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今週も楽しんでいただけると、幸いです。
とはいっても、玉の輿狙いの使えないヤツだと烙印を押され、何事もなかったように談笑を続けられるほど、リザはまだ大人ではなかった。
顔はこわばり、口からは校舎の説明しか出てこない。
シャイアも無駄口を叩かず、質問もしてこなかった。だんまりである。
さすがに逃走防止のために隣を歩くのはやめなかったのだが、互いに険悪な気持ちを隠さなかったので、それが余計に雰囲気を悪くしているようでもあった。
硬い空気が漂う二人は自然と早い歩調になって、あっという間に東校舎と西校舎を制覇した。運動場は渡り廊下から見渡すだけにしたので、残りは魔法実技校舎と食堂のみだ。
魔法実技校舎へやはり無言で向かっていると、黙りこんでいたシャイアがふいに口を開いた。
「あれは?」
シャイアが視線で指し示したのは、中庭の噴水に集まっている生徒たちだ。
見ると、魔法実技の練習をしている。明日の実技試験に備えてだろう。
女子生徒が噴水の水を操って人の頭ぐらいの球を作り、万歳をした両手の上高く浮かせていく。少しばかりふらついているが、あの様子ならば可をもらえるだろう。
「試験のために練習してるんです」
簡潔に答え、次の目的地へ顔を戻す。
すぐに興味を失うだろうと思ったからだが、シャイアは立ち止まった。
「教師の目のないところで、魔法の練習なんかして危なくないのか」
二歩先に進んでいたリザも足を止めた。
さっきよりもきちんと生徒の集団を見渡す。そして答えた。
「大丈夫ですよ。やってることは基本ですし、あれぐらいなら多少失敗しても濡れるだけです。本当なら、魔法は魔法実技のための校舎でって決められてるけど、基本程度なら優秀な上級生が監督していれば、先生もお目こぼししてくれますから。──ほら、あそこに学院長室にいた子がいるでしょ。あれが監督役です」
指さすのは黒髪の女子生徒、レティーだ。練習中の下級生を熱心に見守っているため、こちらには気づいていない。
「……へえ」
疑問が解消されても、シャイアは珍しいものに惹きつけられるように魔法を凝視している。
(そういえば、魔法に慣れてこいって言われてるんだっけ)
乗り気ではなさそうだったが、目の前にして少しは興味がわいたのかもしれない。
魔法が好きでこの学校に入学したリザは、頑なになっていた心をほんのわずかだが和らげる。
さっきまでなら間違いなく素通りしただろう場へ、リザはちょっとばかり譲歩して誘ってみた。
「……見学してみますか?」
シャイアが素直にこくりとうなずいたので、リザも気をよくして噴水の方へ進む。
(ついでにレティーのヤツをとっちめてやろうかしら)
近づきながら思うが、考えるだけに留めることにする。
今は案内中だ。仕事をきっちり終わらせることが最優先である。
そうでなければ、すでに国務官であるシャイアをまっすぐに見て、玉の輿を否定する権利さえ手に入れられない。
リザは少なくとも頼まれた案内役をしっかりと終えてから、誤解を解こうと決めていた。
一度はつい憧れの君レンスティードの誘惑に負け、客人に対して礼を失したのだ。冷静になってみれば、初対面の相手に同僚を紹介しろと迫るのはふつうに無礼である。
リザだとて、シャイアと組む魔法使いをすぐさま紹介するよう強要するつもりは毛頭なかった。シャイアと知人程度の縁を持っておいて、追々つながりを得ようと思っていたのだ。それこそリザが国務官になったころに誼を結ぶ気の長い計画だった。
その計画はすでに頓挫したも同然だったが、それとこれとは別である。手段は同じでも目的は違う。誤解されたまま放っておくのは、リザの誇りが許せない。だが感情にまかせて暴走した直後では、シャイアはまともに意を受けとってくれなかったことだろう。言い訳だと評されるのがオチである。だからこそ、ある程度は使える人間だと知ってもらうことが、彼の耳へリザの言葉を正確に届ける第一歩なのだ。──誰でもできる案内程度なのが心許ないところではあるが。
「レティー、ちょっといい?」
でも少しだけびっくりさせてやろうと、レティーの背後に到着してから出しぬけに声をかけた。
「リザ!?」
案の定、リザの接近に気づいてなかったレティーはビクッとしながらふりかえる。
そこで、さらに予想外なことまで起きた。
「えっ、リザ先輩!?」
水球を頭上に掲げていた下級生の女子までリザの登場に驚き、魔法のコントロールを失った。リザに注目した後輩の意識の向かうままに、水球が飛んでくる。
「きゃあああ!」
悲鳴をあげ取り乱す後輩は、完全に水球の制御をできない状態になっている。
リザもとっさのことで動けない。
動けたとしても、水球の距離が近すぎたため、避けきれなかっただろう。防御魔法は、動揺で思考が空転して発動させられない。
かろうじて顔を背けて頭を右腕で庇ったリザは、ぎゅっと目をつぶった。