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6、私の夢

体育祭の片付けが終わり、

下校時間が過ぎた頃。


私は葛西先生と進路指導室に居た。

葛西先生に大切なことを伝えるためだ。


「私……今まで、どうせ長くは生きられないからと、夢を見ることさえ最初から放棄していました。でも、今日、葛西先生のおかげで、諦めてた夢が1つ叶い、生きててよかったなって思いました」


私はまっすぐに葛西先生を見つめた。


「だから、私、先のことはわからないけど、もう一度、夢を見てみようと思います」


今までの私は、

やりたい事も、病気のせいで出来ない事の方が大半だったから、

夢見るだけ無駄だと思っていた。

でも……


「そうか、水城にも夢が出来たのか?」


夢が叶った時の喜びを葛西先生に教えてもらったから。


「はい!……私、この先、就職とか進学とかは無理かもしれない。それでも、叶えたいことが1つだけできました。

好きな人を……一生、大切にしたい人を見つけ、結婚できたらいいなって」


葛西先生が、私に諦めないことの大切さを教えてくれたから、

どんなに苦しくても頑張れる。


出来無いと思ったらそこで終わってしまう。

少しでも……少しずつでも、先へ……未来に進みたいから。


「……水城らしい、いい夢だな」


私の思い、叶えることは難しそうだけど……。

それでもいいの!

今は、葛西先生と一緒に居られる、ただそれだけで。


「葛西先生のおかげです。ありがとうございます」


「俺はなにもしてな……ぃっ」


突然、葛西先生がガクンっと膝から崩れ落ちた。

手に持っていたコーヒーカップが床に転がる。


「葛西先生?!」

私はうずくまる葛西先生に駆け寄った。


「ちょっと疲れたかな。最近寝不足気味だったし……。すまない。かからなかったか?」

私は頷き、葛西先生の両肩を正面から支えるように掴んだ。


「水城、コーヒーで汚れちまう」

「大丈夫です。洗えばいいだけですから。それより葛西先生、大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ」

葛西先生は青ざめた顔で少しだけ微笑むと、

支えた手を振り払うことはせず、

そのまま倒れこむように私の肩におでこを乗せた。


ドキンッと。


私の胸が高鳴る。


「ちょっと駄目みたいだ。悪い、少しの間、肩かしてくれるか?」

葛西先生、私を背負って走ったから疲れちゃったのかな?

それにいつも、私の事で神経使わせちゃってるし……。


私にこんなに気を許してくれた葛西先生は、

先生に出会ってから半年。

初めてのことだった。


「……葛西先生……いいですよ。眠ってください」

私は辛そうな葛西先生の背中に手をまわし、

自分の胸に包み込むように抱きしめた。


私のドキドキが葛西先生に伝わってしまうんじゃないかと思ったけど、そんな心配はいらなかった。


葛西先生は本当に疲れていたのか、

そのまま意識を失ったように私の胸の中で眠ってしまっていた。


「葛西先生……好きです……」


私は眠っている葛西先生に呟いてみたが、

きっとその言葉は葛西先生には届いてはいないだろう。




しばらくして葛西先生が目を覚ました。

辺りはすっかり日が暮れていた。


「水城、すまない、俺っ!」


葛西先生は、私の胸の中で目を覚まし、

慌てた様子で私からすぐに離れた。


「葛西先生、ちゃんと睡眠とってくださいよ。……頑張り過ぎもよくないです」


私はちょっとだけ、

大人ぶって葛西先生を叱ってみた。


「はい、気をつけます」


葛西先生も、ちょっとおちゃらけた感じで返事をすると、

少しだけ顔色がよくなった顔で私に笑顔を作ってみせた。



私がいつものように葛西先生の車で家まで送ってもらうと、

玄関からお父さんが出てきた。


葛西先生も車を止め降りると、

「送るのが遅くなってすみません」

と、お父さんに深々と頭を下げた。


「いや、いいんだよ。いつも娘が世話になってすまないな。

夕飯まだだろう?寄っていってくれんか?」


私が家に入らず、二人の会話を聞きながら、

ぼーっと突っ立っていたら、


「おい、麗、そこで何してる。今、母さんが夕飯の用意してるから、 お前も手伝ってこい。父さんは葛西先生と少し話をしてから中に入る。先生と夕飯にするぞ。 母さんにもそう伝えてくれ」


私はうなずくと葛西先生とお父さんを外に残し家に入った。


でも二人の会話が少し気になって、

私は玄関の扉を少し開けたまま聞き耳を立てていた。


「葛西先生、いつも娘を送ってくれるのはありがたいのだが、

先生も毎日じゃあ大変だろう?あれからもう三ヶ月。麗も、もう落ち着いただろうし、やめてもいいんだぞ。それにあのことは葛西先生が責任を感じることでは…」


お父さんが言ってるのは、広瀬くんの事件のことだ。


「お嬢さんを送ることは、そのこととは関係なく、私が彼女のことを、守りたくて勝手に始めたことなんです。

だから、大変とか責任とか感じたことは一度もありません。ご両親のお許しが頂けるなら、私は卒業まで続けるつもりです」


葛西先生の言葉が、素直に嬉しかった。


私は葛西先生が好きだけど、葛西先生はそうじゃないかもしれない。


だけど葛西先生は、私が苦しい時、辛い時はそばに居てくれて、

私はいつもそんな葛西先生に救われた。


私のことを守りたいと言ってくれる葛西先生。

その言葉だけで嬉しかった。


葛西先生……大好き。


私の中の葛西先生への気持ちが、

ますます膨らみ大きくなっていった。

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