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怖がらせたい

作者: 六月屋

こんな経験はないかな? 背後やドアの向こう、自分の目の届かない所に「何か」がいるような気がした事は。

 彼の場合も、ちょうどそんな様子だった。今日は夏休みを利用して、夜の学校で肝試しをしようという企画。憧れの彼女が参加すると言うので、思い切って参加してはみたものの、実を言うと彼は、そういう手合が大の苦手だった。

 果たして偶然か運命か、彼は憧れの彼女とペアになって夜の校舎を一周する事になった。こうなったら怖がってなんぞいられない。彼女にいい所を見せるべく、強がってずんずんと進んで見せた。

 そこで彼は、感じてしまったんだよ。自分たちのそばに「何か」がいる、ってね。どうやら彼女の方は気づいていない。だから悲鳴をあげる事もできず、必死で「何か」を無視しようとした。

 ところが、そうは問屋が卸さない。「何か」の気配は確実に彼に接近し、ついには彼を飲み込もうとする!

 おやおや、可哀想に。気絶してしまった。さて、彼女の反応は?

 ほほう、起こしてやろうというのかね。優しいじゃないか。どうやら彼の恋心は、見込み違いではなかったようだ。これからどうなるのか知らないが、うまくいかない事はないだろう。彼がこれにこりて、あまり無茶をしなければ。

 ああ、私かい? 私は臆病神。人の恐怖心を煽り立てる存在。と言っても、最近の人間は現実的なのが多くてね、私の出番もなかなかない。あまり怖がってくれないのさ。寂しい限りだ。

 だから、ここの学校で肝試しをやると知った時は嬉しかったよ。久々に腕の見せ所だ、ってね。今のが一組目。夜はまだまだこれからだ。友達が用意したお化けも良いが、私のような本物のお化けが協力してやった方が、きっと面白くなるだろう。

 そんな事を考えながら次の組を待っていた私は、窓の外に妙な気配を感じた。人間が隠れているらしい。それもいい年をした大人、この肝試しとは関係がないようだ。

 気になった私は、ためしにそいつの心を読んでみた。さっき彼の心を実況中継をした事からもわかるように、私は読心術が使えるのさ。

 ふむ、逃亡中の殺人犯か。ずいぶんと物騒な客が来たもんだ。とりあえず人気のない所へ来て、いざとなったら生徒たちを人質に取ろうってのかい。

 冗談じゃないよ。今夜は楽しい肝試しなんだ。お前さんみたいな無粋な恐怖はお呼びじゃない。生徒たちに被害が出る前に、さっさと排除しておこう。

 私は十八番の「恐怖の波動」をそいつに叩き込んだ。わけもなしに恐怖を感じて逃げ出してくれればこっちのものだ。

 ところがそいつは、周りを見回したきりで、動こうとはしない。なるほど。逃亡犯にとっては、この程度の恐怖は日常茶飯事って事か。

 弱ったね。私はおどかす事だけが目的で、荒っぽいのは好きじゃない。相手に物理的に干渉するのは苦手なんだ。

 おっと、いけない。肝試しの次の組が来てしまった。

 仕方ない。今はこの逃亡犯をどうにかする方が優先だ。もったいないが、この組をおどかすのは見送ろう。

 ん? 逃亡犯の奴、動く様子を見せていやがる。何をする気だ? まさか……。

 心を読んで、私は自分の計算ミスに気がついた。こいつは、私がさっき与えた恐怖から、大人しく隠れているのが不安になって、生徒を人質に取ろうとしている。

 そうはさせないよ。あの子らは私の獲物だ。

 仕方ない。「恐怖の波動」を極限まで高めてやろう。ちょいと疲れるが、何、命までは取らないさ。さっきの彼のように、死ぬほどの恐怖で気を失う程度だよ。

 やれやれ、やっと片付いた。子どもたちは何も気づかずに済んだようだし、これで安心して、肝試しを再開できる。

 ところでこれを読んでいるあなた、あなたはこの話を他人事だと思っていないかい? 私の同族は、どこにでも、そしていくらでもいるんだよ。もちろん、あなたのそばにも。

 だから、もし「何か」を感じた時は、せいぜい怖がっておくれ。それが私の生きがいなんだから、さ。

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