3、葛西先生の過去
「……俺、妹が居たんだ」
「妹?」
居たって……?
葛西先生は私のベッドの横に丸椅子を持ってきて腰掛けた。
「俺が三歳の時、妹は1歳半でさ。俺もまだ小さくて、妹の面倒なんて全然見れなくてさ。あんまり、よく覚えてないんだけど、母が夕飯の支度をしていたらしく、俺と妹はリビングで遊んでたんだ」
すぐ横の窓が少し開いていて、そこから風が入ってきていた。
カーテンがパタパタと何どもなびいて、耳障りな音を立て続けていた。
先生はその窓を閉めに立ち上がった。
「そしたらさ、妹が突然、俺の目の前で苦しみだしたんだ」
葛西先生はピシャッと窓を閉めると、私に背中を向けたまま話を続けた。
「俺はそんなの全然気がつかず遊んでて、そのうち妹の息がなくなって、ピクリとも動かなくなってて、俺はその時初めて妹を見て『あれ?寝たのかな?』って思ってた」
葛西先生はゆっくりと戻ってくると、また丸椅子に腰掛けた。
「どのくらいの時間経ってたんだろう。ほんの数分だった気もする。母が『夕飯できたよ』ってキッチンから戻ってきて、眠ってる妹を見て、母は慌てたように抱き抱えると急に泣き叫びだしたんだ。でも、俺はなんで母が泣いているのかも理解できなかった」
葛西先生の両手、両足が少し震えていた。
「妹は眠ってた訳じゃなかったんだ。小さな……玩具を喉の奥で詰まらせて窒息してた。すぐに病院に運んだけど、そのまま意識が回復することなく……死んだ。俺は目の前で苦しんでたはずの妹に全く気がつかず、何もしてあげられなかった!
俺がすぐに異変に気がついて、母を呼びに行っていたら、妹は助かったかもしれない。だから……、
今、水城にしてあげられる事があるのに、何もせず、あの時みたいな後悔だけは、二度としたくないんだ」
小刻みに震える葛西先生の手を私はそっと握った。
「葛西先生の気持ちはよくわかりました」
葛西先生は私の中に妹さんを重ねている……。
これでまた私の身にもしもの事が起こってしまったら、
葛西先生の心が壊れてしまうかもしれない。
「でも……これだけは覚えておいてください。もしこの先、私の身に何かあっても、それは葛西先生のせいではないですから、自分を責めないって約束してくれますか?」
葛西先生は眉間にシワを寄せ考えながら、
とりあえずその場は頷いてくれた。
私は先生の番号を聞き、登録をしなおした。
私に関わらせない方が、
良かったんじゃないだろうか?
巻き込んでしまって、
本当にこれで良かったのだろうか?
……葛西先生のためにも、
私は元気に少しでも長く生きなければならないと思った。




