第2話 『恩恵の里シャイア 中編 』
緑豊かで明るい里【シャイア】。
魔法と人が共存する世界においては、この【シャイア】の里は恐らく異例の里である。
ここに住むほぼ全ての住人は魔法を極力使わず人間本来の力で努力し里の繁栄を願い生活している。
時に人は力を合わせ畑を耕し農業を行ってその日の食べ物を作り、またそれを他の人々に分け与え共に食事をし、他愛のない会話で笑いあう。
お互いがお互いを当たり前のように助け合うことができる為、里の人々の信頼関係は強いのだ。
長い平和の中、大樹の恩恵を忘れてしまってはいるが、そんな関係性で繁栄してきた彼等は意図せずして自然や誰かへの感謝を忘れてはいなかったので【シャイア】の周辺は多くの木々や花が所々に見受けられる。
意図せずして《大樹イルスンミール》の恩恵を一心に受けた里、それが【恩恵の里シャイア】と呼ばれる由縁である。
「はぁ…、また遅刻かな?クリードは。」
そんな【シャイア】には子供達が魔法や剣術を正しく学べるようにと里中の人が協力して設立された学舎があり魔力の行使に特化し、尚且つ人柄の良い者達が里の人々から推薦されて子供らに魔法の良し悪し等を教え、導いている。
今ため息をこぼした人物はその者達の1人である、スティング・スタークである。
茶髪の髪はゆるふわ系パーマで整えられ、瞳の色は薄い藍色をしていて鮮明になっている。
長めの襟で黒い学生服に似た服はボタンは閉めずに全開させ、その中にはまた黒のシャツが着込まれている。
下は白いジーパンのようにも見えるがどうやら動きやすそうな感じの物で、白銀の鞘に納まる日本刀に酷似した剣を帯刀させていた。
「まぁ、どうやらクリードのマナの変動から見て魔法で超音速走方<シルファリオン>を使ったみたいだし間に合うか。まったく、子供達はとっくに集合してるのになぁ。」
「オイ!!あんなリーダーほっといてさっさとお前の剣術授業だけ先はじめてろよ!!俺はそれで金貰えれば良いんだからさぁ。」
「あのさぁイワン?別にそんなに急がなくても時間はまだあるんだしそれに僕らお金の為に子供達と接してるわけじゃないんだよ?」
スティングが呆れたように言葉を交わすのはイワンという名の青年だ。
スティングとは正反対にも見えるだらしのないよれた茶色のトレーナーに下はサルエルパンツという軽装で長髪の髪はボサボサなうえに髭は手入れなどされずにばらついて生えている。
クリードやスティングの教えの手伝いという名目で実際には雑用と変わらないことしかしないのだがそれで金をせびるのだから中々の青年である。
「うるせぇなぁ、手伝ってやってんだから文句言うんじゃねぇよ。せっかく善意でやってんのに萎えるだろうが。」
「善意…か。まぁ、もう少しで来るからもうちょい待ってあげよう、頼むよイワン。」
「しゃあねぇなぁ!!後3分な!!。でもさ、何でもう来るって分かるんだよ?」
イワンは率直な疑問としてスティングのその勘なのかなんなのかわからない確信を得たような言葉に首を傾けた。
「周囲のマナを感知することは人々はもう当たり前の事としてできるだろう?それこそ感覚レベルで。でも僕はそれ以外にマナの消費増減とその流れを知覚することができる。つまり、クリードが魔法を使ってマナを消費したことでそれを僕が知覚したってわけだよ。この【シャイア】で魔法を使う人間なんて数える程しかいないし、とゆうかクリードくらいだよ。」
「何だそれ?何でそんなこと知覚できんだよおかしいだろ?」
「魔力は普段周囲に存在してるだけのように見えるけど実はそうじゃない、それを扱う者の体内にも魔法を使うことで宿って変化していくんだ。そしてその人間の性質に合った能力が希に覚醒し、真魔力になる。」
軽快に説明をしていくスティングだったがイワンはあまり理解できないと言わんばかりに顔をしかめるて疑問を畳み掛けていく。
「じぇ……じぇじぇじぇ?がなんだって?1つ分かるのはお前がチートだってことしかわかんねぇわ。」
「ようは魔法を使い続ければ極、稀にその人に自分の個性が写った魔力が体内で生まれて魔法が使えるってこと。そして、僕の真魔法の能力は消滅なんだよ。魔力に関わる自分が認知したもの全ての消費知覚と消滅を行える魔力だよ。」
「ふ、ふ~ん。(こいつには喧嘩じゃ勝てなさそうだぜ)」
魔力は覚醒する。
それは様々な条件で稀に起こる現象であり、感情の爆発が切っ掛けにもなればただ日々を過ごしている者でも突然目覚めることがある。
だが、はっきりとした覚醒の原因は今だわかっていないような感じのニュアンスで説明するスティングの説明にイワンは恐怖の悪寒すら感じてしまっていた。
そんなやり取りをしていると2人の背後に建つ学舎の玄関扉が元気よく開かれる音が響き、そこから5人程の小さな子供達が2人へと近づいてくる。
「スティングせんせぇ~!クリードせんせぇまだこないのぉ?」
「わかったぁ!またエレノアお姉ちゃんと、でぇーとしてんだなぁ!」
待ち人が来ずに待ちきれなくなってしまった子供達が痺れを切らして学舎の外へと駆り出してしまったようだ。
だが、その子らの目には怒りなど無くただ純粋にこれから遊びに行くぞとでも言うようなワクワクや期待といった目がキラキラと輝いているようであった。
5人ともに小学4年程の背丈をし、女の子ふたり2人、男の子3人のグループ構成になっている。
「大丈夫だよ皆。もうすぐ来るよクリード先生!!」
「ちゃんと来るんだから学舎でちゃんと座って待ってろよこのクソガキどもがよ!!」
イワンの暴言に一瞬、周りが静まりかえる……。
そして1人の子が怒の強い言葉に怯えていた。
「うぇ~ん!!!クリードせんせぇ…早く来てよぉお~。」
「イワン!子供達にそんな言い方しちゃダメだといつも言っているだろう……。」
イワンの大人気ない発言に溜息混じりで呆れているスティングだがこれは今に始まったことではなく、イワンは金を貰える事に執着している反面、子供達への思いやりが皆無と言って良いほどに暴虐な態度に出ているから最悪だ、実際にはクリード達の方が親しみを持って子供達と接し見返りを求めずに勉強を教えて来ているのに、イワン本人はただ雑用で学舎に来ているから尚更たちが悪い。
ぶっちゃけなんで彼が当たり前にここにいるのか不思議なくらいだ。
「ガキはこうやって揉まれた方が強くなってくんだから別に良いだろ、これは俺のこいつらへの優しさなんだよ!!」
「(どこが優しさなんだ……それが君の素だろうに)まぁ、そうゆう見方もあるんだろうけどこの子達にはまだそう理解できない事もあるだから気をつけてほしいよ。」
「わかった、わかったからそう怖い顔すんなや、てかリーダーまじで遅せぇな!!」
子供達は軽蔑と怯えを持った目でイワンをスティングの後ろに隠れながら見つめるが、そんなことお構いなしにという感じのままでクリード達の到着を煽っている。
「とにかく、この子達を雑に扱うようなまねはしないで貰いたいんだよイワン……。」
「わーた、わーた。わかりやちたよ、んな事よりさっきから言ってんだけどリーダーはまだか……よ!?」
イワンが言い終えようとしたその瞬間、周囲の風の流れが強くなっていくのに合わせて周辺の草花も木々も荒ぶりはじめる。
「やっと来たか……。みんな!!危ないからそのまま僕の後ろで隠れてるんだよ?」
「「は~~~い!!」」
「さぁ、来るよ……。」
スティングがそう言うと強くなった風は途端に突風へと変わってゆき、彼らの前方から風の塊のようなものがこちらへとてつもい速度で向かってくる。