三
青い空に、残るは4機。
血のように赤い機体。夜のように黒い機体。監視者のようにたたずむ機体。そして、死を運ぶミサイルに追われる、ダークブルーの機体。
右のフラップを破損しながらも、ダークブルーの機体はいまだ飛ぶ。
その飛行にはまだ、諦めの意識は無いようにも思えた。
赤い機体が、それを馬鹿にするかのようにはるか遠くで宙返りをした。
赤い機体が、ろくに狙いもつけずに何発かの銃弾を吐き出した。当然、当たるはずがない。
赤い機体が、また宙返りをした。
赤い機体が。
赤い機体が。
赤い機体が。
――――赤い機体が、ダークブルーの機体を馬鹿にする。
最初は少しの亀裂しか入ってなかったフラップが、今はもう3分の2以上剥がれ落ちている。
翼に傷を負った戦闘機は、おそらく自分の寿命を知っていた。
だから負けじと空を飛ぶ。エンジンとラダーと残ったフラップに任せて空を飛ぶ。
赤い機体はまだ馬鹿にしたようにアクロバットをしている。
そこで、油断が生まれた。
赤い機体は、ダークブルーのシルエットが近づいていたことに気が付かなかったのだ。
もう、右翼を使って機体を右に傾けることは出来ない。
ダークブルーの戦闘機は、右の車輪を出し、その反動を利用して機体を右に傾けた。
そうすることによって、目の前に迫った赤い戦闘機を避けたのだ。
空気が張り詰めた気がした。
ミサイルがダークブルーの機体を追う。
赤い機体がその間に割り込んでしまう。
ミサイルは、止まりはしない。
赤い機体の尾翼にミサイルの弾頭が触れた。
そして爆発する。
その爆発は、重圧感のある轟音を撒き散らし、この上ない爆風をもたらす。
その爆風に乗ってダークブルーの機体はさらに加速する。
身体がバラバラになってもいいというかのように、エンジンをふかす。
目の前に、深緑の機体。
もう、機銃は使わない。
ダークブルーの戦闘機は、自身を深緑の機体にぶつけた。
再び轟音が響き、黒と赤の閃光が散る。
その光景はどこか美しいと思わせる何かがあったのかもしれない。
彼の機体のどこかに相手の機体のどこかが触れた。
不思議なことに、存外安らかな気持ちで彼はその時を迎えることが出来た。
そして、何を考えるまもなく、彼の意識はそこでブラックアウトしたのだった。
「一緒に、祝杯を挙げようって言ったのに…」
落ち着いた声の男は、感情のこもらない声で呆然と言った。
男は、考えなしには落ちなかった彼を、偉いと思った。
ただ、落ちるのではなく、あの赤い戦闘機と、ミサイルを投下した中型機を巻き添えにしたのだ。
そのおかげで、男は助かった。
でも、落ちてしまっては、英雄もへったくれもない。名誉なんて関係ない。
死んだらそこで終わりなのだ。
「一緒に祝杯を挙げようって約束したのにっ…」
嗚咽をかみ締め、男は再び言った。
その、果てなく青い空にただ一機残ったのは、真っ黒な戦闘機だけだった。




