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綺麗な道  作者: 伊勢崎
1/1

ある町長の願い

きっかけはささいなこと。


わたしたちから見れば信じられないような惨状。


あんがいこんな感じでゆるっと生まれたのかもしれませんね。


そう考えるといつ何が起きてもおかしくないから怖いですね。







――――綺麗な道が欲しい。



きっかけはそんな小さな願いであった。

町長という職業柄、馬車を使うことは多いのだが、

常日頃から私のストレス増加を手助けしてくれる要因が存在していた。


それは道。である。


仕事で様々な町に訪れた事があるが、彼等の道は素晴らしい。

馬車に乗っていても揺れを感じない。

いや、揺れを感じないいうのは語弊があるのかもしれない。


"私の感性では"揺れを感じることはほとんどないのだ。


なにしろ私の町では馬車に乗っていると常にカップには右手に添えておかなければならない。

常に不規則なリズムが全身を襲い、胃の中から何かがせり上がってくるような感覚に襲われる。

そんな嫌悪感と戦いながらも仕事をこなす私は聖人君子か何かであろうかと自画自賛をしたものである。


そんな状態の我が町で両手を自由にして、

心を落ち着けて景観を楽しむ事など最早夢物語であろう。


"道を舗装すればいいじゃないか"


そんな事は太陽が東から西に落ちるまで何度も考えたさ。

しかし、役職者としては現実を直視しなければならない。

そう、財政である。


率直に言えば、財政に余裕がない。

気候から考えてみても農業に有利であるわけでもなし、

大きな輸送ルートに隣接しているわけでもない、腕の良い鍛冶職人が集まっているわけでもない。

なんとか自治に必要な税を徴収してやり繰りしている現状である。


以前は町の特産物を企画して有名な商人に持ち掛けてみた事もあるのだが、

どれも期待に添える結果を出すことはなかった。


"それなら馬車に乗らなければいいじゃないか"


そう出来たらどんなに幸せなことか。

私だってあんな不規則なリズムを味わうよりは自分の足腰を鍛えた方が

遥かに有意義に思える。


しかし、命と乗り心地の悪さを天秤にかければ誰だって生命の方に傾くであろう。

……お恥ずかしながら、治安が良くないのだ。

この町では役職者や身分が高い人々は決して自分の足で歩くことはない。

そんな事をすれば次の日には血だまりが出来上がっているだろう。


そんな理由から馬車に乗らざるを得ないのだ。

以前は何とかできないものかと考えを巡らせていたのだが、

費用の問題と自分の財政手腕が未熟な結果だと思うと諦めがついていたのだ。

何より綺麗な道などど贅沢を言う前にまずは治安を何とかしなければならない。


私に害を成す事が喜びであるような害虫を駆除しなければならないのである。

しかし、やはり費用の問題に直面する。

また、彼等が経済の一旦を担っていることも事実なのである。

実際に彼等が一斉にいなくなった場合に雇用機会が減少することも事実であろう。

何とか財政を圧迫することなく、治安の問題を片づける事は出来ないものか……


















「医療、なんていかがでしょう」


馴染みの商人が税を納めに来たのを見かけ、

雑談がてらに執務室に招待したついでに何か金策のアイディアは無いかと問うた所、そう答えた。


それにしても私の印象だと商人とは「物を売る」人種ではなかっただろうか。

目の前の男とはあまりにも畑違いの単語に驚きを隠せない。

この男は医者と商人を兼業しているのだろうか。

医者であれば生活に困らない十分な利益は得られるはずであるが。


「あぁ、失礼。医療の研究に協力されてみてはいかがでしょうか」


話によればどうやら近頃の貴族は「延命」にご執心らしい。

"神"という不安定な存在に頼ることを辞めて、

身体の構造を研究して命を長らえる方法を探っているというのだ。


随分ご高尚な事をしているようだが、治安維持もままならないこの町に

博識な学者でもいると思っているのだろうか。

本なんて高価な代物は数冊あるかどうかであるし、ましては医学書などもっての他である。

貴族からの支援が得られる医療の研究であればかなりの報酬を期待出来そうではあるが、

いかんせん土台もままならない私には手の出せない領域である。


……だめだ、話が見えない。一体何を持ちかけようとしているのか。


一斉に湧き出た疑問が少しずつ不信感に姿を変える。

しばらく沈黙を貫くと、商人は少し気まずそうな顔をしながら続ける。


「率直に言えば"研究材料"を提供して頂きたいのです」



あぁ、成る程そういうことか。

やっと話が見えてきた。


身体を研究するには実際に内部を確かめてみるしかないだろう。

頭を裂き、胸を裂き、腹を裂き―――――



つまりその実験材料を売ってくれ。と提案しているのか。



しかし私も善良な町長であれと志を高く持っている。

そんな非人道的な行いを自ら実践するわけにはいかない。

いくら金に困ってるとはいえ、その領域に手をだしてはいけないと正常な人間なら判断出来るはずだ。


第一この町の人々は仕事に従事し、しっかりと税金を納めている。

町の現状は置いておくとして、町民に不満は……


いや待てよ……悩みの種がいるじゃないか。

そういえば居たな、一生懸命汗水垂らして治安悪化に貢献する連中が。

お節介にも私の足腰を労り、馬車に乗らざるを得ない状況を作った連中が。

町民の平穏な生活を脅かし、恐怖を振りまく連中が。











――――奴らを全て売り飛ばしてしまえば










頭の隅にすっと表れたそんな案が私の頭を塗りつぶしていく。

人身売買など普通に考えれば許されないことである。

だがしかし、奴等ならばどうだ。



人に害を成す化物は国がかりで討伐することがあるのだから、

害を成す連中を討伐しても構わないのではないか……?

結果が同じ「死」なのだから問題はないのではないか、至る過程はどうでもいい。

そうだ、治安回復のためにいまこそ乗り出すべきではないのか!



……いや、白状すればそんな事はどうでもいい。

確かに治安の回復は重要な課題ではあるが、そこまで熱意をかけられるものではない。

そんなことより、常々の私の不満が解消される、長年諦めていた願いが叶う時が来た……

もし奴等を売ることで町の財政が潤うならば、





綺麗な道が作れるではないか――――――




今すぐここで踊り狂いたくなるような興奮感に駆られる。

全身の血液が沸騰しそうなぐらいに体が熱くなってくる。

いいぞ、俄然興味が湧いてきた。ついに実現出来るかもしれない。



連中を売り飛ばし金を得てその金を使って道を作るという事業を始める。

仕事が生まれることで雇用も生まれる、

連中がいなくなれば治安も回復する、

治安が回復すれば商人も集まる、



良いことずくめではないか!

デメリットが一つもない、素晴らしき妙案である。

これは天啓に導かれているのだろうか。

日頃から神に祈りを捧げていたことがたった今身を結んだのだ。







……さて、一旦落ち着こう。

冷静さを失ったら正常な判断が出来なくなる。

目の前の商人には気づかれないように静かに息を吸いながら全身に酸素を行き渡らせる。

体内の温度が少しずつ下がっていくのを感じながら軽く目を閉じる。

そしてゆっくりと息を吐きながら商人を見つめた。


「私は善良な町民達をそのような目に合わせる気は毛頭ありません。 

 しかし、周りに害を成す連中への制裁と考えれば止む無しと考えることも出来るでしょう」



商人の口角が左上に動く。

恐らくこのような流れになることは想定済みなのだろう。

で、あればだ。必然的にこの先に出る問題の解決策も提示してくれるはずだ。



「しかしご存知かと思いますが、私達には連中を捕まえる余裕がない。

 まともに殺り合えば治安維持部隊が壊滅する程連中は力をつけています」



そう、問題はこれなのだ。

治安回復に乗り出す武力が足らないのだ。

今まで何度か検討してみたことはあったが、

仮に費用をつぎ込んだとしたら財政は破綻し下手をすれば町は潰れてしまう。


もしこの点において助力が貰えるのであれば……。

そう願いながらも商人からは目を離さない。

数秒間の沈黙を終えたあと、商人は答えた――――






「商品の調達は全てこちらで行います」



三話程度で完結予定です。

執筆速度が遅い……。


とにかく書いて慣れようと思います!

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