やさしさ
――プルプル、プルプル
初期指定のまんまの着信音がなる。
(誰からだろ)
秀は画面に表示された電話番号を見る。
(知らない番号だ…)
秀は不思議に思ったが電話に出る。すると
『栗山くん!!私、ハァまつりだよ。』
と。確かにまつりの声だった。秀は驚いたが小さくガッツポーズをした。
『お願い…ハァハァ、栗山くん。今す…ハァ… 今すぐ駅まで来て、今すぐハァハァ。』
息を切らしたような声に、秀はびっくりする。 まつりは死の恐怖に緊張して、軽い発作を起こしたのだ。
そんなことを知らない秀は、のんきに
「そーんな息切らしてどーしたの?」
と聞く。しかし返事がない。
「まつりちゃん、怒ってんの?」
これにも応答がない。
「まつりちゃん!!まつりちゃん!!大丈夫!?」
心配した秀は、部屋着のまんまで家を飛び出した。
秀の家からまつりが降りる駅までは2駅だった。秀は全力疾走をする。
まつりのいる駅に着いた秀は、辺りを見回す。 販売機の前にうずくまるまつりを見つけた秀は、無意識に
「まつりちゃん!!」
と叫んでいた。
まつりは顔をあげ、出来る限りの笑顔で秀のことを見た。
秀はまつりに近寄る。
「まつりちゃん、立てる?」
秀の呼び掛けにまつりはうなずいた。
やっとやっとその場から移動し、まつりの家まで来た二人であったが、まつりが家の鍵を忘れていた。家には誰もいない。
「嫌じゃなかったら、うちにおいで。俺、一人暮らしなんだけどそれでよかったら…」
秀のやさしさに、まつりはうなずいた。
二人は駅まで戻り、電車に乗った。2駅乗り過ごし、電車を降りると秀が住んでいるアパートまではすぐだった。
秀が鍵をあけ、二人は中へ入る。
部屋の真ん中には、制服が脱ぎ捨ててあった。 「ごめんごめん。急いで家飛び出したから。」 「ううん。こちらこそごめんね。」
「落ち着くまでベットで休んでていいよ。シーツは今交換するから。俺のベットはやだ?」
「ううん。平気。別にシーツもこのまんまでいいよ。」
「そっか…」
まつりはベットに横になった。
どうして秀がなにも聞いてこないのか少し気になったが、そのことは流した。