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Ever Lasting Despier  作者: 真屋
第1章 旅立ちへの鎮魂
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第1話 『恩恵の里シャイア 前編  』

「なんて……綺麗な声なんだ。」


声を耳にした瞬間、少年は一瞬のうちに心を奪われてしまった。

儚いのにどこか芯を持っている声、だけどとても寂しそうで泣いているような声に少年は胸を締め付けられるような震えと切なさを同時に味わうような状態にされ、ただただ虚空を見つめることしかできなくなってしまっていた。

それほどまでに儚げで、それほどまでに美しい声だったのだ。

だが、呆然とはしていたが思考そのものを停止してしまったわけではなく、すぐに疑問が生まれていた。


「今の声は……一体?それにあれは確かに救いを求める声に他ならなかった。ただの幻聴とはとても思えないしそれに……。」


先ほどの声の分析に頭を廻らせていた少年だったが、そのせいで背後から迫る人の気配に気づきもしなかった。



「クリード先生……?どうしたんですか?」



若々しくも優しい声が少年を呼び掛けるがまったく気づく様子はなく少年はブツブツと言葉を続ける。



「それに私だけに聞こえたのかだろうか?それともこのシャイアの里で暮らす人々だけ?いやいや、この世界レイディアントロスト全域に聞こえた可能性もあるな!!ふははっ!」



「あの……クラファイト・リード先生?」



「今日は素晴らしい日だ!こんな不思議な現象に出会えるとはね、《大樹イルスンミール》を探求する身としては嬉しい現象だ!!」



最早、妄想の世界に入りつつありそうな勢いで一人盛り上がっている少年に呆れつつも業を煮やした背後の人物は声を荒げて今度こそはっきりと呼び掛ける。


「もう!!クラファイト・リード!!」



「ふぁ!?」



少年からすれば突然大声で自分の名を呼ばれた為

驚きから間の抜けた反応を見せてようやく後ろを振り返る。

そこには女の子が今にも怒り出しそうな顔で自分の顔をまじまじと見つめていた。


「び……びっくりしたぁ、だ…誰かと思えばエレノアじゃあないですか。どうしたんです?」



「どうしたんです?じゃありません!!私は何度もクリード先生のこと呼んでたのに全然気づいてくれない先生が悪いんですよ?どうせまた妄想でもしてたんでしょう?」


エレノアという少女は拗ねたように意地悪く言葉を返すがまるでいつものことだと割りきっているのかすぐに柔らかい笑顔を彼に向ける。

身長は160㎝ほどで赤みのかかったセミロングの髪をまとめ上げて左肩にかかるように降ろしていて、花柄の刺繍のついた白いフリルのワンピースのおかげで可愛らしさが滲み出ている。

柔らかい笑顔と相まってとても可愛らしい少女の名はエレノアという。


「ごめんね?エレノア。少し考え事してて気配に気づけなかったんだ。」



「妄想ばっかりしてるから里の皆に変態扱いされるんですよ? 普通にしてればカッコいいし素敵なのに……もう。」



変態という言葉を強調させつつもそんな彼には言えないことは小声にならざるをえなかったエレノアであった。


「いや、そこ普通は変人だよね?おかしくない?なんで変態で広まってるの?おかしくない?」


変人で通ってるならわかるのだが何をどう間違ったら変態として浸透していってしまってるのかまったく理解できないでいたのだがそんなことどうでもいいと言わんばかりにエレノアは言葉を続ける。



「変人も変態も同じようなものです!!そんなことよりも早く学舎に行かないとまた子供達に色々言われるし、そ…その……また茶化されちゃいますよ?////」



「そうですね~。でも茶化されるってことは子供達はきっと私のこともエレノアのことも信頼して接してくれてることの証拠なんじゃないかって思うんですよね私。」



「そうなのかもしれないんですけど、私が言ってる意味はそうゆう意味じゃないのに……毎日、私が何のためにわざわざ…。」



期待していた返しとはおよそかけ離れた真面目な台詞にエレノアはため息をこぼすより他はなかった。

ほぼ毎日、遅刻の瀬戸際に陥る彼を好き好んでわざわざ出迎えるなんて普通の感覚の女性なら好意がなくてはしない行動である。

ましてや2人揃って遅刻寸前で現れるのだから純粋な子供からすれば2人の関係は必然的にそう見えてしまうわけで。

彼女事態は悪い気はしていないのだが、目の前の男がそれにまったく気づかないのが問題なのだ。

要約するとエレノアはこの男、クラファイト・リードことクリードという少年に惚れてしまっている。



「と、とにかく!//// もう遅刻確定ですよ?どうするんですか!!」



「そんなに怒ったら普段の可愛い顔が台無しですよ?エレノア。」



「なっ…!?////」



突然の不意打ちにみるみる顔を真っ赤に染めるエレノアだったがそれを気にも止めずクリードは言う。


「魔法を使って学舎に移動すればまだ充分間に合いますよ、じゃあ時間が無いから早速始めますよ?」


「え?まさかその魔法って!!」



「じゃあいくよ、エレノア。」



そう言い終えるとクリードは左手人差し指と中指を立て詠唱を唱えはじめる、それと同時に周囲の魔力マナがクリードのその2本の指先に収束しはじめる。


「疾風の風よ……絶の意に従い、音速を越えし風を我が脚に纏わせ……行使させよ!!」



 詠唱が終わったと思われると、指先に収束した魔力マナが一気に周囲に溢れだし、圧縮されたように強烈な旋風が両足全てに纏わりついていく。

 エレノアはその光景にただ驚愕し呆気にとられたまま棒立ちすることしか叶わなかった。



「良かった!!大成功だよ。さて、それじゃ……。」



 クリードは今だ棒立ち状態のエレノアの手をとり、そのまま両手両足を片手ずつで抱き抱えて支えた。

 それは俗に言ういわゆるお姫様抱っこと呼ばれるものだ。


「え!?////ちょっ!?まっ、待ってクリード先生!!まだ私、心の準備が……!!」



彼女からしたらお姫様抱っこはこの上なく嬉しくて発狂ものだが

これから起こることを考えるとどうしようもなく恐ろしくこちらも発狂ものなので気持ちが落ち着かないという具合だろう。

だが、クリードはなんのお構いもなかった。



「しっかり掴まってるんだよ?エレノア!遅刻を避けて子供達も待たせない為に最高速度で行くからね。」




「だ…だからもう少しまっ……!?」




 既に遅かった、エレノアの返事を待つこともなくクリードは術の発動の核となる術名を唱える。




「いくよ……音速を凌駕する風、超音速走方シルファリオン!!」




「いやぁああああああああ~~!!」





 音速を越える音速、それは限りなく光に近い速度であり人類が目指す最後の壁だろう。

 それをいとも容易く魔法として実現してしまうあたりクラファイト・リードの潜在能力は最早チートなのかも知れない。

 だが……チート、最強、無敵と呼ばれる者がどれほどいようとも変わらない現実がこの世にはある。


 例えそれがどんな世界であろうと……。



「クリードせんせぇー!!!お願い、降ろして…降ろして下さい~!!」 



「あと少しで着くからがんばってねエレノア!!」




「いやぁああああああああ~~!!」



 向かう先は恩恵の里、シャイアの中心部にある学舎。

 そしてここから、彼の……クラファイト・リード、通称クリードの物語が始まる。

 苦難の旅路への序曲がすでに動き出そうとしているのだった…。


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