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私は躊躇いがちに車に乗り込む。
これでいいのか。
本当に無事帰れるのか。
そんなことをふと思ったが仕方ない。
否定できない空気があったのだ。
黒いシートに身を沈め、短く息を吐く。運転席へと座り込んだ坂本さんの頭を見つめ、小さな声で話しかけてみる。
「あの......坂本さん。」
「はい。なんでしょう。」
彼は優しい声でそう言った。私は続けて、
「話というのはなんですか?」
と、切り出した。彼は静かに咳払いすると話し始める。笑いを含まない、真剣な声だ。
「橘さん。貴方のご両親の事なんです。お二人は仕事が長続きせず、収入が安定していない。それにもかかわらず、ギャンブル、酒、浮気をお互い繰り返しているご様子ですね。」
私はなぜそんなことがばれているのかに驚き、返事を忘れた。坂本さんはそれでも続ける。
「私は先程とある会社の社長秘書と言いましたが、それは表の顔。裏では、まぁ、一応許可を得た金融屋の副社長なんです。まぁ、またその裏があるんですが、それは社長から話がありますので。」
坂本さんはクスリと笑い、
「信じられないでしょう。」
と言った。私は、
「いえ、理解しようとしているだけです。」
そう言って窓に目を向けた。
親がそう言う事をしているのは薄々気付いていたから、そういう話をしてくる大人が居ても可笑しくないと思ったのだ。