日決めることで落ち着いた。





 次の日の放課後。

 昨日とは違って憂鬱な気分になっていた。

 何故かと言うと、帰ろうとした直前で屋上へ呼び出されていたからだ。

 爽やか系の男子生徒に。


「桜さんの幼なじみである海田君に訊きたいことがあるんだ」


「わざわざ人気のない場所を選んでまで、何を訊きたいんだ……永井」


 そう。俺を呼び出したのは、姫川の一週間彼氏兼サッカー部エースの永井和志だった。

 スポーツ系の部にしては長い茶髪のミディアム、優しそうな目をした爽やか系のそれなりに整った顔立ちのイケメンだ。光一と同じくらいの身長で、多少日焼けしている。


「今までは部活が忙しくてね。今日は休みだからこの機会にと思って」


「そんなことはどうでもいいよ。俺には関係ないからさ。それより、早く本題を話してくれないだろうか」


 爽やかな笑顔を浮かべる永井に対し、俺は放課後タイムを邪魔されたことから、ぶっきらぼうな言い方で対応した。

 せめて昼休みでも良いからアポが欲しかったよ。

 帰る気分の時に急きょ阻まれるのが一番面倒に感じる。


「わ、わかった」


 永井は顔をひきつらせたが、すぐに真剣な表情をする。


「海田君は桜さんと付き合ってるのかい?」


「はぁ? 意味がわからないんだが」


「僕が桜さんに振られた理由……知ってるかい?」


 永井は視線を少し下げ、苦い顔をした。

 振られた時の記憶を思い浮かべたからか、気持ちが表に出たのかもしれない。


「知らない。どうでもいいし」


 俺は事務的に言う。

 実際は知ってるけど、俺が口に出して言うことでもない。

 勝手に永井が喋り出すだろうし。

 ……ほらな。口が開いた。


「『本当に好きな人に気づいたから別れて』その一言だけを言われたよ。それは海田君……きっと君のことだ。僕とのデート中だって海田君の話はよく耳にしたよ」


 話してる永井の顔は苦々しさが増している。そこまで嫌なら語らなくても……。

 永井は一度話を区切り、一拍置いた後、また話を再開させた。


「その時だけとても楽しげだった。嫉妬を紛らわす為にキスするくらいにはね。その時はそのくらいの抵抗しかできなかった。実に幼稚だったと思う。結局僕は、別れてから色々考えたけど納得してないんだ。諦めきれなかった……まだ桜さんのことが好きだから」


 永井は俺に目を合わせ、素直に姫川への想いを伝えてくる。

 親しくもない俺にベラベラと話す必要性があるかどうかは別として、要するに熱弁するほど未練があるわけか。

 普通は一週間で別れられたら誰だって不満を持つよな。

 今回のケースは明らかに姫川が悪い。

 自分の勘違いに永井を巻き込んだ。永井を本気で好きな女子からしたら、姫川は良い風に映ってないのは明白。

 もし、仮に俺が姫川への想いが冷めず、そのまま付き合っていたとすれば、永井をほっぽって一人だけ幸せになってるのだから、かなり白い目で見られてた可能性が高いだろうな。


「どうでもいいって言ったよな。好きなら本人の迷惑にならない程度で勝手にアプローチすれば良いじゃないか。俺は止めないからさ」


「ということは付き合ってないんだね?」


「当たり前だ」


「それを聞けて安心したよ。一応訊くけど、本当に良いんだね? 桜さんが僕に本気で惚れて、()()()()付き合っても」


 存外にしつこいな。

 しかも強調して言ってる部分もあったし。

 挑発してるのか? 何の為に。

 それとも別の意図があるのか?

 なんにせよ俺の意見は変わらないけどな。


「どうぞご勝手に」


 俺は表情ひとつ変えない。

 ポーカーフェイスというよりも、別に動揺することじゃないからだ。

 何度も繰り返すが、もう俺は姫川を恋愛的には見ていない。

 だから、誰と付き合おうと俺には関係ないし、姫川が嫌がらないならどんどんアピールしたら良いと思ってる。


「……もう一度だけ訊くよ。それは君の本音なのかい?」


「何が言いたい」


 どんだけ念押しするんだよ。訊いてくる割に信じてないのか?  失礼な。

 あまりにも俺を警戒し過ぎじゃなかろうか。


「彼女は彼氏になったばかりの僕を躊躇なく振るほど君のことが好きなんだぞ。それほどの僕とは違う本気の好意を示されても尚、少しも好意に向き合おうとは思わないのかい」


 ますます意味がわからなくなった。

 何故姫川と復縁したいはずの永井が、姫川の気持ちを尊重させるようなことを言う必要がある。

 永井自身が不都合になるだけだろ。


「何を言うかと思えば。それで俺が本気になったらどうするつもりなんだ? 随分お人好しなことを言うじゃないか」


「違う。僕はただ、後から横槍を入れられたくないだけなんだ。お人好しなんかじゃない」


 いやいや、お人好しじゃないならそれはただの愚行だぞ。

 どの世界に恋敵になり得るかもしれない相手を煽るやつがいるんだよ。

 俺の気持ちがこれで再燃してたら、勝ち目が一切ない負け戦に一直線だろうに。

 後々俺が心変わりする可能性を捨てきれないらしくて、牽制してるみたいだけど、かなりの心配性だな。


「ふ~ん。ま、どっちでも良いけど。ハッキリ言うが、姫川への好意は永井と付き合った時点でとっくに冷めてる。それに、もし好意が再燃して付き合ったとしても、一生屈辱がつきまとうんだよ」


 俺は一度下を向き、再び永井に顔を戻すと、吐き捨てるように次の言葉を続ける。


「誰よりも近い距離にいた幼なじみなのに、俺は未来永劫『二番目の恋人』という不名誉な称号がついてまわる。ま、あくまでも付き合った場合の話だから安心するといい」


 これは、仲が良かった幼なじみだからこそ思う問題だ。

 と、一応ここまでは本音だが、一部を除いたら別にそこまで本気では思ってない。そういう気持ちも無きにしもあらずってレベルだ。

 いつまでも永井の確認がしつこ過ぎて、うんざりだから早く終わらせる為なのと、手っ取り早く俺が姫川を好きにならないと伝える方法だ。

 ここまで言ったんだ。効果は十分だろ。


 ガチャッ!


 ん? 扉、開いてたのか? それとも誰かに見られた?

 まあ、特に気にすることでもないか。永井に至っては気づいてない様子だし。


「そんなことで君の好意は冷めてしまうものなのかい。……それじゃ、あまりにも桜さんが報われないじゃないか」


 所詮俺の考え方が永井に理解されるとは最初から思ってない。理解されても困るが。

 俺だって永井の気持ちなんてまるで欠片も理解できないし。

 一途なのは良いことだけど、勝手な都合で振られたことを忘れてないよな?

 正直そんな相手を好きで居続けられる、神経の図太さには感心すらする。

 そんな振られ方されたら、俺より冷めても不思議じゃないだろうに。

 分かってたことだが、やはり俺と永井は恋愛観が根本的に違うらしいな。

 

「おかしなことを言う。報われたら永井は姫川と付き合えないんだぞ。むしろ俺がこんな考え方で良かったじゃないか」


「確かにね。だけど、だけど……」


 結局何をどうしたいんだ? そんな複雑な顔をする理由は?

 俺とライバルになりたいのか、姫川に目を向けさせたいのか、恋愛の介入を防ぎたいのか、それとも違う何かなのか、まったく検討がつかない。


「ごちゃごちゃしつこいな。お前の葛藤なんて俺は知らんよ。お前が自分に惚れさせれば全部解決する話だろ」


「そう……だね。海田君の決意は固いみたいだ。答えてくれてありがとう。桜さんは、僕が……もらうから。それじゃあ」


 やっと吹っ切れたか。

 永井は最後に男らしく宣言して屋上を後にした。

 健闘は祈っとくさ。姫川への想いが本気なのだけは伝わったしな。


「……行ったか。何はともあれ、あんなにも姫川を思ってるんだ。姫川も望みの薄い俺なんてさっさと諦めて、復縁した方が幸せになれるだろうに。どうして俺に執着するんだか」


 雲の混ざる少し日の落ちた空を一瞥した俺も、ゆったりとした足取りで屋上から去るのだった。


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