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第四話「宇佐美取り込み作戦」

永正11年(1514年)

 1年近くに及んだ永正の乱であったが、まもなく決着が着こうとしていた。

 反為景派として決起した諸将であったが、残るは小田城に立てこもる宇佐美房忠のみとなっており、その兵もわずか500足らずであった。

 雪深い越後である事もあり冬の間は攻撃を控えられたとは言え、実に半年近くを援軍も無く守り抜いた宇佐美であるが、為景軍の総攻撃のときは近かった。





-長尾為景-

 俺の元に息子の道一が駆け寄ってくる。


「ととさま~、またお話して~」

「はは、道一は戦の話が好きだなぁ~」


 俺は未だに宇佐美が残っているが、戦で手傷を負っちまったせいもあり、春日山で療養していた。

 まぁ、どっちみちまだ雪が残ってるから戦をするには厳しいけどな。


 俺が家に居るのが嬉しいのか、道一はちょくちょく俺の所に寄ってくるぜ。


 それにしても道一は戦の話が好きなようだ。

 それもこの歳ながらにおぼろげにだが戦術や戦略を理解しているように思える。

 親馬鹿かも知れねぇが、息子は天才かも知れねえとすら思えてくる。



 ……正直言って息子にはそこまで期待していなかった。

 俺は早くに親父を亡くして必死にその背中を追っていた。

 そして俺はそんな厳しい道を、自分の息子に歩んで貰わないでも良いと思っていた。



「ねぇととさま、いま起こってる戦について話して!」

「おぉ、道一は父の活躍が聞きたいんか?よし、話してやろう!」


 俺は宇佐美と上条の蜂起から、現在宇佐美が城に立てこもっているが、まもなく俺が勝つだろうと言う事を話した。

 話を聞いていた道一は難しそうな顔をしながら言葉を発した。


「その宇佐美と言う人は、良い人なんだね!」

「……あぁ、そうだな。馬鹿が付くぐらい律儀な奴だ」


 宇佐美と同時に蜂起した上条は戦局が悪くなると、とっととこちらに降りた。

 主君と仰ぐ上杉定実もまた、蜂起したもののあっさりと膝を屈している。


 なのに、宇佐美だけはこちらの説得に応じようとしない。

 もはや意地だけで戦っているとも思えたが、あるいは主君に殉じようとしているのかも知れねぇな。


 少なくとも俺は定実殿を殺す気は今の所ねぇって言うのに、馬鹿な話だぜまったく。



「それだけ強くて良い人なら、味方にすれば頼もしいのにね!」

 道一は今度は表情を明るくして言った。


「本当だな、はははっ」


 とは言っても、もはや房忠の野郎は俺に降りようとはしないだろうな。

 これだけ反抗してしまっては、降伏するにしても宇佐美のために戦った兵達への面子もある。

 まったく、下手な義理や面子を重んじて宇佐美の名跡が途絶えちまうよりは素直に下れば良いものを……



 いや、まてよ。その線があったか!




「道一、悪いが父は今から仕事だ。外へでも行って遊んでな」

「はぁ~い、ととさま」


 若干不満そうな道一には悪いが、思い立ったら即動くのがこの俺だ。

 今日のところは我慢してもらうぜ。


「誰か、宇佐美の息子に書状を書くから届けてくれ」






 戦が続き心の荒んでいく為景は、史実ではこの後も小田城に立てこもる宇佐美の郎党のほとんどを討ち果たす事になる。

 だが為景の荒んだ心を癒す息子の存在が、今まさに歴史を変えようとしていた。




-道一丸-

 親父殿と話してきたが、上手く誘導できただろうか?


 義理と人情作戦の発動(何もしていないが)から良く考えてみたのだが、謙信の時代の有力な武将達は、そもそも今現在生まれて無い武将が多すぎるんだ。

(上杉二十五将で考えてみても長尾政景を始め、斎藤朝信とか本庄繁長とか水原親憲とか、皆まとめて生まれるの十年以上先だぜ!)

 結局は上杉四天王から攻めるのが早く、その中でも今の乱が終わった後に宇佐美定満から攻めるのが一番早いって結論になった訳だ。



 だが、ここで俺の頭を1つの考えが過ぎる。

 蝶が羽ばたくと地球の裏側で竜巻が起きる。バタフライ効果ってやつだ。



 簡単に言えばどんなに小さな事でも、その結果が思いもよらぬ事に繋がるって事なわけ。




 ……俺が身体を鍛えてる時点ですでに大きな変化だよなぁ。




 宇佐美定満ヤバクね?

 うっかり討ち死にとかしちゃうんじゃね?




 この考えに思い至った俺は、何とか宇佐美の生き残りに介入する方法を考えた。


 

 とは言っても現在家中を取り仕切るは親父殿。

 そして俺は6歳(数え年)の小僧。




 うん、無理!

 どこの良い大人が小学生になる前の小僧の言う事を聞くか? って話だ。



 そこで俺は、まずは親父殿との信頼関係を築く事から始める事にした。

 親子の義理と人情に訴える作戦だな。



 不幸にも(俺にとっては幸いだが)合戦で手傷を負った親父殿は家に居る機会が増え、接触するのにも困る事は無かった。

 


 確か小田城の総攻撃は雪解け以降だったはずと思い出し、時間があると判断した俺は、いきなり宇佐美の件を切り出しても不振がられると思い、まずは戦の話をねだる事から始めた。




 うん、これが実に参考になるんだよね。




 戦国を代表する下克上の雄、25歳にしてすでに数々の強敵と戦い、そして勝利してきた親父殿の話は、まさに戦の生きた教材であった。


 って言うか親父殿マジですげぇ!


 さすが謙信の親父だけあるぜ!


 うっかり話を聞くのが楽しすぎて、雪解け目前まで宇佐美の事を忘れていた事は内緒だ!




 まぁ、そんなこんなでようやく宇佐美の話を切り出せたわけだが、親父殿が急に動き出したって事は何かを思いついた事だろう。


 それにしても宇佐美の一族と言うのは実に義理堅い。

 この永正の乱に関しての房定の話もそうだが、その息子で俺の狙いの定満にも実に義理堅いエピソードが残っている。

 それは晩年、歳をとり戦で役に立てなくなった定満が、最後のご奉公とばかりに野心を隠す事が無い長尾政景を舟遊びに誘い、道連れにして溺死したという話だ。


 創作の可能性もあるし、正直言って有力な親族衆を道連れにされては困った部分もあるのだが、定満の義理堅さは良く伝わる話である。



 うん、まさに俺の考える義理と人情作戦にぴったりな武将じゃないか。



 ……頼むから生きていてくれよ、宇佐美定満!

宇佐美取り込み作戦が進んでいます。

とは言っても主に動いてるのは親父(為景)ですけどね!


転生はチートだ何だと言っても、小さい頃にやれる事なんて限られてますしね。

むしろ誰にも教わらずに幼少期から自分の人脈を築いていた織田信長が、なんともリアルチート野郎なことだと思いますけどね・・・

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