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FallProbability ~落ちる確率~  作者: 戸塚たかね
FallProbabilityⅡ~スタート オブ バラッド~
12/14

FPⅡ 五

 クリスタルがキャノピィを開けてコックピットから身を乗り出すと、カサブランカがゴーグルをくるくると回して遊んでいるのがまず眼に入った。

「よぉ」

 カサブランカが、クリスタルの視線に気が付いて声を掛けてくれた。

「俺は、背面飛行は苦手です。首が絞められる感じがするから」

 挨拶に答えないで、クリスタルがそう言うと、カサブランカはその優面にニヒルな笑みを浮かべた。

「そっか? あの締め付けがいいんじゃないか。ドラッグより癖になるぜ?」

 もちろん、ドラッグなどを本当にやったことは無いのだろう。その笑みには知性があり、そしてその身体にはドラッグの不穏な影は寸分も見えない。クリスタルもつられて微笑んだ。

「マゾヒズムですか?」

「かもな」

 ジョークにはジョークを。なるほど、この基地の仕組みがわかった気がする、とクリスタルは心の中で納得した。マゾヒストには到底見えないカサブランカだが、言われて怒るでもなく、曖昧に肯定して笑っている。

 笑っていなければ自分を保っていられないほど、ここの戦闘は厳しいのか。

 そう思えないでもなかったが、クリスタルは敢えてその言葉について、胸の奥深くに仕舞い込んで置く事にした。思い出さなければそれでいいとすら思う。

 早くもこの環境に慣れ始めている自分が嫌じゃない。むしろ、受け入れていい。

 そう思えることにまず驚きながら、クリスタルは滑走路を振り返った。

 クリスタルの機体に続いて空から舞い降りた真っ黒い死鳥。それが、ゆっくりと減速し、クリスタルのすぐ隣にわざとらしく横付けされた。

 薄いブルーのキャノピィが開く。

 ブラックの格好つけたヘッドカバーを脱ぐと、そこに現われたのは。

「…アンタだったんですか、ハロウィン」

「そ。あーマジでびびっちゃってさ。面白かったなぁ! そんなに判らなかったか?」

 とぼけた様子から、あの通信の声は連想できない。だが、言われてみれば似ていないわけでもない。

 そうクリスタルが思っていると、カサブランカが横から口を挟んだ。

「お前の声って、通信機通すと少し低く聞こえるんだよ。だから最初はわからない」

「ふーん、そうなんだ?」

 ハロウィンは、そう生返事をしながら手狭なコックピットから脱出した。地上に降り立って、その太い大木のような足が大地を踏みしめる。一つ伸びをして、ハロウィンがクリスタルを見た。

「それよか、飯にしよう、飯。最初は超格好いーハロウィン先輩が奢ってやるからついてきなさいな、新人君」

 ニヤつくハロウィンに、クリスタルは反感を覚えるより先に、身を引いた。

「いや、俺はまだ腹は減って…」

「いいのいいの、遠慮しないの!」

 遠慮をしているわけでは一つも無いのに、何故か、ハロウィンに引きずられる形になるクリスタル。この男、どうも付き合いづらい。

「俺らもご一緒してもいいですかね?」

 懐かしいような声に導かれて振り向けば、一仕事を終えたような格好のクルスが、いつものたれ目じりでこちらへ歩いてくる最中だった。

 他のメカニックなのだろう。何人かぞろぞろとこっちへ来る。

「おーけー、おーけー。じゃぁ、クルスとクリスタルの歓迎会をかねて、一丁昼飯に出陣いたしますかね!!」

「いや、俺はまだ行くとは一言も…」

「硬いこと言わなーい!」

 クリスタルは、がっしりとハロウィンに掴まれた肩が少し痛い、と眉をしかめた。





 食堂には見慣れない顔ぶれが三人居た。

 一人は肌の浅黒い男。顔はそこそこ整っており、鍛え抜かれ、盛り上がった上腕二等筋が、いかに軍人らしい。

 その隣に、しょうゆ顔のメガネの男。本を数札食堂の机に置き、クリスタルたちが入ってきた今も何処吹く風で本を読んでいる。

 浅黒い男の真向かいに、髪の毛に赤と緑のメッシュが一房ずつ入った金髪の男。気だるげな笑みが、女にモテそうだった。

「おー、新入りじゃーん」

 金髪の男が言うと、メガネの男が本から顔を上げた。

「おや、朝は会いませんでしたね」

「寝ていたもので」

 クリスタルが目線をそらしてそう答えると、ニコニコと人好きのしそうな笑みを浮かべながら、メガネの男が手を差し出した。

「始めまして。リチャード・リーと申します。コードネームはハッピーブックマン」

 クリスタルは驚いてメガネの男、ハッピーブックマンをまじまじと見つめてしまった。眼が悪いなんて、カサブランカの台詞じゃないが、パイロットとして最悪だ。

「あ、メガネだからって思ってるでしょ? 大丈夫ですよ。遠視ですから飛行には問題ありません」

 そう言って、ハッピーブックマンは本を持っていた小さな手提げに詰めた。

「よぉ、新入りー」

 いつの間にか横には金髪の男が立っていた。クリスタルよりも20センチは背が高い。やや猫背だったが、がたいはよかった。

「一応自己紹介しとくぜ。名前はクラウス・スタンリー。コードネームはリアルラックだ」

 手こそ出しはしなかったが、拒否はされていないようだ。むしろ、新入りに対しては暖かい歓迎。ここらで一発手荒い奴が出てきても良さそうなものだが。そう思っている頃、浅黒い肌の男が、クリスタルに手を差し伸べた。

「デイビット・ロスターだ。コードネームはアポロンバード。噂は常々聞いているよ。一度話しもしたいと思っていた」

 さわやかな笑みで握手を求められた。あまりにも邪気が無さ過ぎたので、断るのもどうかと思い、クリスタルは迷いつつも手を握り返してみた。

「はは。感動の対面だな。イナガミ君、彼らでこの基地のパイロットは全部だ」

「これで全員、ですか?」

 ハギモトに言われ、クリスタルは少ないな、とごちた。

 普通、その地域の戦闘密度にもよるが、登録されている人数は、基地の大きさに比例する。勤務はローテーションで行われ、常勤として少なくとも30人程度のパイロットは居るはずだ。

 それなのに、この基地には、自分を含め、6人のパイロットしか居ない。少し少なすぎはしないだろうか。

 クリスタルの考えていることがわかったのだろうか、ハギモトはクリスタルに席を勧めながら語った。

「ここは実力が伴わないと確実に落ちるからな。入れ替わりが激しいんだよ。人数を集めたところではっきり言って金の無駄だし。それに、ここでの戦闘はいわば我が社の宣伝塔。つまり根も葉もない言い方をすれば、激戦区、とは言われてるけど、目的としてはどれだけ派手に目立てるかで給与もかわってくるっていうところなんだよね。それはやっこさんも同じってわけさ」

 ド派手な戦闘機ばかりで驚いただろう、とカラカラとハギモトは笑った。正直、クリスタルには理解できない。

「まぁ、それはともかく置いておいて。昼飯にしようかね。ここの食堂の飯はうまいぞ」

 そのノリについてゆけず、クリスタルは少々頭を抱えた。


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