序章「毘沙門天の導き」
多くの方の歴史転生ものが大好きで、自分でも書いてみるに至りました。
初投稿で知識も怪しい部分もありますが、よろしければお付き合いください。
まったく、何でこんな事になったんだろうか……
時は室町幕府の権威も衰え、各地に戦国大名と呼ばれる実力ある武将が多く生まれた時代。
ここは越後の国にある“春日山城”。交通の要所であり、春日山の天然の要害を利用した堅城だ。
まぁ戦国時代が好きなら一言、長尾・上杉氏の居城だと言えばピンと来るだろう。
俺は現在のこの城の主であり、父“長尾為景”の時代からこの城で育った。
元々俺は俗に言う平成の世に生まれた、少しばかり戦国時代に憧れるごく普通の一般人だった。もちろん長尾・上杉氏と縁もゆかりも無い。
いや、普通と言うには子供の頃からちょっとばかり病弱であったかもしれないけど、しっかり自立して生活していたんだから普通と言っていいだろう。
30代も半ばにかかる頃には大病を患い、40になるやいなやポックリ逝っちまう辺りは、まぁ多少は不幸とも言えるかな。
そんなちょっとばかり病弱な俺が、日本で一番男達が輝いていた時代、つまりは戦国時代に憧れるのも、まぁおかしな話じゃないだろう。
おかしなのは死んだ後の話なんだ。
何故か死んだ筈の俺の目の前に僧兵のような格好をして“毘”の旗印を持ったおっさんがいた。
死後の世界って言うのもあるかもと思っていた俺は“毘”の旗と言えば上杉謙信の代名詞だけに、目の前のおっさんが謙信かと興奮したね。
だがおっさんは俺の予想の斜め上を超えた存在であった。
なんせこのおっさん、毘沙門天本人なんだから
しかも何で毘沙門天が上杉謙信のコスプレみたいな格好をしているかと言うと、上杉謙信のファンだかららしい。
マジでどうしようもねぇよ、このおっさん。
おっさん曰く、自分を毘沙門天の化身と言って大活躍した上杉謙信のことを、謙信が生きていた時代から、かなり気に入っていたようだ。
しかし後世まで武名が轟いているとは言え、結局上杉家は天下を取れていない。
それどころか豊臣秀吉には先祖伝来の越後の地から切り離されたばかりか、関が原では徳川家康に大幅に領地を減らされ、上杉鷹山による財政立て直しなどの美談はあるが、要は江戸時代の間を延々と貧乏生活が続くわけで散々である。
そんな上杉家に天下を取ってもらいたくて、おっさんも色々と考えてよくある転生ものみたいな事をやっているらしい。
これは神様達は大元となる今現在の時間の流れには手を出せないが、一度決まった過去の時代に手を出すのは良いらしくて、他の戦国時代ファンの神様もやっている事らしい。
言わば神様のスケールでやる信○の野望と言った所だろうか。
おっさんがここまでどんな事をやってきたかと言うと。
曰く、現代人を上杉謙信に転生させてみたが、領地経営などで一定の成果はあがったが、謙信の神がかった戦を再現できずに武田信玄に侵略されたらしい。
(川中島の啄木鳥破りを再現しようとしたけど、出陣したら武田軍がいなくて撤退するところを後ろから攻められて散々。しかも武田信繁や山本勘助を討ち取れずに一気に越後まで進行されたそうだ)
曰く、現代人を謙信の部下に転生させて、参謀として支えさせるようにしてみたが、頑固な所がある謙信を説き伏せる事が出来ない事のほうが多く、大きな変化は起きなかったらしい。
(村上義清らによる信濃への出兵要請や、上杉憲正による関東出兵要請を断れずに、転生者の提案する越後国内の富国強兵や越中・出羽方面の出兵を提案しても断られたようだ。)
ならば他に手が無いかを考えて、1つの案が浮かび、転生の順番待ちをしていた俺の魂を呼んだそうだ。
なんでも歴史上の人物に転生をする為には、ある程度その人物に近い魂で無いと魂の親和性が取れずに、今の記憶を持ったまま転生する事が出来ないそうだ。
俺はさっきも言ったが長尾・上杉家には縁もゆかりも無いが、どうやら転生させるその人物に近いらしく、なおかつ戦国時代好きであるため都合が良かったそうだ。
拒否権もあるらしく、現代への転生待ちに戻るだけらしいが、戦国時代に憧れる俺はその時代に生きられると聞いて、一も二も無くその話に飛びついた。
誰に転生するかも良く聞いていない内に……
そして話は春日山城に戻る。
この城の現在の主である俺の前に、甲冑で全身を固めた“妹”が跪く。
「兄上、これより出陣いたします」
俺、長尾晴景。
病弱で穏和な為に謙信に当主の座を追われる兄。
妹、長尾虎千代。
戦の天才で通称“軍神”。後の上杉謙信。
まったく、何でこんな事になったんだろうか……