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FallProbability ~落ちる確率~  作者: 戸塚たかね
FallProbabilityⅡ~スタート オブ バラッド~
14/14

FPⅡ 七

 出立の時が来た。

『こちら管制塔。クリスタル機に告ぎます。四番滑走路グリーン。クリスタル、四番滑走路の使用を許可します』

「了解、管制塔。キャノピィ、閉鎖確認。スロットル、グリーン。高度計、グリーン。GPSグリーン。燃料満タン、イグニッション作動」

 鳥たちがほぼ一斉に唸りを上げた。順々に滑走路へ向かい、そして飛び立っていく。

「こちらクリスタル。滑走路障害物無し。別飛行待機機体無し。オールグリーン。管制塔、離陸の許可を願う」

『こちら管制塔。了解クリスタル。離陸を許可します』

「クリスタル機、テイクオフ」

 Gが身体中にかかったかと思った次の瞬間には、機体は浮いていた。その様子を、地上で見守っているのは、クルスだった。

「…頑張れよ、イナガミ」





『ヒューウ、ひと月ぶりのバトルだぜ。なぁ、ハッピー!』

『あー、そうですねー』

『あ、お前また飛行中に本読んでるな! 止めてくれっていったじゃないか、ハッピーブックマン。怒られるのはリーダーの俺だぞ』

『あー、そうですねー』

『ほっとけ、ハロウィン。あいつは今本と飛行の両方に集中してて通信どころじゃないんだよ、きっと』

『カサブランカは相変わらずだな。冷たいって言うか、他人は関係ないって言うか』

『お褒めにお預かり光栄だな、アポロンバード』

『ところでクリスタル、ちゃんとついてきてるか?』

「…少し黙れ」

 うんざりした口調で、クリスタルはため息を吐いた。正直、通信機の電源を落としておきたい。

『そういうなって、クリスタル。飛行は楽しんで~戦闘は~もっと楽しんで~ア~ア~』

 今度は、様子のおかしい調子でハロウィンが歌いだすもんだから、クリスタルはもっと派手にため息を吐いた。

「歌うな、喧しい」

『ため息吐くと幸せが逃げるぞ』

「余計なお世話だ、アポロンバード。かまうな」

『冷たいねぇ、仲間じゃないか』

「…そろそろ通信オフにしていいか?」

 笑いを堪えたように、リアルラックが言った。クリスタルは、もう何を言っても無駄だと考え、沈黙した。

 しばらく、通信は無く、静かな飛行をクリスタルは楽しんだ。

 雲は少なく、今日は晴天だ。下には、紺碧の海が堂々と横たわっている。

 ふと、左の方向を見た。

 彼の左を飛んでいるのは、クリーム色の小型機。ハッピーブックマンだ。そしてその向こうにライトグリーンの中型機、リアルラック。隊列など関係なく、スパイラルしたり背面飛行をしたりとアクロバットにいそしんでいる。

 右隣はアポロンバードだった。太陽の神の名に相応しく、夕焼けの燃えるようなオレンジの中型機は、力強い飛行を見せ付けてくれた。

 そして、前方に眼に痛いショックピンクのカサブランカ。そのまた前に、真っ黒なハロウィン。

 どれもがどれも、皆乱れの無い飛行をしていた。

 普通、多少なりともブレながら飛んでいるものだが、ここのパイロットたちはそうじゃなかった。

 凄腕。

 P‐183のエリートディースとはよく言ったものだ。ハロウィン、Dを筆頭に、全員が全員、エリートかつキャリアを積んだ、空の悪魔たち。その背に生える白い羽は、今まで撃墜してきた人間の血に濡れている。だけど、

(罪は何度でも償える。殺し、そして償い、血を洗い流して、また天使になるか)

 なんて残酷な世の中のシステム。

 自分たちはその『世界』という名の巨大なシステムの中のギアの一つにしか過ぎないのだろうか。

 …なんて、悲しい世の中のシステム。

 クリスタルは大きく息を吸った。そろそろ来てもいい頃だ、と考えながら。

『こちらハロウィン。やっとこ敵さんのお出ましだ、。デビュー戦、頑張れよクリスタル!』

 案の定、数秒たたないうちにレーダーに異変が起こる。興奮した様子のハロウィンに返事をして、ことが始まる。

「了解、リーダー。アンタこそ墜ちるなよ」





 はいつも華やかだ。





 視界はこの上なく良好。レーダーの助けが無くても、肉眼で敵が十分確認できた。

 まだ、射程距離外。相手は、御馴染みの中型機、小型機半々の編成で、十機居た。ずいぶん多い。 

(早くこっちへ来い)

 クリスタルは撃ちたくて撃ちたくてうずうずしながらローリングした。敵のうちの一機はクリスタルの挑発に乗って近づいてくる。

 さながら、ラフレシアの香りに引き寄せられてやってくる、蠅だ。

 敵がまず一発、軽いフットワークで機銃を放った。

(莫迦め。そんな甘い狙いで俺が撃ち落されるとでも思ったのか)

 少し遠かった。もちろん、そんな射程ぎりぎりの位置から撃った弾など、クリスタルに当たるはずもない。

「カモン…、スペアリブにしてやるぜ、ベイベ……」

 低く、呻くような声音で呟いて、クリスタルはニヤリと笑った。

 敵が近づく。

(もっと近くに…)

敵が目前に迫る。

(もう少し近くにっ)

 敵がもうすぐそこ。

 臆病な敵機は僅かに羽を傾けて、クリスタルを交わそうとする。そんなことさせるものか。クリスタルは容赦なくタンクに一発。

 聞きなれた爆発音と共に、機体が少し揺れた。

『おーぅ、やるー! こいつぁ、負けられないね!』

 リアルラックが調子よく叫んで、くるりと宙返りをしてジャブ。

 あっけなく敵機が二機墜ちた。

『やりますねー。僕も頑張らないとマージン受け取れないんですよ』

 今度はハッピーブックマンが、敵機を追いかける。マニュアルどおりの大人しい動きだ。だが、それはしたたかで、まるでチーターが獲物を追って疲れさせる動きにも似ていた。

『一機でも落とせばボーナスです』

 予想通り、追いかけられた敵機は最後の最後で操縦を誤る。大きく右にずれたところで、冷静なショット。

「なかなか、お見事」

 そうこうしているうちにカサブランカ、ハロウィン、アポロンバードの居る上空は、もっと凄いことになっていた。

 容赦のない銃撃戦が繰り広げられ、戦闘機同士がもつれて海へと落下していく。

『これで二機目ゲットじゃん!』

 カサブランカが言いながら敵機の両翼に、必要以上に弾丸を撃ち込んでいた。結構、いやな性格をしている。

『俺も二機目だ。』

 今度はアポロンバードが敵機の尾翼部分だけを打ち抜いた。

『弾はなるべく節約をっと』

 冗談を言っていられるほど余裕を持った戦闘。本当に、心の底から彼らは楽しんでいる。

 とても最悪な戦場に居るとは思えないほどの長閑さ。だがしかし、確実に人間は死んでいっている。それが判らなくなっていく、この職業の麻痺感。それが、堪らない。

『今日は一機でいいや。おい、クリスタル。デビュー戦だからな。【デス様】はお前に譲ってやるよ』

 しっかり落とせ、とハロウィンは叱咤をくれたあと、クリスタルの邪魔にならないように一線から身を引いた。

 クリスタルの視界に、一機だけ取り残されていた。

 鮮やかなブルーの戦闘機。機体の背には、【Hello, and good night.】のマーキング。

「確かに頭は悪そうだ」

 しかし、腕は悪くないようだ。

 始めはクリスタルが後ろを取られてしまった。だが、相手の狙いは下手糞だった。慎重に狙いをつけない。下手な鉄砲数撃ちゃあたるとでも思っているのだろう。クリスタルはそんなに甘くはない。

「少し遊んでやろうか」

 くるくるとスパイラルをし、急上昇、急降下を何回か繰り返してやると、始めぴったりと後ろについていたブルーの機体は、だんだんクリスタルが旋回するたびに大きく軌道からずれていった。

「詰まらんな」

 一言クリスタルが呟いてそれが審判だった。

 子供が虫を悪戯に弄んだ挙句残酷に殺すように、クリスタルは、くるっと回ってあっさり後ろを取り、何の感動も無く、わりと腕の良いと評判の【デス様】の腹部に一発鉛弾をくれてやった。

 性格が悪いのは自分でも十分自覚しているクリスタル。デスエレクトロが落ちていく時、水面下ぎりぎりまで追っかけていって弾丸をぶっ放した。

(皆死ねばいい)

『ヒャッホウ! クールに殺ったな、クリスタル! この色男め!』

『うーん、貴方の容赦のなさに感服します』

『キラーマシン…ね。侮れんな』

『素晴らしいテクニックだ』

『…正直、思ってた以上かな?』

 個々の賛辞を受け取った後、彼らは素早く帰路につく。

 だがしかし。クリスタルの暗い部分を知るものは、この時点では誰一人居なかったのだった。


    戦時報告

 某日、闘功機構カステルヴェトラノ飛行基地駐在部は、シチリア島沖、パンレッテリア島付近での空中戦を決行。

   戦闘機導入数

チュニジア・TTTセキュリティー 十機

   イタリア・闘功機構        六機

  生存数

   TTTセキュリティー 零機

   闘功機構       六機

 この戦闘で、自国はカステルヴェトラノ飛行基地で初めてフライトをするパイロット、コードネーム・クリスタルを導入。敵機2機を落とす好戦績を残す。よって、後日、クリスタルについては臨時給金を発行するものとする。

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