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9、先生らしくない

下校時間になった。


ほとんどの生徒が帰った後、


葛西先生と二人で、下駄箱に向かうと、

先に帰ったと思ってた健ちゃんが立っていた。


「健ちゃんどうしたの?先に帰ったんじゃ?」

「俺は、麗ちゃん……帰ってないみたいだったから、心配で待ってたけど……」

健ちゃんは一緒に来た葛西先生をジッと見ていた。


私と葛西先生がまた一緒にいるから、何か誤解してるのだろうか。


「進路の相談をしてたんだよ。水城、気をつけて帰りなさい。羽島もな」

健ちゃんに見つかったからか、今日は車では送ってくれないようだ。

先生と二人で帰れる最後の日だったのに。

「葛西先生っ!!」

葛西先生は何事もなかったように、職員玄関から出ていってしまう……。


私は遠ざかる葛西先生の姿を、

ずっと見ていることが出来ずうつむいた。


きっとこれからは、

学校で葛西先生と会話する機会も、ぐんと少なくなるんだろうと思った。


ずっと隣で支えていてくれた葛西先生が居なくなってしまう。

私、やっぱりそんなの嫌。


「麗……ちゃん?」


叶わない恋なら、

せめて気持ちだけでも伝えて、前に進みたい。


でもこの気持ちをもう一度伝えるってことは、

葛西先生にきっぱりと振られて、

もう本当に話せなくなることだと思った。


どうしたらいいか、わからなかった。


「麗ちゃん……?……おーい?……れいー?」


何度も呼びかける健ちゃんの声は耳に入って来なかった。


うつむいてた私と健ちゃん間に、

誰かの影がぬっと現れた。


「水城……」

葛西先生の声に、私はすっと顔をあげた。


「葛西先生……」

戻って……きてくれたの?


「やっぱり顔色悪いな。羽島……悪いが水城は今日は車で送るよ。

明日からは頼むな、羽島」


葛西先生は健ちゃんに念を押すようにいうと、

私の体を支えるように手を引き歩き出した。


「麗!大事にな!」


背中に健ちゃんの声が聞こえたが、

私の今の顔を見られたら、

葛西先生への気持ちがバレそうで、振り返ることが出来なかった。



葛西先生は私を車に乗せると、

家の方へと走りだした。


「健ちゃんに誤解されなかったかな?」

私が少し心配になって口にした言葉に、

先生は脇道に車を止めると、こちらを見た。


車を止めると、

急に車の窓を叩きつけるような大粒の雨が降り始め、

視界が悪くなった。


「羽島に誤解されると、困るか?」

私を見る葛西先生の目が少し怖かった。


「え……?」

どうしたんだろう?なんだか、葛西先生らしくない反応。


次の瞬間、葛西先生に右手を掴かまれ引き寄せられた。


「事実にしようか?」

葛西先生が私の耳元で囁いた。

こんなこと言うの、葛西先生じゃない。


「笑えないですよ?……変な冗談、葛西先生らしくないです」

私は葛西先生から離れた。


らしくない葛西先生にドキドキして、

そのまま流されてしまいそうだった。


やっぱり葛西先生の様子がおかしい。


「そうか……俺らしくないか」

葛西先生は苦笑いすると、

再び家の方へと車を走らせた。


私は葛西先生に問うことが出来ず、

それからずっと無言のまま、

あっという間に家についてしまった。

さっきまでのひどい雨もすっかりやんでいた。


葛西先生の様子も変だし、

心配で、なんとなく、まだ帰りたくない。


私は降りるわけでもなく、

話すわけでもなく、

ただうつむいたまま座っていた。



「麗?」


不意に葛西先生に名前を呼ばれた気がして顔をあげた。


でも葛西先生はいつも通りだった。


気のせいだったのかな?


「また明日な、水城」

葛西先生が私の髪をくしゃっと撫でた。


やっぱりなんかおかしい。

いつもの葛西先生なら頭をポンポンって撫でるのに……。


「葛西先生……あのっえっと」

何かあったんですか?

喉まで出かかった言葉を飲み込む。


「どうした?」

聞けない。

葛西先生が自分から話してくれるまで、

私からはやっぱり聞けない。


「あ、あの……明日!私の18歳の誕生日なんです」

「ああ、そうだな。1日早いが、おめでとう」


あれ?葛西先生、私の誕生日知ってた?


当たり前のように返事してくれた事、

そんな些細なことが本当に嬉しかった。


「水城、また雨降ってくる前に早く家に入れ」

「はい……」


葛西先生……

今は無理でもいつかきっと、

あの時の涙の訳も、

少しずつ話してくれますか?


「葛西先生!また明日!」

「明日な!」

私は葛西先生の車を笑顔で見送った。



私はその日の夜、

初めて、葛西先生にメールを送った。

葛西先生と誕生日を一緒に過ごしたかったから。



『明日、学校終わってから、

私の誕生日ケーキ選んでもらえませんか?』


でも葛西先生からの返信は、

朝になっても返ってこなかった……。


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