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FallProbability ~落ちる確率~  作者: 戸塚たかね
FallProbabilityⅡ~スタート オブ バラッド~
7/14

FPⅡ 序

 時は『Fall Probability~落ちる確率~』から数年前にさかのぼる。

 エースたちの出会い。そして、別れ。

 戦場に取り残され孤独と戦う、若者たち。

 自由の象徴である鳥と同じ空をテリトリーに持つ彼らは、果たして何を想い、何を考え、何を誇りとし、何を求めているのか。

 これは、そんな彼らの人情あふれる、ヒューマンドラマである。





     ◆  ◆  ◆



 苛々が先ほどから取れない。何で、よりによってこの自分が、こんな目にあわなければなら無いんだ。いつもは楽しい空中散歩も、腹が立つだけで、ちっとも楽しくも何とも無い。

 サイアクだ。

『管制塔から、クリスタルへ。管制塔からクリスタルへ。応答せよ、クリスタル』

 いつもの通りの機械的な声。それが文字通り機械からノイズと共に流れる。俺は、少し意地悪心をくすぐられて、わざと何も返事をしなかった。

『管制塔からクリスタル。いい加減にしろ、クリスタル。命令を無視する気か?』

 案の定、通信機の向こう側――管制塔のお偉いさんが、少し不機嫌そうな声を上げる。さすがに、命令無視で追求会議送りにはなりたくなかったものだから、俺は渋々、短く返した。

「何です?」

 つんとしたその態度が気に入らなかったのだろう。向こうで派手にため息をつかれた。いつものことだ。

(お前は空を飛ぶ喜びを知らないからそんなふうに水がさせるんだよ)

 また苛々が胸の内を締め付けるものだから、俺はそれを振り払うように機体をスパイラルさせた。

 身体にかかるGが心地よい。このまま天国へもいけそうだ。

 俺は、誰も見ていないのをいいことに、細く笑んだ。きっと自分でも思うが、凶悪な笑みだったはずだ。もともと笑うのには慣れていないから、どうしたって笑うときは顔が引きつってしまう。

 あぁ、このまま地上に降りることなく一生空に浮かんでいられたらいいのになぁ。

 だが、所詮それは絵空事だった。

 だってどう頑張ろうが俺は人間だし、人間は機械の手助け無しに空を飛ぶことは出来ない。そして、空中給油機を使えば空で給油が出来るが、機械は地上に降りてメンテナンス、飛び続けることができない。なんて悲しい話なんだろう。

 あぁ、また苛々してきた。

 今度はスロットルをフルに引く。そして、操縦桿をぐいっと引いて急上昇。

 堪らない。この息苦しさが癖になる。もしかして俺ってちょっと変?

 上昇を続けると、目の前に広がっていた薄い雲の群れが、モーセの十戒よろしく、裂けていく。そして、現れる太陽の強烈な光。

 ゴーグルをしていても眩しい。目が眩む。

 一瞬、俺は目を瞑った。目を瞑れば、かつての友人たちが、左右前後に飛んでいるような気がした。

 俺は敵が目の前にいるかのように想像した。色は、悪役っぽく黒でいこう。形体は、俺と同じ小型機だ。

 冷静に照準をあわせながら、トリガーに指を掛ける。相手は速い。きっと敵国のエースだ。

 ぶれる照準を何とかあわせ、トリガーを、引く。

 実弾の入っていない機銃が、ガラガラとみっともない音を上げた。

 避けられた! 面白い!

 相手は鳶のような猛禽類を思わせる動きで俺の目の前をちょろちょろする。だけど俺だって負けちゃいられない。

 そっちが鳶ならこっちは豹だ。相手のケツに食らいつくように、しなやかに、淑やかに、それでいて力強く。

 照準が相手の尾翼を捕らえた。

 トリガーを、引く。

 引こうと思ったのに。

『テスト飛行はそれくらいにして、降りて来い。クリスタル。出発の準備が整っている』

 俺はさっきのお返しの意味も含めて、派手に舌打ちをした。

(このやろう。いいところで邪魔しやがって)

 いつもそうだ。人がノッているときに限って邪魔しかしない。たまには黙って見ていればいいものを。

「……了解」

 だけど、逆らえない惨めな自分がここにいる。

 所詮、働き蟻の一人でしかない自分。パイロットなんて、いくらでも替えがきく。落ちて困るのは、機体一機に金がかかるということだけ。

 苛々がまた胸を締め付ける。切なさよりもたちが悪い締め付けだ。

 

 事の発端は、つい先日のことだった。





「転属…ですか?」

 めったに顔をつきあわせない上官を目の前に、俺は驚いて、目を丸くした。あんな顔をしたのは生まれて初めてだったに違いない。

「そうだ。お前には今度からP‐183基地で飛んでもらうことになる」

 何でまた急に、と俺は顔に出していたのかもしれない。俺の目の前にいた上官が、細々と神経質に説明してくれた。

「噂程度になら聞いたことくらいあると思うが、P‐183は相手国との国境付近にあるポイントで、一番の激戦区で重要拠点だ。もちろん、相手国にとってもな。ゆえに、必然的に自国にも相手国にもエースが集まる」

 なるほど、いいたいことは判った。でもだからって、明日出発なんて横暴すぎる。拒否したい。拒否できるなら。

「……判りました」

 でも俺の口は、俺の意志に反して肯定の言葉を紡いでいた。

 うんざりする。また、新しい人間との関係をイチから築かなければならないのだろうか。それが面倒で嫌だったから、今まで転属申請だって一回もしていなかったのに。

 もう、うんざりだ。

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