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黙り込んで座っていると、扉を開ける音が聞こえた。バタバタと何人かが部屋の中に入ってきたのだろう。チラリと見ると、意識の無い父を運び、甲高い声を発する母を引きずって扉の奥へ消える人達がいた。
私は、もう平和な日には戻れないと悟った。
しばらくすると、部屋には3人だけになった。
私と、坂本さんと、篠原という男。
私はただ黙り込んで考えた。
これから私はどうなるのかという事を。
体を売らなければいけないのか。
それとも臓器を売るのか。
私の道はわからない。ただ、一つだけ分かるのは、絶望的だという事だけ。坂本さんはけろりとした顔で投げられた書類を綺麗に束ねている。
私はどうすればいいのか分からなくなり、ただ黙って俯いていた。
すると、篠原という男が
「坂本、席外せ」
と、静かに告げた。坂本さんは
「いじめないでやって下さいよ。」
そう静かに告げて、
「橘さん。またあとで。 」
と、私に言い残し、扉の奥へと消えた。
そして部屋には2人だけ。
私と、篠原。
空気が重たい。オーラがすごく冷たいのだ。
私もあの2人のような運命を辿るんだろうか。
そう思うと微かに体が震えてきた。
篠原は胸ポケットからタバコを取り出し、わたしの様子を伺っている。
何回か煙を吸い込み、短くなったタバコを灰皿へと押し付けながら篠原が話し出す。
「高校生には、ちと辛い現実だな。だが、お前の親がやった事だ。ケツは拭いてもらわないと困る。どうだ?払えるか?1000万円。」
.........。
この男はなんて事を言うんだ。
払えるわけが無いだろう、と思いながら、それを口にできるわけもなく、私は首を横に振った。
何もかもが溢れ出そうで、堪えることに必死だ。
そんな事を知ってか知らずか、
「ん。まぁそうだろうなぁ。」
篠原は少し優しく言いながらクスリと笑った。
すると、私が座っている目の前に膝をつき、顔を上げさせられた。その瞬間、目に溜め込んでいた涙が頬を伝う。
「.........。」
篠原は何も言わなかった。
私も言わなかった。と言うよりも、何も言えなかったと言った方がいいのだろうか。
篠原は少し驚いた顔をして、綺麗な顔を歪めた。
流れていく涙を掬っていく。
しかし、私の涙は枯れることを知らなかった。