プロローグ
お久しぶりです。
あるいは、初めまして。
新しい物語を、どうぞ楽しんでくださいませ。
ヴァンダルド王国の王立魔法学院は、歴史ある学校だ。本校舎は建造当初の面影を濃く残し、華美ではないものの細かな彫刻がされた壁や太い白亜の石柱が並ぶ様は、神殿のごとき荘厳さと静謐がある。
その廊下を急ぎ気味に歩いていたシャイアは、少し前を行く少女たちの会話を聞いて呆気にとられた。
「ちょっと! なんでレティーまで来んのよ!?」
小柄な方の女子生徒が、隣の少女に噛みつく。
「あら? リザみたいな乱暴者に、王宮からの客人の世話なんて任せられないわ」
大人びた後ろ姿の女子生徒は、容姿の印象どおりの余裕であしらう。
「アンタは学長に呼ばれてないでしょ!」
「お客様は、今年度の国務官試験主席の方だと噂で聞いたわ。それが本当なら、興国六家のエンディル公ご子息だということよ。……抜け駆けは許さなくてよ、リザ」
「それはこっちの台詞よ!」
一息で言い返した少女は、呼吸を整えるためにつかの間沈黙した。
沈黙の間に、少女二人の視線が意味深に絡みあう。
「……あのレンスティードさまさえ抑えて主席を取った男」
「……間違いなく出世する名家の嫡男」
ぼそりとつぶやきあう彼女たちからは、異様な気配が滲み出ていた。
((──逃がすものか!))
という内なる声が、通りすがっただけのシャイアにさえ聞こえてきそうだ。運悪く正面から行きあった学院生の少年が、彼女たちに怯えて大きく迂回している。
シャイアはため息をついた。
王宮からの客人とはシャイアのことだ。どんな思惑があるにしろ、彼を見れば当てが外れたと諦めるだろう。
それにしても、と醒めた眼差しで女子生徒たちの背を見やる。
十代半ばの少女とはいえ、中身はすでに女なのである。げに怖ろしきは女なりと考えているシャイアは、これから世話になるのが女子生徒だと知って頭痛がした。
それが、そこら辺の男より勇ましく行軍するかのように歩く女二人だと知れればなおさらだ。
回れ右して帰りたくなったが、そうもいかない。これも仕事だ。
先に学院長室へ乗りこんだ女子生徒たちから幾ばくか遅れ、シャイアも入室した。
他に書いていたモノが、あまりに書けないので、過去に書いた作品を投稿することにしました。
……このままだと、前回投稿した時から半年とか一年とか小説をアップすることができなくなりそうだったので、取り急ぎ中編ものを。
よろしくお願いします。




