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 リザに希望が残されているとすれば、シャイアと組む魔法使いぐらいだろう。

 出世しそうな、あるいはそこそこの地位にある魔法使いならば、紹介してもらおう。

 モサ男と組まされる時点で魔法使いの方も微妙な予測がたつが、リザは駄目もとで相手のことを訊いてみた。

「じゃあ、相手の魔法使いも新人の方ですか? 魔法使いならあたしの知ってる方かも。相手のお名前は?」

「ああ、知ってるんじゃないか。ここの卒業生だと聞いた。レンスティード・ウィルザークだったか、確か」

 その名前が出た途端、一気にリザは舞いあがった。


「ほ、ほ、ほ、ホントにっ!? レンスティードさま!?」


「あ、ああ……」

 身を乗りだし今にも襟首をつかみあげてきそうな勢いのリザから、シャイアは一歩退いた。危険物を前にして距離をとろうとするかのように、上半身が反らされる。

「レンスティードさまと組むなんて……」


 レンスティード・ウィルザークは、王立魔法学院で常にトップを維持していた天才だ。

 その頭脳もさることながら、魔法使いとしての腕は学生時代から王宮魔法使いと遜色ないと言われていた。六年生の時に国務官試験を受験、卒業と同時に国務官となった俊英である。筆記試験では首位こそエンディル公の子息に譲ったが、魔法実技試験では堂々のトップだ。

 また、伯爵家の三男で領地相続こそほぼないものの、血筋の良さと父や兄たちが王宮でそれぞれ手堅い地位にあることは大きな魅力だろう。才能と家格のうえに身内のコネまであれば出世しないはずがない。

 加えて、容貌は天の使いかと見まがうような美しさである。光を紡いだような淡い金髪は絹糸の艶としなやかさ、長いまつげはけぶり、影の落ちる双眸は薄い菫色をしている。鼻梁や唇だけに留まらず、額や頬、貴族的なすらりとした身体の線にいたるまで、名工が身命を賭して作りあげた芸術作品のような佳容だ。

 これだけ華々しい人である。在学中は知らぬ者がない有名人だった。まさしく学院の華で、特に女子には熱狂的な支持があり、ファンクラブまであったのだ。


 レンスティードが在学していた頃の麗しい制服姿を思い出し、リザは夢見心地になる。

 頬を染め瞳を潤ませるリザからさらに一歩の距離をとったシャイアが、立ち止まったのを気にするように進行方向を一瞥して促した。

「……案内は?」

 しかしリザは夢の住人の表情のままで、シャイアに顔を向けた。ただし視線はぼうっとしていて、シャイアを見ていない。


「……。……。なんて……なんて、うらやましいのっ、レンスティードさまと組めるなんて──!」


 叫ぶと、急に動くことを思い出したようにシャイアに迫る。

「ちょっ、どういうことですか!? 素人があのレンスティードさまと組むことになるなんて! しかもあなたみたいなやる気のなさそうな人がっ。なんかイロイロ無理でしょ? というか、むしろあたしが組ませてほしいんですけどっ」

「……まず国務官試験に合格しろ」

「もちろん合格する気満々ですが! でもそれじゃ、あたしが合格する前にあなたと組んじゃうじゃないですか──!!」

「そこまで知るか!」

 無茶苦茶を言いながら迫ってくるリザから後退していたシャイアは、壁に背がつきそうになるのを横目で確かめると進行方向を変えた。ついでに後退を前進にし、案内先方向へ逃げた。

 リザが超速歩きのシャイアを走って追いかける。

「そこをなんとか!」

 学校案内の任務を忘れてしつこく食いさがる。

「新米の俺にどうしろと言うんだ!?」

 シャイアは一段飛ばしでどんどん階段を上った。

 リザは一段ずつ駆け上がる。

「くっ、そうですね、ペーペーですもんね。……よしっ、じゃあ!」

 二人は、踊り場をぐっと踏みきって勢いよく曲がる。

「レンスティードさま紹介してください、紹介っ」

(きゃーあの麗しのレンスティードさまとお近づきに!? 鼻血出ちゃうかも!)

 レンスティードを紹介されている場面を想像し、リザは頬を染めてにんまりする。

(こんな可愛い後輩がいたんだね、慕ってくれて嬉しいよ。なーんて!)

 二階に上りきると、色よい返答を期待して隣を見る。だがシャイアはいない。

(しまった! また!?)

 ギョッとして戻ろうとふりむいたリザは、踊り場に探す相手を見つけた。しかしホッとできずに、固唾を飲む。


「豪商デンゼル家の娘リィザ」


 気怠げな様子は消え、まっすぐに見あげてくる。声は平坦で、冷ややかですらあった。


「何不自由ない暮らしぶりのくせに、爵位までほしいのか?」


「え、爵位……?」

 リザの実家が、国内だけにとどまらず外国でも手広く商売する商家デンゼルだとなぜ知っているのかと疑問に思うより、シャイアの雰囲気と次の言葉に戸惑う。何を言っているのだろうとポカンとした。

「それなら学校に通って国務官になるより、花嫁修業でもした方が早道じゃないのか。デンゼル家の力とコネがあれば、それなりの貴族に嫁げる」

「っ! 違っ、あたしは」

 玉の輿狙いで国務官を目指していると言われ、リザは反論しようとした。

 しかし言葉は続かない。玉の輿狙いでこそないが、それなりの地位に就いている者か出世しそうな者とのコネはほしいのだ。目的こそ違うが手段は変わらないことに気づくと、反駁を呑みこむ。シャイアからすれば、きっと同じことだろうからだ。

「案内ひとつできないんなら、国務官なんか務まらないだろ」

 冷たく切り捨てるシャイアに、だからリザはこう断言する。


「……できます!」


 案内だって、国務官試験合格だって、その先にある王宮仕えだってちゃんとできると、すべてをひっくるめて宣言した。

「さあっ、行きましょう」

 あとは行動で証明する。

 リザは気合いを入れて案内を再開した。


続きは、また来週。

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