どこにでもある、ありがちな異世界転生です。
凄く短い異世界転生ものです
「はい、私が神でーす!」
私が今いる場所はどことも知れない白い空間。
目の前には自らを神と名乗るおかしな女性が佇んでいる。
その女性はめったに見ないほど整った容姿をしていたが、どうも頭の方は残念なようだ。
それなりに長く生きた私だが、寡聞にしてこのような神など聞いたことがない。
「いやーごめんね? 本当あなたは死ぬはずじゃなかったんだけど、うっかりミスして殺しちゃったんだよねー」
なにやら恐ろしいことを眼前の自称神は口にする。
確かに思い出せる最後の記憶では、私は倒木に巻き込まれていた。
……であれば、私が死んだということは本当だろう。目の前の自称神の発言を素直に受け止めるのであれば……彼女のミスが原因で。
しかし本当に恐ろしいのはそこではない。
「本来死ぬはずではなかった」ということは、「本来死ぬはず」のヒトもいるのだということ。
つまりヒトの生き死には、全て神によって管理されているということになる。それはあまりにも悍ましい。
戦慄する私をよそに自称神の話は続く。
「とりあえず、お詫びとして異世界転生させてあげるね? もちろんチートも付けちゃう。今流行っているらしいし」
……待て。異世界? 転生? チート? なんだそれは?
「それじゃあ、新しい人生を楽しんでねー」
当惑する私を置いてきぼりにしたまま自称神が宣言し、私の意識は闇に落ちた。
――私がこの世界に転生し、それなりの年月が経った。
幸いにして新たなる両親は厳しくも優しい人たちで、家の方も一般的な中流家庭といったところだ。
しかし、もちろん初めのうちは戸惑うことが多かった。前世とはあまりにも違う生活習慣が原因で、周囲と軋轢を生んでしまうことも少なくなかった。
しかし、それも今世の生に慣れるうちに自然と消えた。
考えてみれば、確かに前世の私にとって森は大切な存在だったが、今世の私にとっては便利な生活の方が大切なのだ。
寿命は前世よりも大分短い。その上毎日が目まぐるしく過ぎていく。
今にして思えば、前世の私はあんな単調な日々をよく過ごしていたものである。
もしも今の私が、あんな日々を末永く過ごすことになったら発狂してしまうかもしれない。
概ね今世の満足している私だが、それでも不満というものはあるものだ。
一つは私のあだ名。どうも私は同世代よりも大人びて見えるようで、少しばかり不本意なあだ名をつけられている。
確かに前世も合わせればそれなりの精神年齢だと自覚はするが、それでも「長老」はいかがなものだろうか?
もう一つはあの自称神が私に授けた「チート」だ。
当時はわからなかったが、「チート」の本来の意味は「ズル」あるいは「騙す」などの不正行為を指すらしい。
それが転じて現在では、「努力もなしで手に入った特別な力」を指すようだ。
この世界では「チート」を欲しがる人間がたくさんいるらしい。
しかし実際に「チート」を手に入れてしまった私からすれば甚だ疑問だ。
これは言うなれば偶々拾った宝くじが幸運にも当たり、懐に転がり込んで来た金で高い服を身に着け、周りの人々を貧乏人だと見下すようなものだ。そこに何の価値があるのか正直分からない。
加えて言えば、こんな力は荒事にしか使えない。
もしもこの情報網の整った世界で「力」がバレてしまえばろくなことにならないだろう。
はっきり言って、私の目指すところにはチートなど不要なのだ。
将来は安定の公務員――それがチートを貰い、異世界「日本」に転生した前世エルフの私の夢である。