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2、発作

週一回、行われるクラブ活動。

私は迷わずにすぐに決めた。


映画鑑賞クラブ。

その理由はもちろん、葛西先生が顧問だからだ。


でもあまり人気がないのか、全学年合わせても15人ほどだった。


同じ学年の子は男一人、後は二年生だった。


「水城さん、なんでこのクラブにしたの?俺は単純に映画が好きだからだけど」


このクラブ唯一の同級生、広瀬徹ひろせとおるくんは、同じクラスの男子だった。


「あ、えっと……」


葛西先生が好きで……なんて言わない方がいいよね。

葛西先生のことを頭に浮かべただけで、自分の顔が熱くなっているのを感じた。


「私も好きだから……かな」



せっかく葛西先生と少しでも一緒に居たくて選んだクラブ活動だったが、先生は、最初に顔を出すだけで、鑑賞中は職員室で仕事をしているようだった。



「水城さん、どんな映画が好き?」


広瀬くんは、どちらかというとおとなしく目立たないタイプで、教室では、私にあまり話しかけてこないのに、クラブの時だけはやたらと話しかけてきた。


「どんな映画のDVD持ってる?今度貸して」


など、ただの映画好きなのかも知れないし、同じ学年が私しかいないからかもしれない。


でも、クラブの時だけは、少し人が変わったみたいに馴れ馴れしかった。


それに私がどこの場所に座っても、何故かいつも私の隣に座ってきた。



ある日のクラブ活動中の事だった。

いつも通り、視聴覚室で暗幕を張り、

真っ暗にして映画を観ていた。


その時の映画は、確か人形が怖い化物になるホラー映画だった。


私は一番後ろに座って観ていた。

いつも通り隣は広瀬くんだった。


丁度、映画の怖いシーンで、私の心臓が少しズキッとした。


私は胸を押さえ、画面から目を伏せ、痛みがおさまるのをまった。


大丈夫このくらいなら平気だ。いつものこと。すぐに治まる。


私は自分にそう言い聞かせ、なるべく冷静になろうとした。


広瀬くんはそんな私を見て、映画を観て怖がっていると勘違いしたのか、


「大丈夫?」

と、ボソッと声をかけてきた。


私は痛みのせいで、少しふるえながら広瀬くんに頷くと、震えている私に、さらに勘違いを増した広瀬くんが、そっと私の手を握ってきた。


「怖いなら、こうしててあげるね」


広瀬くんの行動にどうしようと戸惑ったが、胸が苦しくて振り払う気力もなかった。


ヤバイ、もうダメだ。

苦しい。


そう思った時、後ろのドアが開き、教室に葛西先生が現れた。


広瀬くんは扉が開いたと同時に私の手を離していたので、葛西先生は広瀬くんが私の手を握っていたことには、まったく気がついていないだろう。


「水城、ちょっといいか?」

教室に入ってすぐ、葛西先生は私の様子がおかしいことに気がつくと、まわりに発作のことを気づかれないように、私を支えながら廊下の外まで連れだした。


「薬は?歩けるか?」


うまく答えられず、少し冷や汗をかいていた私に、

「少し我慢しろよ」

と、葛西先生は私を軽々と横抱きにして、保健室へと運んだ。



「ありがとうございます。葛西先生」

薬を飲み落ち着いた私が言った。


「映画の選択が悪かった。すまない」

クラブで観る映画は、いつも葛西先生が用意してくれる。


私は首を横に振った。

「たまたま偶然が重なっただけで、葛西先生は気にしないでください」


葛西先生はベットで体を起こし座っていた私を、そっと抱き締めた。


「先生?」


「怖いな。水城がまたいつ俺の知らないとこで苦しんでるかと思うと耐えられない。 ……水城にナースコールでも付けておきたいよ」


私は思わず吹き出してしまった。

「ナースコールって!大袈裟ですよ」


私は冗談だと思った。


でも葛西先生にとっては、冗談なんかではなく、真面目な話だったようだ。


「そうだ、水城、確か緊急用に携帯、持ってたよな?」


「はい、一応……」

発作が心配されてた私は、

学校では緊急時以外使わない条件で特別に許可されていた。


「俺の番号、1番目に登録しなおせ」

電話帳の1~9までに入っている番号は、短縮発信が出来る。


1番なら手探りでも押しやすい。


今は電話帳の1番目は母親の番号が入っていた。


「学生は学校にいることの方が長いし、働いてる水城の母親よりは早く駆けつける自信はある」


確かに葛西先生の言うとおりかもしれない。

それでも……


「葛西先生の言葉は本当にありがたく、嬉しいですけど……葛西先生にそこまでお願いする訳にはいきません」


私のせいで両親が色々と苦労してきたのは、小さい頃からずっと見てきた。

両親でも申し訳ない気持ちでいっぱいなのに、身内でもない葛西先生を、私の人生に巻き込めない。


「俺がそうしたいんだ。 水城のこと、守りたい」


葛西先生のその言葉は、


『愛してる』とか、『好き』とか、


言われることと同じくらい嬉しい言葉だった。



「でも……」

「頼む!水城にしてやれること、俺にはそれくらいしかないから」


なんでただの生徒にそこまでしようと思うのだろう。

生徒一人一人にそんなことしてたら、葛西先生の体がもたいない。


「先生の番号知ったら、真夜中とか、寂しい時とか、電話しちゃいますよ?」


葛西先生に諦めさせようと発した言葉だったけど、事実になりそうだった。だって、きっと葛西先生の声を聞くと安心するから。


「ああ、俺なんかでよければ、いっぱい、電話してこい」


どうして、そんなに私を甘やかすの?

どうして、いつもそんなに優しいの?


「先生が休みにデート中でも、構わず『今すぐ来て』とかワガママ言いますよ?」


先生、流石にこれは嫌だなって思って諦めてくれるよね?


「恋人はいないが、もし居ても水城を優先するよ」

「どうしてですか?!どうして、そこまで私のこと……?」


葛西先生の気持ちがよくわからない。

どうしてそこまで私のことを気にかけるのか……。


葛西先生が私に恋愛感情を持っていないのは、わかっている。

じゃあどうして??


葛西先生はゆっくりとした口調で話しだした。

「……俺、妹が居たんだ」

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