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第一話「俺の正体は?」

永正6年(1509年)

 越後守護代、長尾為景に嫡男が誕生する。

 幼名を道一丸としたその子が後の長尾晴景である。

 


 長尾為景は先年、越後守護である上杉房能を討ち、自らの傀儡となる守護として、その息子の上杉定実を擁立する事で越後の支配を固めていた。

 そんな中での嫡男の誕生だけに長尾家では連日祝賀ムード一色であった。




 しかし中には浮かれていない者もいる。

 それはこの祝いの張本人である長男為景と生まれたばかりの道一丸(主人公)の二名であった。




-長尾為景-

 親父(長尾能景)が死んでからも一向に敵討ちに出ようとしない所か、人を謀反人呼ばわりしようとした房能も討った。

 そして俺にも跡継ぎとなる息子が生まれた。

 後は越後の地盤を固めた後に裏切り者の神保(慶宗)のクソ野郎を討つだけの話。



 そう思っていたが、どうにも関東の様子が騒がしいように見える。

 この下克上の世の中、親兄弟が弓矢を合わせる事もあるって言うのに、弟の敵討ちに出る気か?上杉顕定よ。

 もはや力を持たないものは、力を持つものに討たれる。太田道灌の様に律儀に主家に尽くすものもいるが、伊勢宗瑞(北条早雲)や長尾景春を見ている顕定ならそれくらい解るだろうに……





 しかし、今の情勢で来られては不味い。

 本庄・色部・竹俣等を始め揚北衆は未だに反抗的だし、太田道灌が死んだ扇谷上杉家では顕定の背後を窺うにも力不足だ。

 せめてあと3年……いや1年でもあれば迎撃体制も整うだろうが、今攻められたら博打にのるか退くかの二択しかねぇ。


 ちくしょう、息子の誕生は嬉しいって言うのに何だってこうのん気に喜ぶ事が出来ねえんだかなぁ。



 そんな事を考えていると、俺を呼びに来た奴から声をかけられる。



「殿!何をしてらっしゃるのです?奥方様も道一丸様も殿をお待ちですぞ!」


「あぁ、悪い悪い。すぐ行くから待っててくれ!」


 まぁ悩んでいてもしょうがないな。攻めてきたら守るだけの話だ。

 今は子の誕生を純粋に祝おうか!






 後世において北条早雲等と並ぶ下克上の雄と知られる長尾為景であるが、この時まだ弱冠20歳。そして父が死んで家督を継いでからわずか3年。

 彼の戦いと苦悩に満ちた半生はまだ始まったばかりであった。






-主人公-

 気がついたら赤ん坊でした。

 そう言えば毘沙門天のおっさんに、誰に転生するのか聞いていなかった事を今さら気付いたんだが。




 俺はいったい誰なんだ!?




「おぎゃ~!おぎゃ~!」



 おっと、どうにも感情がストレートに泣く事につながるようだが、これも赤ん坊の本能って事だろうか。



 少し冷静に考えてみよう。おっさんは謙信本人にも家臣に転生させても無理だって言ってたな。

 って事は転生先として考えられるのは謙信の上位に立てる人物だな。



 まず頭に浮かぶのは上杉憲政だな。山内上杉家の家督を継ぐが、北条氏康に追われ、越後に移った後に謙信を養子にして関東管領の座を譲った人物だ。

 養父であり関東管領の威光があれば謙信もある程度は従うだろう。

 だがこれは無いと思う。何故ならもし俺が上杉憲政なら謙信よりも“上州の虎“長野業正を重用するだろう。この戦国時代で時間は何より貴重であるし、謙信の出現を悠長に待っている必要も無いからだ。



 次に思いついたのが上杉定実。越後守護であり、謙信が家督を継ぐことにも協力をしたと言われる人物だ。

 しかしこれも無いと思う。と言うのも上杉定実は謙信が当主となって2年後には病没している。しかもこの時点で諸説はあるが約80歳と言うのだから、仮に俺の転生によって病没が回避できたとしても先が短すぎる。

 もしも上杉定実ならば謙信の親父の為景に対してアプローチしなければいけないが、この時代は謙信の時代より越後もまとまっていなく、また為景は謙信よりも言う事を聞いてくれない気がする。



 3つ目に思いついたのが足利義輝。足利幕府の第13代将軍であり、謙信を越後国主と認めた人物。

 しかも自身の輝の字を偏諱として与え、上杉輝虎と改名する切欠となる男だ。

 ……うん、義輝なら年齢も若く死因も三好三人集等による襲撃で間違えないだろうから、襲撃を回避して越後に落ち延びれば十分に対抗できるし時間もある。

 その後に実力のある者に征夷大将軍を譲るとして自分はどこかに領地を貰って大名になるなり、何なら捨扶持を貰って剣術道場でも開いても良いかも知れない。

 それに傀儡の上に襲撃される事が前提とは言え、一時期でも将軍になれると言うのは日本男児として魅力的だ。



 きっと義輝に違いない、それしか考えられない。



「おぎゃ~!おぎゃ~!」

「あらあら、道一丸ったら、そんなに泣いてどうしたの?」


 泣いている俺の傍に美しい女性が寄ってくる。どうやらこの女性が俺の母親のようだ。

 女性は俺を抱っこしてあやしてくれて、俺は眠りに落ちそうになる。




 ……ん?道一丸?


 ふと母親(仮)が喋った言葉から、俺の名前らしきものが気になった。

 確か足利義輝の幼名って何とか丸だった気はするから間違えないような気もするけど、何か引っかかるな。

 むしろ謙信のもっと近くの存在でそんな名前の奴が居たような気がするんだが……


 何かが引っかかる中、泣き止んだ俺を抱っこしている母の元に、一人の女中が近づいてきた。


「奥方様、殿が参られます」

「あら、本当ですの?道一丸、父上が今来ますからね~」

 

 どうやら俺の父親が来るらしい。そう言えば父親に会うのは初めてだな。


 もし俺が義輝だとしたら父親は足利義晴。“管領”細川晴元と長くに渡って争い、義晴が反抗→追放→和解→帰京を繰り返すちょっとばかり情けない将軍だ。

 ゲームとかでも見た目がしょぼく書かれてる事が多いが……



「おぉ、そいつが俺の子か?」

「お前様、自分の子に対してそいつはないですわよ」


 現れたのは血気にはやる若武者といった感じの男性。

 しょぼいとか情けないどころか、若者らしい覇気に溢れ、年を重ねれば威風堂々とした戦国大名になるだろうと言った風体である。


 うん、絶対に足利義晴じゃないなこれは。





 って事は、俺はいったい誰なんだ?





「悪い悪い、色々と考える事も多くて、中々来れなかったからな。未だ自分の子と言う実感もあんまり無いんだ」

「まったく、しょうがない父親です~道一丸。……やはりまた戦があるのですか?」


 混乱している俺を挟んで親達が話をしている。

 なにやら戦とかきな臭い単語も出てきたぞ?


「あぁ、山内上杉の動きが怪しい。近々大きな戦になるかも知れん。高梨殿にもまた助力を頼む事になるかもな」

「父の援軍が必要なら私からも頼みましょう。ですがお前様は勝てるのですか?」

「俺は負ける気はないぜ。例え何度退く事になっても、最後には必ず勝ってみせる!お前と俺の後を継ぐその子の為にもな!」

「私はいつでも無事をお祈りしていますわ、為景様……」


 そうして人目(俺)もはばからずに抱き合う両親。

 このまま接吻か閨にでも行きそうな感じだ。


 俺の目の前でラブロマンスを繰り広げるのは止めてほしいが、重要な情報が得られた。

 父親の名は為景。これはおそらく長尾為景の事で間違いないだろう。

 母親は高梨氏の生まれ。そして俺はどうやら嫡男(長男)らしい。

 この事から考えられる結果は1つ。


 俺、長尾晴景だよ。

幼少編はなるべく早く進行するつもりです。

あまり力を入れすぎるといつまでたっても妹が登場しませんので……


晴景の生年は諸説ありますが、この話では永正6年説です。

上杉顕定が攻めてくるよりも生まれるのが前か後かは、調べても解らなかったので前にしました(爆)


 ちなみに足利義輝に転生パターンも面白そうですが、足利幕府の権威が戻って毘沙門天様もご立腹な展開になりそうなんで没になりました。

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