彼氏はつくらない
「星、今日もきれいだな。早く窓越しじゃなく
て、直接星をみたい。そーしたらもっときれいなんだろうな…。」
佐野まつりは、そんなことを呟きながら、病室の窓から空を見上げていた。
「まつりちゃん、明日にはもう退院でしょ。もう 少しの辛抱じゃん」
向かい側のベットの綾瀬千晴が、呟きを拾ったのか口をとんがらせながら言った。
確かに、まつりは明日には退院できる。しかし、病気が治った訳ではなかった。
―余命1年。もう永くはないのだ。それを知ったまつりとその家族は、残りの1年をなるべく普通に生活することを望んだ。
その事を千晴は知らない。
「ちはるんも来週退院でしょ?もうすぐじゃん。」
「もー、まつりちゃんはわかってないなぁ。それじゃ遅いん だよ。せっかく手に入れたのに、お笑いライヴいけないんだよ!!」
「ほんとちはるんはお笑い好きだね。でも我慢してお笑いは テレビで見ましょう!!」
「うわー、その言い方駒野っちみたい。うけるー!!」
「でしょ?真似したもん!!」
まつりがそう言ったのと同時に、部屋のドアが開いて、看護師さんが入ってきた。
「うわー、駒野っちだ!!」
千晴がそういうと、駒野奈央は
「もう遅い時間です。早く寝ないと怒っちゃうよ?」
ととぼけた顔で言った。
「はーい」
まつりと千晴は、声を揃えて返事をし、ゆっくり目を閉じた。
不快なアラームが鳴り響いた。寝ぼけていたので、はっきりは覚えていないが…
頭を起こし、向かいのベット を覗いて見ると、ちはるんの家族と彼氏が泣きじゃくっていた。
「嫌だよ千晴、おいてかないでよ」
「千晴、俺だよ。死んだふりは寄せよ。死んだわ けねーよな。退院したら遊びに行くって約束した じゃねーか!!おい、千晴!!」
突然のことで、私の頭のなかは真っ白になった。
ちはるんが死んだの?あんなに元気だったのに?私と違って余命宣告なんて受けてなかったよね?完治したって言ってたよね?
なんで、なんでちはるんが…。
そんなことを考えていたら、いきなりちはるんの彼氏が近づいてきた。
「あなたがまつりさんだよね?」
そう言いながら手紙を差し出してくる。
「これ、千晴からあなたに手紙。」
ちはるんの彼氏は涙をぬぐいながら話した。
私はちはるんの彼氏から手紙を受け取った。
それから何時間かがすぎ、退院の片付けが終わった私は、お父さんの車のなかで考え事をしていた。
ちはるんはなんで彼氏を作ったんだろう。悲しむ人が増えるだけじゃん。不幸になるひとが増えるだけじゃん。
私は絶対そんなことをしない。彼氏はつくらない。
そう心に誓った私は、まだ未開封のちはるんからの手紙を胸に当てた。