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1、出逢い

先生の鼓動を聞いたとき。


とても心地よくて

ずっとずっと聞いていたいって思ったんだ。


ねえ、先生?

幸せって こんなに あったかいだね。

私、水城麗みずしろれい17歳。


本当なら高3の歳ではあったが、幼い頃からの心臓病のせいで、学校に行けない日が多かった。


ここ数年は度重なる発作や手術などもあり、まったく学校に行くことが出来なかった。


もちろん、このまま高校に行くことも出来ただろうが、学力などを考えるとやはり難しいこともあり、


両親と学校で相談して中三として、私立中学に通わせてもらうこととなった。


幸いなことに小柄な私は 中三と偽っても誰も気が付かないだろう。


まあそれでも、問題が起こることを避け、生徒には年齢のことはは伏せる……ということで話はまとまった。


新学期と同時にスタートするはずだったが、思ったより術後の入院が長引き、2週間遅れの転入となった。


4月21日。


私の担任は24歳の新任教師・葛西真成人かさいまなと先生だった。


葛西先生は、 若いせいか、先生というよりは学生に近い印象だった。



「水城、行くぞ」


私と葛西先生は、これから使う私の机を探しに、体育館の2階にある倉庫に来ていた。ちょっとした手違いで、まだ教室に用意されていなかったからだ。


「しまった」

倉庫に着いた時、葛西先生が困った顔をした。

どうやら体育館の鍵の束の中に、倉庫の鍵はついていなかったようだ。



体育館は校舎とは少し離れていたので、鍵を取りに戻っていては、一時間目の授業が始まってしまう。


葛西先生は倉庫の窓を、ガチャガチャと開くかどうか一つずつ確かめ出した。


「あ、開いた」

どうやら鍵かけ忘れていた窓があったようで、たまたま開いたその窓から葛西先生は入るつもりらしい。


窓は腰よりちょっと高いくらいだったので、よじ登ればなんとかそこから入れそうだ。


葛西先生は予期せぬハプニングに、動揺していたのだろうか。



「水城、抱き上げれば、入れるか?」


そう言うと、返事もしない間に、私を軽々と抱き上げ、窓から倉庫の中へと入れた。


葛西先生が入るのが無理そうだから、私が先に入って倉庫の鍵を中から開けろという意味かと思ったのだが、葛西先生も私のすぐ後に続き中に入ってきた。


私、入った意味あったのかな……。なんだか不安になる。


当たり前だが、倉庫の中は二人きり……周りはとても静かだ。


ヤダ……どうしよう。なんだかすごく怖くなってきた……。


先生とはいえ、よく知らない人とほぼ密室状態。何か起こってもおかしくないかも。


私は頭の中で、襲われそうになったらどうやって逃げようとか、どこをどう蹴ろうかとか、いろんな妄想とシミュレーションを繰り広げながら、部屋の中央で固まっていた。


すると、葛西先生が自分の方へゆっくりと歩み寄り、私の方へと手を伸ばしてきた。


何!?


っと思ったが、シミュレーション通り動くことは出来ず、私は体をビクッ!と、震わせただけだった。



「水城?……どうした?……後ろの机を取ろうとしただけなんだが……」


私の反応に、葛西先生の方が驚いていた。

だが、すぐに状況を理解したようだ。


「水城、……男にそういう態度は危険だよ。過剰な反応は返って相手を変な気持ちにさせる」

忠告するように、葛西先生は私にそう言った。


ということは……私の態度で先生が変な気に?!……っと、私の体は不安と恐怖で小刻みに震えだした。


「そう脅えんなって。これでも俺は教師だ。生徒には手は出さない」


葛西先生は警戒心を解こうとしたのか、私の頭をポンポンっと撫でた。


「まあ、今回の事は冷静に考えれば、完全に俺が悪かったな。すまない。俺が先に入って中からドアを開ければ、それで済んだ訳だし、水城に警戒されても仕方無いな」


葛西先生は私の後ろに山積みにされていたところから、一人分の机と椅子を下ろした。


そして、部屋の中から、ドアの内鍵を開け、机と椅子を廊下へと運んだ。


その間も、ずっと固まったままでいた私に、葛西先生は苦笑いしながら言った。


「用も済んだし、とりあえず鍵閉めて現状通り戻してお来たいんだが……動けないなら、また抱き上げようか?」


私が、ハッとして、慌ててドアから出ようとした時、


「おい、誰か居るのか?」

体育館の外から先生らしき大人の声が聞こえた。


その声がしたと同時に、私は葛西先生に腕を引き寄せられ、外から見えない場所に、抱きすくめられていた。


「せんせ……い?」

私の顔は葛西先生の胸の中に埋められていた。


「ごめん、ちょっとだけ我慢して」


耳元で葛西先生の優しい声が聞こえた。


「あの声、教頭だ。窓から入ったのバレたくない」

葛西先生は私にだけ聞こえる小さな声で言った。


あれ?なんでだろう?不思議……。さっきまであんなに怖かったのに。


葛西先生に抱き締められた瞬間、怖さが嘘のように吹っ飛んだ。少しも嫌じゃない自分に驚いた。


葛西先生に言われるまま、私は葛西先生の胸に顔を埋めじっとしていた。


トクントクン……。


葛西先生の鼓動が聞こえた。


元気な、でもどこか優しい音。


あったかい……。


葛西先生の体温がとても温かくて、居眠りしちゃうくらい心地いい。


トクントクン……。


すごく心地よくて安心する。



「早く教室戻りなさい」

どうやら、一時限が始まりそうなのに、外に生徒が居たらしい。

教頭先生はその生徒を連れて校舎へ戻って行ったようだ。


「あ……よく考えれば、今はドア開いていたし、隠れる必要もなかったな」


葛西先生は私を抱きしめていた腕を離したが、私はまだ少しぼーっとしていた。


「水城?もう大丈夫だぞ」


もう少しだけ……このままで居たい。


男の人に初めて抱きしめられたから、この気持ちがいったいなんなのか、私にはさっぱりわからなかった。


私は無意識に葛西先生の服をキュッと掴んでいた。



「水城?!苦しいのか?心臓か?」


私を心配する優しい葛西先生……。


もう少しだけ、葛西先生の優しさに甘えていたかった。


ねえ、先生?

私、どうしちゃったんだろうね。


人を好きになるって、

こんなに突然なことだったっけ?


「葛西先生……」


本当は全然体調なんて悪くないのに、病気をたてに私はズルい事をしたのだ。


「水城?大丈夫か?苦しいのか?」

葛西先生は壊れ物に触れるように、私を優しく胸に抱き、私が満足するまで、ずっと頭を撫でていてくれた。


私、葛西先生のこと好きになっちゃったみたい。


本当は少しも苦しくなかったはずの胸が、その時、少しだけ苦しくなったんだ。

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