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2-2

リザの髪型をツインテールに変更しました(1-1の改)。

ツインテールだと書き直しただけなので、読み直しはしなくても大丈夫です。

途中で変更したことで混乱なさったら、申し訳ありません。


 バシャッ!


 水球が割れ、水をかぶる音がする。

 噴水の周りに集まる生徒たちも目を閉じて身体をすくめた。

 その場がしんとなる。

 一拍の沈黙の後、気怠げな吐息がリザの思いがけず近くで吐きだされた。


「……冷た」


 つぶやいたのはリザではなく、低い声の持ち主だ。

 リザはむしろ温かかった。頬も額も硬くて温かなものに押しあてられ、頭も背も力強いものにしっかりと支えられている。

 しかも濡れていない。

 意味がわからずそろりとまぶたを開いたリザは、突然ぐいっと後方へ押しやられた。そのときになってようやく水の雫が降ってくる。けれども降ってきた水滴は二、三滴だ。小さな雫が、額や頬を流れただけだった。

 ずぶ濡れなのは、眼前の男の方だ。シャイアは長い前髪からぼたぼたと水滴を滴り落としていた。肩も濡れ、シャツが滲みを広げている。

「……! おっ、お客さまっ、何やってんですかっ!?」

「何って、庇えるところにいるのに女を濡らす訳にはいかないだろ。後味が悪い」

「だからって身体を張って魔法に割りこむなんて、無茶苦茶ですよ!」

「失敗しても濡れるだけ、なんだろう? 実際、多少痛かったが濡れただけだ」


 ぶっきらぼうに返されるが、リザは信じられない思いで立ち尽くした。

 確かに近距離だったし、操る水の規模も小さく球体も壊れたので、水中に飛びこんだ時ぐらいの衝撃ですんだ。だが水球の高度が高かったり、水量が多く形が崩れなかったりすれば、運が悪ければ死んでいる。

 そうでなくとも水を鋭い矢に造形したり、さらにそれを凍らせたりすれば、立派な攻撃魔法となるのだ。

 シャイアがいくら魔法に疎くても、攻撃魔法の存在ぐらい知っているだろう。事前に濡れるだけという情報を得ていても、一般人が魔法に自らをさらす勇気はふつうはない。それを良く思っていない相手に対し、シャイアは躊躇せず行ったのだ。

 リザは茫然とシャイアを見あげる。

「……リザ! 何をしているのっ」

 ぼけっと突っ立っているリザの耳にささやきながら叱咤したのは、レティーだった。

 その言葉で我に返ったリザを一瞥すると、レティーはすぐさまシャイアへ頭を下げる。

「申し訳ありません。わたくしの監督が至りませんでした。ほら、エイダも」

「ご、ごめんなさい!」

 魔法を失敗した後輩も横に立たせ、謝らせる。

「ああ、別に……」

 中途半端な許しを口にするシャイアに、レティーはハンカチを取り出して近づいた。

「本当に失礼をいたしました。どうぞ、わたくしに水を拭わせてくださいませ」

「いや、いい。自分で」

「あっあっ、わたしも拭かせてください!」

 断るシャイアの頭と肩を、レティーと後輩のエイダが問答無用で拭きにかかる。

「あ、それならあたしも……」

 リザがあわてて加わろうとすると、再びレティーが耳打ちしてくる。

「あなたには、まず先にしなければならないことがあるでしょう」

 眉をしかめて忠告され、リザは一瞬考えてからハッとなった。

 ハンカチから逃げ気味のシャイアの服の袖を引っぱって気を引いたリザは、おずおずと口を開いた。

「あ、の、ありがとう、ございました」

「……ああ」

 礼を言われるとは思っていなかったのか、少し驚いたようにシャイアはリザを見おろす。

 その結果、レティーたちにやんわりと抵抗していた動きがしばし止まった。

 この隙にとレティーがせっせと拭きだし、頬に張りついたシャイアの前髪を視界の邪魔にならないよう掻きあげる。すると──、


 時間が止まった。


 と錯覚をしそうなほど、皆の動きが止まる。レティーやエイダ、周囲で微かにざわめきながら心配そうにしていた他の後輩たちに加え、リザもだ。目が釘付けになった。

 シャイアも束の間固まったが、すぐに「しまった」というふうに顔をゆがめる。

 その渋面さえ、目を奪う。

 ボサボサの前髪が隠していたのは、見惚れるほどの美貌だった。

 どんな些細な箇所さえも精魂をこめて造形したかのように整った顔立ちは、精緻だが繊細にはならずに男らしい。どちらかといえばきつめの双眸で唇は無愛想に引き結ばれているのに、どこか甘い雰囲気を含んだ容貌だ。その甘やかさが、ちょっとした眼差しひとつに色気を漂わせる。濃い金色の瞳には、妖しいまでの艶めかしい光を宿しているように見えた。今は手入れのされていない頭を整えれば、白金の髪が彼の顔を飾り、近寄りがたいほどの華やかさとなるだろう。清冽な美貌のレンスティードとは対極の顔容だった。

 そして何より若い。

 顔を隠していた時には二十代半ばに思えたシャイアは、顔を見ればまだ青年に達しきれていない十代後半だとわかった。リザとそう変わらない、十七、八だろう。体つきを確かめてみれば、背こそ高いが痩身にしても幅がついていってないのに気づく。

 ぽかんと凝固する生徒たちの中で一番に正気に戻ったのは、レティーだった。貴族の令嬢らしい上品な微笑を唇に浮かべ、拭くのを再開する。

「──水分がある程度拭き取れましたから、風と熱で乾燥させますわ。その魔法はここでは使えませんから、こちらへどうぞ。皆さんは、頭の中で一通りおさらいしながら待っていてくださるかしら」

 教え子たちに言いおいて、レティーは魔法実技校舎へシャイアを誘う。

 誰よりも長く接していたために驚愕も人一倍だったリザは、レティーに抜け駆けされそうになり、さすがに我を取りもどした。

「ちょっ、レティー! あたしも行くわよ!! だから置いてくな──っ」

 素直に従うシャイアを連れてさっさと校舎へ向かうレティーを、リザはあわてて追う。シャイアが去るとようやく石化が解けた後輩たちのざわめきを背に聞きながら、シャイアの隣に並んだ。そしてシャイアを挟んで歩くレティーへ、牽制の視線を投げておく。

(レティーめ、さっきは押しつけたくせに、心変わりしやがったわね)

 自分たちと変わらない年で国務官になったのなら、とびっきり優秀だということだ。その事実だけでも、お近づきになっておくにこしたことはないと考えたのだろう。


 女生徒二人に挟まれ両手に花の状態であるはずの国務官の後ろ姿は、不思議なことに、どうにも連行されているようにしか見えないのだった。


レティーが再び参戦です。

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